不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第25回目のテーマは、11シーズンぶりにスクデッドを獲得したACミラン。「ACミランが最初に魅了された海外クラブ」だという福西崇史氏に黄金期から現在に至るまでの思い出を振り返ってもらった。
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ACミランが11シーズンぶりに19度目のスクデッドを獲得しました。表彰式にはズラタン・イブラヒモビッチが葉巻をくわえてシャンパンを手にして登場しましたが、あれが似合うのはイブラヒモビッチだからですよね。
40歳のシーズンで22試合に出場して8ゴール。葉巻のパフォーマンスを観客が認めるくらい規格外の存在で、数字でも多くのサポーターの心を引きつけているんでしょうね。もう化け物ですよ。Jリーグでも40歳で現役を続けている選手はいますが、あの高いレベルでこれだけの成績が残せる理由を知りたいくらいです。
久しぶりに優勝したミランですが、ボクが最初に魅了された海外クラブでもあるんですよね。ボクが出会ったのはルート・フリット、マルコ・ファンバステン、フランク・ライカールトというオランダ人トリオとバレージをはじめとするイタリア代表が在籍していた1980年代末から1990年代前半にかけての黄金期でした。
1989年、1990年にトヨタカップを2連覇しましたが、その当時に中学生で、サッカー少年だったボクは衝撃を受けたわけです。
すごい選手たちが揃ったチームにあって、ボクが釘付けになったのはフリットでした。やっぱり、まずはあの髪型ですよね。ドレッドヘアーのサッカーを見たことがなかったからインパクトは大きくて(笑)。でも、それでプレーがしょぼかったら気にもとめなかったと思うんですけど、あの体の大きさで足元がすごくうまい。見ているだけでワクワクしてくるようなプレーをする。一気に魅了されましたよね。
当時はセリエAが世界最高峰のリーグだと言われていた時代で、ユヴェントスやインテルといった強豪クラブも強かったですが、ファビオ・カペッロ監督が率いた時代のミランがやっぱり輝いて見えましたね。
1998-1999にリーグ優勝した後はタイトルから遠ざかる時期がありましたが、2002-2003年はチャンピオンズリーグ決勝でユヴェントスをPK戦で破って優勝。2トップがフィリッポ・インザーギとアンドリュー・シェフチェンコで、その控えがリバウドとヨン・ダール・トマソン。それでトップ下にルイ・コスタがいて、3ボランチの右がガットゥーゾやアンブロジーニで、左がセードルフ。そして、イタリア代表だったアンドレア・ピルロを中盤底の中央に置いて、彼の長短のパスからチャンスをつくっていましたよね。
ピルロをそこに置いたカルロ・アンチェロッティ監督(現レアル・マドリード監督)の手腕はすごかったですし、それが可能なメンバーだったとも思いますよね。インザーギ、シェフチェンコ、ルイ・コスタの3人で攻め切れるから、ピルロを相手のプレッシャーがかからない場所に置くことができたし、守備になればピルロの分までガットゥーゾとセードルフが走り回って相手を潰す。DF陣も中央がマルディーニとネスタで、右がシミッチで、左がコスタクルタやカラーゼでしたからね。ピルロを生かせるメンバーがいましたよね。
いまで言えばパリ・サンジェルマンが近いかもしれませんね。メッシ、ネイマール、エムバペの3人で攻めれちゃう。ただ、守備のところが違ってPSGは脆さもあるわけで。あの当時のミランは守備のところは、カテナチオと言われたイタリア代表選手たちが揃っていたから1点を奪えば勝ち切っていましたよね。
2003-2004シーズンはリーグ優勝し、2004-2005シーズンはCLでリヴァプールに敗れて準優勝。2006-07シーズンはカカが大活躍してCL優勝。アンチェロッティ監督のもとで着実な結果を残していましたが、ロナウジーニョやデビッド・ベッカムを獲得しながら無冠に終わった2008-2009シーズン限りでアンチェロッティ監督が退任。いま振り返ると、このあたりからクラブとしてのレベルが下がりはじめていたなという感じですよね。
それでも2010-11年はバルセロナから獲得したイブラヒモビッチが、32試合で28得点のとんでもない成績を残したこともあって久しぶりの優勝。今シーズンのタイトルは、このときの優勝以来で、それをもたらしたイブラヒモビッチがまたミランのユニフォームを着て優勝に導いたというのがドラマですよね。
ただ、この後は凋落の一途でしたよね。2013-14シーズンにセリエAで8位になると、翌シーズン以降もCL出場圏内には戻れなくて。CLに出ているのが当然というクラブでしたからショックでしたよね。
ミランもオーナーがベルルスコーニ氏から中国資本に変わるなど、ゴタゴタした部分があったんでしょうが、それだけではなくリーグ全体のレベルが昔に比べて落ちた影響もあったのではないかと思います。
2010年代になって世界最高峰の座はスペインのラ・リーガであったり、イングランドのプレミアリーグに取って代わられ、国外のいい選手やいい監督はどんどん他国リーグに流れてしまい、最先端のサッカーから置いてかれてしまった。
時代の流れを感じるのは、イタリア代表にも表れていますよね。昨夏開催のEURO2020は優勝しましたが、W杯は2018年ロシア大会に続いて、2022年カタール大会も出場権を手にできませんでした。
イタリア代表が2006年W杯ドイツ大会に優勝したとき、ACミランの選手たちが主力でしたよね。インザーギ、アルベルト・ジラルディーノ、ピルロ、ガットゥーゾ、ネスタ。でも、最近のイタリア代表にミランから選ばれている選手となると、2~3人しかいませんからね。
国内リーグを制することは大切ですが、やっぱり昔からミランを見てきた者にとっては、CLで決勝トーナメント上位まで勝ち進むようになって、その選手たちがイタリア代表としても躍動する姿ですよね。イタリア代表とミランの復活。時代の流れのなかでは簡単ではないですが、やっぱりそこは中期的に期待したいですね。