サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第257回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、鈴木雄斗について。ジュビロ磐田のMFとして活躍し、今シーズンは豪快なシュートも決めている鈴木雄斗。実は、彼の父親はかつて宮澤ミシェルが大学時代に一緒にプレーした仲間だったという。
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Jリーグが再開したけど、やっぱりおもしろいねえ!
中断期間も天皇杯などの試合はあったんだけど、緊張感が違うね。J1チームにとって天皇杯2回戦くらいだと、相手はJFLなどで、やっぱり力の差があるからね。まあ、それはそれで負けられない嫌なプレッシャーはかかるんだけどさ。
再開にあたって注目したのは、下位チームだけど、ほとんどのチームが中断期間を有効に使えたようだよな。17位の湘南がFC東京に2-0で勝利して、16位の清水エスパルスがアビスパ福岡に3-1で勝った。ジュビロ磐田はサガン鳥栖に3-1で勝利して14位に上がり、浦和レッズもリーグ戦10試合ぶりの白星を名古屋グランパスから奪って13位に浮上した。
まだリーグ戦は半分だから、現時点での順位はあまり気にする必要はないんだけど、それでも苦しいのがヴィッセル神戸だよな。再開初戦は先制ゴールを奪ったものの、結局は柏レイソルに3-1で逆転負け。難しい判定があったとはいえ、あれだけのメンバーが揃っているチームが勝てないんだもの。サッカーの難しさをつくづく思い知らされるよな。
順位表を見るとわかるんだけど、長いシーズンで争うリーグ戦はやっぱり得点が奪えるチームが基本的には上位に来るんだよ。得点が奪えれば、勝つ確率は高まって勝ち点3が手に入るわけだからさ。現状で下位チームを見ると、ほとんどは得点数が伸びていないんだけど、ジュビロ磐田はちょっと違うんだよ。
9位以下のチームで唯一、総得点が20点を超えている。それなのに14位。まあ、守備がザルで総失点も多いからなんだけど、こういうサッカーはなかなか出来ないものだし、見ていて楽しいんだよな。
そのジュビロ磐田にはさ、ケツに力のあるいい選手がいるんだよ。それが右アウトサイドでプレーする鈴木雄斗。今シーズンは序盤戦でスーパーなミラクルゴールを何本か決めていて、5ゴールをあげているんだよ。シュートだけではなく、クロスボールにも光るものがあるんだよね。
現状で代表を狙えるレベルかと言えば、正直そこまでではないよ。だけど、代表クラスの選手だけが、いい選手というわけではないからね。光るものをひとつは持っていて、それを試合でしっかり出していける。これはプロ選手としてやっていくには大事なことだから。そして、自分だけのそういう選手を見つけ出すのも、Jリーグの楽しみかたのひとつだよね。
実はさ、鈴木雄斗の親父は、私と大学時代に一緒にプレーした仲間なんだよ。GKの『やっさん』こと、鈴木康仁さん。年齢は1959年生まれだから、私よりも4つ上。優勝したアルゼンチンにディエゴ・マラドーナとラモン・ディアスがいた1979年のワールドユース日本大会で日本代表の正GKだったんだよね。高校卒業後はヤンマーディーゼルでプレーしていたんだけど、それを辞めて国士舘大に入ってきたのよ。
俺がキャプテンのときでさ、年齢は私のほうが下なんだけど先輩。あの当時の大学の体育会の上下関係は、年齢ではなく入学した順。しかも、その規律の厳しさで有名だった国士舘大だよ。私のほうがやりにくかったよね(笑)
たださ、自分たちが優勝するためには、やっさんの力は必要だったからね。いろんな話をした記憶があるし、やっさんの力が加わったことで当時の国士舘大はタイトルをたくさん獲得できたんだよ。
そのやっさんの息子っていう時点で、鈴木雄斗のことはこれまでも特別視していたんだけど、ようやくJ1の舞台でインパクトのある働きを見せてくれた。本当にうれしかったよ。再開初戦はベンチ外になったけど、早くコンディションを戻して戦列に復帰してほしいよ。そしてまた、あのケツに秘められた世界レベルのパワーで、誰もが予期していないエリアから、凄まじいミドルシュートを決めてくれるのを期待しているよ!