高卒4年目で、野手から投手への転向となった中日の根尾。6月20日時点で、リリーフとして3試合に登板して無失点と結果を残している 高卒4年目で、野手から投手への転向となった中日の根尾。6月20日時点で、リリーフとして3試合に登板して無失点と結果を残している

球界の常識を覆す配置転換が耳目を集めている。

中日・根尾 昂が4年目のシーズンの途中で、野手から投手に転向するという異例の発表がなされた。今シーズンは外野手としてレギュラー争いに挑んだものの、岡林勇希、鵜飼航丞(うかい・こうすけ)ら若手野手との競争に敗れた。

ショートのレギュラーだった京田陽太の不調もあり、そこでチャンスをつかむかとも思われたが、出場機会は限定的だった。

だが、立浪和義監督は仰天プランを用意していた。5月21日の広島戦で、根尾を投手としてマウンドに送り込んだのだ。

交流戦でもオリックス戦で1イニングを無失点。正式に投手転向が言い渡された後の6月19日の巨人戦では、球速150キロ超をマークし、岡本和真を三振に仕留めて試合の流れを一変させている。

この試合を現地で見たスポーツ紙ドラ番は、投手・根尾の能力と、その効果に素直に驚いたと回顧する。

「コロナ禍以降、間違いなくバンテリンドームが一番沸いた瞬間でしたね。根尾は今シーズンからマスコミ対応も変わってきて、明るい表情も増えてきていた。打者へのこだわりもたびたび口にしていただけに、思うところもあったはず。

ただ、驚いたのはその堂々たるマウンドさばきです。ストライク先行で、攻めのピッチングを貫いていた。『やはり甲子園優勝投手は違うな』とも感じましたね」

立浪監督は、根尾の投手転向について「本人と話した上で、最も輝ける場所を選んだ」と取材陣に述べているが、番記者の中では「〝予感〟もあった」という声もある。

「現首脳陣の中で、野手・根尾の評価は決して高くはなかった。ショートで出場した5月18日のDeNA戦でのミスが、それを決定づけた形です。秋季キャンプから、『投手としての可能性も模索している』という情報も飛び交っていました。それが確信に変わったのは、オープン戦でブルペンに入っていたということ。

実は、ビジターで行なわれた交流戦のロッテ戦、日本ハム戦でも、シートノックには参加しなかった。これまで取材陣はブルペンでの本気の投球練習を一度も見ておらず、秘密裏に進められた計画だったといえます」

甲子園のスターで、4球団競合のドラ1という華々しい経歴も合わさり、球界全体でも投手・根尾の是非を問う議論が起こっている。前例がほぼない野手からの投手転向については当然、辛辣(しんらつ)な意見もある。一方で、ダルビッシュ有ら、その伸びしろを絶賛する声もあり、反応は二分している。

球団OBはどう見ているのか。219勝を挙げ、50歳まで現役を続けた〝レジェンド〟山本昌氏は、「150キロを投げられることからも才能は間違いない」と断言。その半面、「課題も少なくない」と語る。

「中日の投手陣の中でも150キロを投げられる投手は多くない。ただ、根尾くんのストレートは球速表示ほど速く見えないのが気になります。プロ入り後は野手として練習をしてきたので当然ですが、ストレートのキレは課題となってくる。あとは勝負できる変化球がひとつあること。スライダーはありますが、絶対的な変化球を磨くことは必須です。

フォームは素晴らしいので、あとはリリースポイントや球持ちなど、投手としての細かい技術をいかに身につけていくか。そのうちのひとつでもつかめれば、勝負できる投手になっていく可能性はあると思います」

メディアでは〝二刀流〟も取り沙汰されているが、「DHがないセ・リーグでは投手練習に専念したほうがいい」というのが山本氏の考えだ。大谷翔平にしても、投手練習をメインに打撃練習がついてきた形で、アプローチがまったく異なるからだ。その上で、将来的に先発投手として大成する可能性にも言及した。

「今のボールでは、先発として勝てる投手になるのは難しい。ただ、あくまで〝今の〟です。先ほど言ったようなストレートのキレ、変化球の精度が上がってくればわかりません。

本格的な投手練習をしていなくてあの投球ができるわけですから、転向が遅すぎるということはない。これまでのプロ野球界の慣例では難しいかもしれませんが、根尾くんにはそれを打ち破っていくポテンシャルが十分にあると思います」

今シーズンは1軍に同行しながら、まずはリリーフとして〝敗戦処理〟などの場面での起用が予想される。もし本格的な先発転向となれば、2軍での再調整は必須だが、その起用法についてはどうか。

「立浪監督が現時点で、短いイニングなら1軍の投手陣に割って入る力があると評価している、という見方もできます。実際に、まだ点を取られていないのは大きい(6月20日時点)。本格的な先発起用となると、早くても1、2年は準備が必要でしょうが、リリーフ適性も高いです」

気になるのは今後の投手・根尾の育成方針だが、前出の番記者は「現時点では白紙に近い状態」と明かす。

「今シーズンでの根尾の投手転換は既定路線だったとしても、その先のプランが現段階では見えてこない点が気になります。球団や首脳陣が、根尾を長期的にどう育てるのかを明示できているのか。

一方で、現在の手薄なリリーフ事情から、序列が上がっても驚きはありません。本人の資質と努力で、今シーズン中に勝ちパターンに入ってくる可能性もあるとみています」

2年目のシーズンイン前、筆者が根尾にインタビューした際には、フルスイングやショートへの強いこだわりを感じた。それゆえに、野手としての根尾を見られないことに一抹の寂しさはある。それでも、根尾が短い期間で投手としての適性を示しているのも、また事実だ。

先人なき険しき道であることは、本人が誰よりも理解しているはずだ。根尾昂という異能な野球人の挑戦を、温かく見守っていきたい。