交流戦3試合で勝利がなかったロッテの佐々木。元ロッテのエースである清水氏は、体力面も含めた課題と、そこからの投球内容の変化を指摘した

ヤクルトの4年ぶり2度目となる優勝で幕を閉じた今年の交流戦。熱戦が繰り広げられるなかで、4月に史上16人目となる完全試合を成し遂げたロッテの佐々木朗希が、セ・リーグのチーム相手にどんな投球を見せるかに大きな注目が集まっていたが......3試合に先発して0勝1敗と、勝利投手になることはできなかった。

かつてロッテのエースとして活躍し、引退後に同球団の投手コーチも務めた清水直行氏は、交流戦の佐々木の投球をどう見たのか。今後の課題も併せて聞いた。

まずは5月27日の、ホームZOZOマリンスタジアムでの阪神戦。佐々木は6回を無失点に抑えるも、ロッテも得点を奪えずに勝ち負けはつかず、9回にリリーフが1点を取られてチームは負けた。

「投球内容は決してよくなかったです。これまでの調子が悪いときは体が前に突っ込み気味で、右腕が遠回りし、ボールが抜けてシュート回転する球が多かった。しかし阪神戦は、投球フォーム自体は悪くなかったものの、〝体が動いていない〟感じでした」

それでも無失点に抑えたことを清水氏は評価したが、6月3日の東京ドームでの巨人戦は5回5失点(自責点4)で降板。チームは3-10で敗れ、負け投手になった。

「阪神戦でも見えた、疲労の影響が大きかったと思います。佐々木はとんでもないボールを投げますが、プロ野球の先発投手として最も評価されるのは、先発ローテーションを守り、規定投球回をクリアして貯金をつくることです。

直球の平均球速が140キロ台の先発投手と、160キロ台の直球をコンスタントに投げる佐々木の疲れは違うという見方もあるでしょうけどね。一度は休息の意味で登録を抹消されることもありましたが、中6日のローテーションで投げるのは今季が初めてですし、疲労が抜けなくなってきている印象があります」

巨人は4番の岡本和真も本塁打を放ったが、先制打を放ったのは、今季に1軍デビューを果たした4年目の増田 陸。そこに巨人側の対策も見て取れた。

「これまでは球がシュート回転していても空振りを取れていたのが、巨人戦ではファウルになることが多かった。巨人は増田をはじめ、コンパクトなスイングをする選手が多く、ほとんどの打者が追い込まれる前の早いカウントから振ってきていました。

佐々木の160キロ超えの球を打つには、チーム全体でバットを短く持ってコンパクトなスイングに徹するなど『思い切ったことをやらないといけない』と僕は思っていましたが、巨人がそれをしっかり実行した印象があります」

清水氏は体力面の課題に加え、東京ドームのマウンドに慣れていないことも打ち込まれた要因に挙げる。

「どの投手にも、球場によって『このマウンドは硬い』『このマウンドからの景色だと、ボールを低めに投げにくい』といった相性があるものです。佐々木も東京ドームのマウンドが合っていなかったのか、ボールが高かったですし、投球練習で何球か投げた時点で『今日は苦労しそうだな』と感じました。

ただ、長く活躍するためには相性がどうこうとも言っていられませんからね。どのマウンドでも、自分なりに工夫していかないといけません」

巨人戦では〝ウイニングショット〟にも陰りが見えた。その球は、投球配分で30%以上を占めるフォークボール。球速は150キロ前後で、直球との見極めが難しい〝魔球〟だが、巨人打線はそれもとらえた。

「2回に、(グレゴリー・)ポランコにフォークボールを拾われてフェンス直撃の三塁打になりましたが、それまでの投球ではほとんど見られなかったシーンです。バッターの手元で落ちていたのに、そのタイミングが早くなったのか、単純にキレがなかったのかは定かではありません。

岡本には抜けきらず高めに浮いたフォークを右中間に運ばれましたが、いずれにせよ、打者に対応されやすくなってきているんだと思います」

課題を露呈した巨人戦から、中7日の間隔を空けて臨んだ6月11日のホームでのDeNA戦。佐々木は8回1失点と好投したが、その投球に大きな変化が見られた。

「この試合からスライダーが多くなりましたね。それまでは時折カーブを投げていたものの、ほぼ真っすぐとフォークだけでした。ただ、DeNAは牧秀悟や佐野恵太、宮﨑敏郎らがそろう強力打線。蝦名達夫という新たな好打者も出てきましたから、『今までと同じでは通用しない』という危機感が生まれ、捕手の松川虎生と話し合って配球を変えたんでしょう。

その試合では94球中20球がスライダーで、カーブも交えて緩急もつけていた。牧に一発を打たれ、同点で交代したので勝敗はつきませんでしたが〝ニュー佐々木朗希〟の投球を印象づけましたね」

現状ではチームの育成方針で、100球が交代の目安になっているが、清水氏は「DeNA戦で見せた投球スタイルが、今後の育成プランに影響を与える可能性もある」と指摘する。

「体への負担が少ない、球速が遅いボールの配分を多くする投球が定着したら、100球というリミットも外れるかもしれません」

交流戦で登板した3試合では勝ち星こそ得られなかったものの、そこで得た経験は成長の糧(かて)になりそうだ。

「〝だましだまし〟でゼロに抑えた阪神戦。だましが通用しなくなった巨人戦。新たな色を出したDeNA戦と、それぞれ違う貴重な経験ができました。

先ほども話したように、一番の課題は『先発投手として1年間働けるか』ということ。ただ、DeNA戦のような投球を覚えれば、もともとの能力は素晴らしいですし、課題も軽々とクリアできると思いますよ」