開幕から巨人のクローザーとして活躍を続け、セ・リーグ新人王候補の筆頭と目されている大勢。セーブ王のタイトルも視野に

今年のプロ野球新人王を争う顔ぶれを眺めると、「地味だな......」という印象を持たれるかもしれない。

そうなのだ。エリートコースを歩んできた金の卵など皆無。泥にまみれ、地べたを這(は)いつくばってプロの世界にたどり着いた苦労人ばかりである。踏まれても踏まれても野球界をたくましく生き抜いてきた、〝輝かしい雑草たち〟を紹介していこう。

セ・リーグの新人王候補筆頭は巨人のドラフト1位右腕・大勢(たいせい)である。7月18日時点(以下、記録は同)で36試合に登板し、1勝1敗25セーブ。防御率2.02と開幕時からクローザーとして大車輪の働きを見せている。

ドラフト1位ならエリートではないかと思われるだろうが、大勢の歩んできた道はエリートらしからぬ急カーブを描いていた。

西脇工高時代はプロ志望届を提出しながら、ドラフト会議で指名漏れ。進学した関西国際大では進路決定に大きく影響する4年春のリーグ戦で1アウトも取れず、右ヒジを疲労骨折するアクシデントに見舞われる。

野球断念の危機に瀕(ひん)した大勢だったが、そこでパーソナルトレーナーの萩原淳由(はぎはら・あつよし)氏と出会いフォームをイチから見直すことに。すると投球動作が改善され、右ヒジも完治。さらに最速157キロをマークするほど才能が開花した。

4年秋のリーグ戦で滑り込むようにスカウト陣にアピールし、大勢は巨人から外れ1位指名を受けてプロに進んでいる。

サイドハンドに近い角度からうなりを上げて捕手のミットを叩く剛速球に、決め球として自信を持つフォーク。アマ時代を含め年間通して投げ続けた経験がないだけに、シーズン後半に不安を残すものの現時点で快進撃に陰りは見えない。

大勢を追う存在の湯浅京己(阪神)の野球人生は、さらにドラマチックだ。聖光学院高では入学してすぐ腰痛を発症し、故障が癒えるまでは選手ではなくマネジャーを務めていた。高校2年秋から投手に転向するも、3年夏の甲子園ではベンチ外。不完全燃焼で高校野球を終えている。

高校卒業後は独立リーグの富山GRNサンダーバーズへ入団。そこで当時の監督だった伊藤智仁(現ヤクルトコーチ)から指導を受け、その豊かな才能が花開き始める。球速は最速151キロに達し、わずか1年で阪神からドラフト6位指名を受けるほどの存在になった。

プロ入り後は雌伏(しふく)の時期が続いたものの、プロ4年目となる今季に大ブレイク。最速156キロまで伸びた快速球を武器にセットアッパーに定着した。34試合に登板して24ホールドを記録している。

セ・リーグではほかにも、高卒3年目の長岡秀樹(ヤクルト)が新人王を射程圏にとらえる。高校時代に甲子園出場経験はなく、ドラフト5位指名と前評判は高くなかった。

それでも、シュアな打撃と高い守備力で今季は開幕からレギュラーに抜擢(ばってき)。内野守備の要であるショートで活躍し、チームの快進撃を支えている。

パ・リーグは育成ドラフト出身の投手たちが、新人王レースの先頭を走っている。

大関友久(ソフトバンク)は先発ローテーションの一角を占め、6勝4敗。規定投球回に達し、防御率2.27はリーグ5位の好成績だ。

大関という姓と、身長185cm、体重94kgの巨体も相まって、泰然としたマウンドさばきはインパクト十分。常時150キロ近いストレートは重みがあり、今季2完封を記録するなど好調時は手がつけられない。

仙台大時代にフィジカル強化に成功し、その剛球は東北地区で注目を集めていた。だが、投球内容は粗削りでスカウト陣からの評価は上がらず、育成ドラフト2位でのプロ入りになった。

育成選手を続々とスター選手へと育成してきたソフトバンクで、大関もじっくりと養成されてきた。1年目は3軍中心に起用され、2年目の昨季に支配下登録を勝ち取る。3年目の今季は藤本博史監督から先発に抜擢され、故障者の多い投手陣にあって存在感を放っている。

リリーフとしてブレイクした水上由伸(西武)も、異色の球歴をたどっている。四国学院大では、下級生時にリーグ戦で首位打者を獲得したほどの外野手だった。3年時に投手に転向し、最速150キロをマークして一躍ドラフト候補へ。

ただし、好不調の波が激しく、スカウト陣の評価は賛否が分かれた。結果的に育成ドラフト5位と、同年の西武では最下位指名でプロ入り。

ところが、プロ入団後に急成長を見せると1年目の5月には支配下登録。1軍29試合に登板し、防御率2.33と好成績を残した。

新人王の資格を残して迎えた2年目の今季は、セットアッパーの平良海馬(たいら・かいま)につなぐ中継ぎ陣の中心的な存在に。38試合に登板し、20ホールド、防御率0.72と結果を残している。

パ・リーグではほかにもリリーフで奮闘している北山亘基、遊撃手のレギュラーをうかがう上川畑大悟と日本ハムの「ドラ8」「ドラ9」の下位指名コンビが面白い。

対照的にエリートコースを歩みながら誰よりも目立っているのは、〝令和の怪物〟佐々木朗希とバッテリーを組む松川虎生(ロッテ)。打率.152の数字が上がってくれば、常時出場も望めそうだ。

野手では、ソフトバンク3年目で新人王の資格がある柳町達(たつる)も好調。66試合に出場して打率.297と持ち前のバットコントロールでヒットを重ねている。

なお、大勢、湯浅、大関、水上、松川の5名はオールスター戦のメンバーにも初選出された。後半戦にかけて新人王争いはますます過熱していく。どの苦労人が栄冠を手にするのか、例年以上に感情移入する戦いが繰り広げられそうだ。