今年のドラフトで上位指名が濃厚な日本文理の田中。元ヤクルトの投手、本間忠コーチの指導もあって2年時春頃からエースに

「本命不在」といわれる2022年のドラフト戦線。だが、高校球界には今夏の活躍次第でトップランナーに浮上する可能性を秘めた〝大器〟がいる。そんな注目選手たちを紹介していこう。

投手の筆頭格は田中晴也(日本文理)だ。身長186cm、体重91kgの大きな体を柔らかく扱えるのが特長。現時点で最高球速は148キロながら、今後まだまだ伸びるはず。「最後のバッターを打ち取った瞬間が一番気持ちいい」という、負けず嫌いなメンタリティも投手向きだ。

昨夏の甲子園では敦賀気比(つるが・けひ)に15安打8失点と打ち込まれ、初戦敗退に終わっている。その反省から投球フォームを見直し、今春以降に急成長を見せている。大人とも対等にコミュニケーションが取れる思考力の高さも、伸びしろを埋めるための大切な能力のひとつだ。

なお、日本文理の投手コーチを務めるのは、かつて大工から転身しヤクルトに入団した〝変わり種〟の本間 忠さん。本間さんも「頭の中で描くイメージと実際の動作のズレが小さい」と田中の将来性を高く買っている。

田中は打者としても高い能力を持っている。幼少期にイチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)への憧れから、左打者に転向。今春の新潟大会決勝では2打席連続本塁打を含む6打点と、力強いスイングが目を引いた。それでも投手としての成長が著しく、現時点では「投手・田中晴也」を評価するスカウトが目立つ。

田中自身は大学進学への含みも持たせているものの、プロ志望届を提出すれば上位指名は必至。もしドラフト1位指名を受ければ、新潟県の高校生では史上初の快挙になる。田中が越後球界の新たな扉を開くのだろうか。

188cmの長身で、スタミナも高く評価されている苫小牧中央の斉藤。最速は150キロだが伸びしろも多く、今夏のもうひと化けに期待

その田中と肩を並べる勢いで台頭してきたのが、斉藤優汰(苫小牧中央)だ。今年は北海道に逸材投手がひしめいているが、なかでも斉藤の好素材ぶりは際立っている。

身長188cm、体重88kgの恵まれた体に、バランスよくしなやかな投球フォーム。指にかかったストレートは、捕手に向かって加速するような勢いがある。斉藤は「物理的にはありえないんですけど、低めを這(は)うようなボールを投げたい」と意気込む。今春には最速150キロをマークした。

以前までは制球に難があったが、やはりこの春に大きく成長した。多くのスカウトが詰めかけた北海道大会初戦・北海戦では、北海道を代表する名門から11三振を奪い2失点完投勝利。自慢のストレートだけではなく、カーブ、スライダーの変化球でもカウントを整えられるコントロールが光る。さらに落差の大きなフォークは、空振りを奪える決め球だ。

投手歴は中学2年秋からで、流麗な投球フォームは高校でイチからつくり上げたもの。潜在能力はまだ底を見せておらず、将来性は抜群だ。

苫小牧中央は過去に甲子園に出場した実績がないものの、今春の北海道大会ではベスト4と躍進。今夏に好投手ぞろいの南北海道大会を制することがあれば、斉藤が全国区になるのは間違いない。

日本航空石川の4番・内藤。両親は中国人で愛知県出身。180cm、100kgと恵まれた体格で、高校通算50本超を誇るスラッガーだ

野手で要注目なのは、異国をルーツに持つ2選手だ。ひとり目の内藤 鵬(日本航空石川)は、高校通算50本塁打を超える右のスラッガー。身長180cm、体重100kgの巨漢から放たれる大飛球には夢がある。

内藤は日本で生まれ育っているが、両親は中国籍。「鵬」という名前は中国の伝説の鳥が由来だという。両親とは中国語でコミュニケーションを取っている。

もともと野球とは縁遠く、小学4年生まではサッカーのゴールキーパーとして活躍。5年時から友人の誘いを受け、少年野球チームの体験練習へ。そこで「みんなにホメられて、うれしくて」と、野球に転向した。

バットに〝乗せて運ぶ〟打撃スタイルは、球界を代表するスラッガーの中村剛也(西武)をほうふつとさせるが、芯に当ててヒットゾーンにはじき返す能力も高い。内藤のような右打者の内野手は、近年プロ側の需要が高まっている。課題の三塁守備が向上してくれば、ますますプロスカウトの評価は上がってくるだろう。

ナイジェリア人の両親を持つ誉のイヒネ。身体能力が抜群のショートで、高校通算16本のパワー、50m6秒2のスピードを兼ね備える

最後に紹介したいのは、ナイジェリア人の両親を持つイヒネ・イツア(誉)。身長184cm、体重83kgで、長い脚がスラリと伸びた大型の遊撃手だ。

誉がチームとして取り組むフィジカル強化が見事にハマり、高校でパワーアップに成功。走攻守にエネルギッシュなパフォーマンスを発揮できるようになり、一躍ドラフト候補へと浮上してきた。

打撃では、長打となる打球角度と打球速度を組み合わせたMLB式の「バレルゾーン」を意識しており、その雄大なスイングは有望なマイナーリーガーのようだ。

高校2年夏前から本格的に取り組み始めた遊撃の守備は、猛練習のかいもあって、こなれてきた。ストライドが長く、バネの利いた走り姿にも魅力が詰まっている。全国的な知名度はまだないものの、今夏ブレイクできればドラフト上位指名候補になるだろう。

なお、内藤とイヒネは中学時代に愛知の強豪軟式クラブチーム「東山クラブ」のチームメイトだった。内藤が全国の強豪校から勧誘される存在だったのに対し、イヒネは試合に出たり出なかったりの目立たない存在だった。「内藤はひとりだけずばぬけていた」と語るが、自身も高校で肉体改造に成功して大変身。今や内藤と共に超高校級の逸材として輝きを放っている。

すでに北海道、兵庫、沖縄などで夏の地方大会が始まっている。今夏はどんな新星が現れ、どんなドラマが展開されるのか。思わぬ目玉選手が出現する可能性は十分にある。