11月開幕のカタールW杯まで約4ヵ月。すでに日本代表のメンバーは固まりつつあるが、攻撃の軸となるべきCF(センターフォワード)は絶対的な選手が見当たらないのが現状だ。
6月の強化試合4連戦では、アジア最終予選終盤まで不動だった大迫勇也(神戸)がコンディション不良でメンバーから外れ、浅野拓磨(ボーフム)、古橋亨梧、前田大然(共にセルティック)、上田綺世(鹿島→サークル・ブルージュ)の4人が起用されたものの、大きな存在感を発揮できた選手はいなかった。
そこで注目したいのが、昨季フランス2部のトゥールーズでリーグ全38試合に出場し、チームの優勝に貢献、自らも10得点2アシストと結果を出したオナイウ阿道(あど)である。
最終予選の出場は昨年10月の敵地でのサウジアラビア戦のみだが、今季フランス1部でゴール量産となれば、一気にCF候補としてW杯メンバーに滑り込んだとしても不思議ではない。現在、8月7日のシーズン開幕に向けスペインで合宿中のオナイウにオンラインで話を聞いた。
「今季も2部でやるのはモチベーション的に難しかったし、マストだった昇格と2桁ゴールを達成できたのはよかったです。チーム事情はあるにせよ、リーグ全試合に出られたので監督やチームメイトの信頼は得られたのかなと思います。
ただ、チャンスがありながら点が取れない時期もありましたし、最低限の結果ですね。(得点やアシストの)数字に満足しているかといえばそうではないです」
初の海外挑戦となった1年をオナイウはそう振り返る。
チームにはいわゆる典型的なCFタイプで20得点を挙げたイングランド人ストライカーがいたため、オナイウは3トップの中央だけでなく、左サイドや右サイドで起用されることも少なくなかった。
「CFじゃなくてもシャドーやセカンドトップならいいんですけど、チーム戦術的にワイドでのプレーを求められたときは難しさもありました。ポジションが変われば、役割や視野も変わりますし、僕は足が速いわけでもドリブルがうまいわけでもないですから。
もちろん、サイドができないことはないですけど、CFで起用されたときのほうが持ち味を出せていたと思います。もう少しパスが来ればというシーンは何度もありましたし、CFなら1試合に1点くらいは取れる感覚がありました」
好調なチームにあって、器用にサイドをこなす様子は選手としての幅を広げたようにも映ったが、本人には希望するポジションで起用されないジレンマもあったという。同時に、自身が希望するCFの位置でプレーできればゴールを取れる自信をつかんだのもまた事実なのだろう。
昨年6月のアジア2次予選で日本代表にデビューすると、出場2試合目のキルギス戦でハットトリックを決めるなど存在をアピールした。だが、最終予選では第2節の中国戦に追加招集されるも出番なし。第3節のサウジアラビア戦では1点ビハインドのなか、終盤にスクランブル的に起用されたのみだった。
「多少は(最終予選出場への)期待もありましたけど、呼ばれなかった時期は自分のコンディションがよくなかったということ。ただ、選ばれた選手のことは、リスペクトはしていますけど、『俺のほうができる』という思いもありました」
先の6月シリーズでも招集を期待する声はあったものの、森保一監督からは声がかからなかった。それでも、オナイウはまだカタール行きを諦めたわけではない。
「ほかの選手たちと比べて、自分が結果を出していなかったかといえばそんなことはないと思いますし......。でも、メンバーを決めるのは監督で、僕が選ばれるためには、いま選ばれている選手以上に結果を出すしかないととらえています。
(代表の)試合は見ています。自分だったらこういうプレーができるのかなとか、CFをやれればもっと周りの選手と連携しながらゴールに絡めるイメージはあります。サッカーは個人競技ではないので僕ひとりで何かできるわけではないし、実際にピッチに立ったわけではないので、あくまで感覚的な話ではありますけど」
オナイウはこれまで代表の主力として活躍してきたわけではない。ただ、2部とはいえフィジカルコンタクトが激しく、身体能力の高い選手がそろったフランスでもまれ、前線でのポスト役だけでなく決定力に磨きをかけてきた。W杯メンバー入りの資格は十分ある。
「(W杯出場は)まだ現実味はないですけど、可能性があるならチャレンジしたいし、そういう気持ちが以前よりも強くなってきているのも確か。そのためにまずトゥールーズで目に見える結果を出して、次のタイミングで呼んでもらうしかない。1部で結果を出せば昨季とはまた違う評価をしてもらえるはず。その自信はあるし、チームとしても点を取る選手がいないと勝つことはできないですからね」
前線にスピード系のアタッカーが多いなか、ポジショニングに優れるだけでなく、フィジカルが強く、ためをつくれるオナイウはタイプ的にも日本代表のニーズに合っている気がする。
2016年のリオ五輪はバックアップメンバーだった。17年には浦和で初のJ1挑戦も、リーグ1試合、わずか6分間の出場に終わったが、その後は山口、大分、横浜FM、トゥールーズとステップアップしながら、着実に結果を残してきた。
「昔は簡単に言えば、自分の(身体)能力だけでサッカーをやっていた。でも、それじゃ能力で劣勢になったら持ち味が出ない。ゴール前でいいポジションを取れれば、もっと楽にゴールできるし、考え方は柔軟になりました。守備も嫌いではないし、味方が助かるなら頑張りますよ」
フランスに渡り、ストライカーとして心身共にひと回り大きくなったオナイウのここからの巻き返しに期待したい。