エムバペのPSG残留をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第26回目のテーマは、キリアン・エムバペのパリ・サンジェルマン残留。今回の契約延長には、批判めいた声も一部で上がっているが、福西崇史はその批判に疑問を感じると語った。

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エムバペがパリSGに残留しましたね。昨夏からレアル・マドリードへの移籍希望を公言し、パリSGからの契約更新オファーを断ってきたことから、来シーズンはレアル・マドリードでプレーするのが既定路線だと思っていただけに、シーズン終盤で急転直下の契約延長には驚かされました。

その契約内容にもビックリしました。一説によれば2025年までの3年契約で約390億円。ほかの報道だと契約金や年俸、ボーナスなどの契約総額は約800億円にのぼるというのもありました。桁違いすぎる額ですが、パリSGのバックにはカタール国家がついていますからね。ありえない額ではないんだろうと思っています。

この契約でエムバペに対して、"金の亡者"といった批判めいたものが増えた印象です。でも、ボクはサッカー選手が自分自身の評価をお金にも求めるのは当然だと思うんです。

サッカー選手として輝ける時間は、人生のなかでは本当に短い。その最高の瞬間を、最大限に評価してくれるところと契約する。評価の基準は人それぞれにあるでしょうが、契約社会においてブレずにわかりやすいものが「お金」なのは当然ですよね。

エムバペは今年12月で24歳とまだ若いですが、すでに2018年W杯でも優勝を経験していて、そのストライカーとしての能力は世界中が認める屈指の選手です。その選手が自身の評価に見合う金額だと納得し、「夢だ」と公言していたレアル・マドリード移籍を断念して残留した。ただ、それだけのことだと思うんです。

まあ、一部報道で言われているチーム運営方針に口出しできる権力もエムバペが手に入れたとしたら、契約金の額よりも、そっちの方がどうかなとは思いますよね。メッシにしろ、ネイマールにしろ、エムバペ以外にもスーパースターを数多く揃えるチームですから、チーム崩壊の引き金になる可能性は秘めていますよね。

レアル・マドリードにしたら、おもしろくないのは当然ですよね。獲得合意目前で23歳にして世界最高峰の評価を受けるストライカーに逃げられたわけですから。しかも、レアル・マドリードは破格の契約を結べる唯一の存在としてサッカー界に君臨してきた自負がある。それだけに自分たちの力が及ばない大きな予算を使えるクラブに対しての嫉妬もあるのだと思います。

エムバペの額面は想像を超えたレベルにありますが、何年後かには普通の額になっている可能性だってありますよね。2000年代にジネディーヌ・ジダンやデイビッド・ベッカムなどの世界的スター選手を獲得して銀河系軍団を形成した頃、その移籍金は当時では破格なものでした。

2001年のジダンがユヴェントスからレアルへ移籍した際の移籍金は約60億円。ベッカムは2003年に約43億円でした。でも、いまから振り返ると、たいしたことのない金額に感じてしまいますよね。

レアルは2009年にブラジル代表だったカカをミランから獲得した際に約74億円、カカ獲得の8日後にはC・ロナウド獲得に約106億円を費やしました。2013年にはガレス・ベイル獲得に114億円ですから。移籍金の高騰が続いているので、ジダンの移籍金が霞んでしまうのも納得ですし、エムバペを超える契約が生まれないとは言い切れませんよね。

これはサッカーに限ったことではないですが、これまでの通例や慣例から外れたことをすると良くも悪くも目につきやすいんですよね。

ボクにも経験があります。ボクは第一子が生まれる前に、「子どもの出産は立ち会いたいので帰らせてほしい」と言ったんです。さすがに試合の日なら試合を優先しますけど、出産予定はキャンプ終盤だったので、先に帰らせてもらって立ち合うことができたんですね。

いまなら日本でも普通のことになりつつあると思います。でも、ボクが現役時代だと海外の選手が試合を休んでまで出産に立ち会うことが報道されると美化されていましたが、いざ日本選手のボクがやろうとすると日本にはまだその文化が浸透していなかったので、多少の後ろめたさを感じてしまったのを覚えています。

家族がいるからサッカーに集中できる自分がいる。そう考えれば、出産に立ち会うのも、いい仕事をするための準備でもあるわけなんですけど、当時はなかなか理解されませんでしたね。

何が言いたいかというと、サッカー選手にとって金銭面の条件だけではなく、家族を含めた環境面での待遇なども契約では重視されるということです。海外選手ならなおさらですよね。

エムバペの契約は多額の金額面にばかり目が行きがちですが、表になかなか出てこないそうした面での条件が、彼の心を動かした可能性もあるのではないでしょうか。

スター選手になればなるほど、いろんな面で矢面に立たされます。大きな金額を手にしている責任感や代償だという考え方も理解できます。でも、そのことによってサッカーが他のすべてよりも優先されるわけではないはずです。家族を含めたプライベートが充実することが、いいプレーに繋がるケースは高いですから。

エムバペが金の亡者なのか、それとも最高のプレー環境を手に入れたのか。それはここから先のシーズンで、エムバペがピッチの上で証明してくれることでしょうね。どんな答えが提示されるのか楽しみにしています。

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