オールスターファン投票1位(セ・リーグ先発投手部門)を獲得した青柳晃洋投手。2位の広島・森下暢仁投手に6万票以上の差をつけ、堂々の選出

前半戦で両リーグトップの11勝、防御率1.37をマークし、オールスターでは自身初となるファン投票1位(セ・リーグ先発投手部門)を獲得。名実ともに"球界のエース"に上り詰めた阪神タイガース・青柳晃洋(あおやぎ・こうよう)投手。

LINEやZOOMで連絡を取り合い、事あるごとに意見交換してきた野球評論家・お股ニキとの超濃密対談が実現!

■無双した前半戦。「巨人ファンの方にそこまで言ってもらえるのはうれしいです(笑)」。

――「今年の開幕投手は青柳投手しかいない!」と誰もが思っていたなか、開幕戦のマウンドに上がることができず、開幕当初は非常に悔しい思いもあったと思います。

青柳 本当に悔しかったですね。僕自身ずっと開幕投手をやりたくて、その願いが叶う寸前でコロナに感染してしまったので。でも、開幕投手のチャンスは別に今年だけじゃないですし、すぐ切り替えられました。「これから毎年、嫌というほどやるんだろうな」という気持ちの方が強いです。

――気持ちの持ち方、考え方が素晴らしいですね。

青柳 僕の周りにいる人たちもけっこうショックを受けていたので、「これからプロとして何年もやっていくなかで何回でもやれることなんだから。気にしていないし、気にしないでほしい」と言いました。

開幕から3週間遅れの4月15日に今季初登板を果たしましたが、「なんとか遅れてしまった分を取り返さないといけない」という一心で前半戦は突っ走ってきた感じですね。

――その結果、両リーグ最速で10勝を挙げ、防御率も両リーグ断トツの1.37をマークしています。とはいえ、今季初登板となった4月15日の巨人戦ではいきなり8回を投げ、続く4月22日のヤクルト戦では完封、4月29日の巨人戦では完投、5月6日の中日戦ではノーヒットノーランを演じた大野雄大投手と9回1/3まで投げ合いました。復帰直後からフル回転でしたが、体力的にはキツくなかったですか?

青柳 いやあ、ものすごくキツかったですよ(笑)。今季初登板の巨人戦はもう2回くらいからしんどかったです。ファームでいくら7イニング投げてもダメですね。ファームの100球と1軍の2イニングだったら、1軍の2イニングのほうがしんどいですよ。

体的にも気持ち的にも厳しかったですけど、チームの調子も良くなかったので、ここで引くわけにはいかないなと思いました。

――青柳投手が戻ってきた4月中旬から流れが変わりましたね。巨人ファンの知り合いが球場で青柳投手のピッチングを見て、「あれはもう無理だ......」と言っていたんですが、前半戦はそのくらい圧倒的でした。

青柳 「チームを救うピッチングがしたい」という強い思いで戻ってきましたから。巨人ファンの方にそこまで言ってもらえるのはうれしいです(笑)。

■プロ3年目の転機。1、2年目は投げてみないとわからない、その日次第のピッチャーだった。

――青柳投手とは2020年12月以来、ことあるごとにZOOMやLINEでさまざまな意見交換をさせていただいていますが、青柳投手は理想を追い求める向上心とそれを体現する努力、センス、技術が飛び抜けていると感じます。

自分の課題を明確にして、ひとつひとつ着実に克服する姿が印象的です。そんな青柳投手のプロ野球人生のターニングポイントになったのが2018年シーズンだったそうですね。ファームで長い時間を過ごし、「このままじゃプロ野球で通用しない」と感じて猛練習したとか。

青柳 そうですね。プロ3年目のあのシーズンの中盤くらいから、常に7~8割の力感で投げる練習を始めました。ピンチの場面でも「エイヤー」と全力で投げるのではなく、たとえ点を取られても7~8割の力感で投げ続けることを覚えました。

――起用する側としても、試合ごとにピッチングが変わってしまう投手はたしかに使いづらいですからね。

青柳 プロになった1年目、2年目は金本(知憲)さんが使ってくれたことで1軍の舞台を知ることができましたし、自分のボールを投げられれば抑えられることもわかりましたけど、今考えると、よくあんなピッチャーが1軍で投げれたなと思いますよ(笑)。投げてみないとわからない安定しないピッチャー、5回まで持たないピッチャーを1軍で1年間使うのは難しいですから。

そんな状態で3年目になって、下からも良いピッチャーが入ってくるなかで、常に全力で「エイヤー」としか投げられない、その日次第のピッチャーは1軍にはいられません。当時は「ファームで結果を出しているのに1軍にまったく呼ばれないな」といいう気持ちもありましたけど、今思えば当たり前のことでした。

それからストライクゾーンに入らないと始まらないので、7~8割の力感でビタビタなコントロールというよりは内か外か、上か下かの2分割で、さらに5割、3割と下げても狙ったところに伸びる強い球を投げ続ける練習をして、この技術を身に付けました。

■バッターの意表を完全に突く"ふざけたボール"

――高めに浮き上がるようなライジングボールも含めて、もはや人間ができるほぼすべてのことをやり尽くしているようなレベルに来ていると思いますが、ここから先、さらに上を目指すならどのような投球があるでしょうか?

青柳 やっぱり僕はカーブとか緩いボールが苦手なんですよね。今年ちょっとデッドボールが増えているのはカーブを当ててしまっているからなので、遅いボールの質や精度はもっと高めていきたいです。それができるともっと楽にカウントが取れるようになると思います。

スローカーブは今、108~115km以内で投げていますけど、それが安定してきたら、90~100kmくらいのものすごく遅い"ふざけたボール"を投げられるかもしれないですね。

――バッターの意表を完全に突くボールですね。

青柳 はい。シンカーも今はしっかり投げて126~131kmくらいですけど、それも100kmくらいのボールにしていきたい。

――なるほど、昔の高津臣吾さん(現ヤクルト監督)のような。

青柳 まさに高津さんのイメージです。今年、古田(敦也)さんとヒーローインタビューの中継で話す機会があって、「高津さんってなんであんなに抑えられたんですか?」と聞いたら、古田さんは「シンカーでも内と外、速いと遅い、この4種類をしっかり投げ分けられていた。ショートイニングだったからかもね」という話をしてくれて。

――先発だと常にというのは難しいかもしれませんが、たまに遅いボールを入れると面白いですよね。

青柳 そうですね。遅いボールでストライクを取ることで、そのあとの一球がものすごく楽になると思うんですよね。今は打たせて取るスタイルですけど、そういうボールも駆使できるようになると三振も増えていくと思います。

7月15日の中日戦では大島(洋平)さんにまっすぐ系のボールをずっと打たれているんですよ。交流戦の後に中日と3試合やりましたけど、そこで大島さんにストレートやツーシームを5本くらい固め打ちされていて。

大島さんみたいなコンタクトのうまいバッターに対して、ものすごく遅い"ふざけたボール"を投げられれば、意表を突いて抑えられる確率は上がるのかなと思います。

――スローカーブを少し浮き気味に投げるとかなり効きますね。メジャーリーガーでも最近アンダースローでそういう投手がいますけど。

青柳 いますね。本当にポーンと浮くようなボールですよね。

――投球や打球の軌道を計測して数値化する精密機器「トラックマン」だと、プラスで20~30cmくらいまで計測されそうなボールですね。青柳投手も投げられそうじゃないですか?

青柳 腕の出し方的には投げられる可能性はありますね。それこそ渡辺俊介さん(元ロッテ)が、あまり曲がらないチェンジアップみたいな90kmくらいのカーブをアンダースローで投げているのをずっと見ていたので。そういう"ふざけたボール"があってもいいのかなと思いますね。

――基本的には今のピッチングが完成形に近いと思うので、コンディションを維持して精度を上げていくことが一番だとは思いますが、ときどきそういう遊び心のあるようなボールを投げることができたら最高ですよね。個人的にはノーヒットノーラン、完全試合が見たいです!

青柳 三振ゼロのノーヒットノーランはやってみたいですね(笑)。

――ああ、良いですね! 今年はゴロアウトだけでなく、フライアウトも増えていますからね。ぜひ見たいです。

青柳 今年はやっぱりカットを増やすことによってフライアウトが増えましたね。スライダーやカットは打球が上がりやすいボールでもありますし。逆に言うと、僕はゴロアウトに対するこだわりもあまりないので、ゴロを打ってくれないバッターに対しては力のないフライアウトを取りたい。

基本的にゴロになっちゃう球種が多いからゴロアウトが増えますけど、バッターに合わせたアウトの取り方はもうちょっと考えていけたらと思っています。

●青柳晃洋(あおやぎ・こうよう)
1993年生まれ、神奈川県出身。2015年、ドラフト5位で阪神タイガースに入団。ルーキーながら先発ローテーションの一角を担い、2年連続で4勝を挙げるも、3年目はわずか1勝でシーズンを終えた。2019年はプロ入り後初めて開幕ローテーション入りし、規定投球回にも到達して9勝をマーク。2020年はリーグ6位の防御率3.36、リーグ最多の先発登板数を記録。2021年には13勝を挙げ、自身初となる最多勝利、最高勝率のタイトルを獲得。また、東京五輪の野球日本代表にも選ばれ、金メダル獲得に貢献した

●お股ニキ(おまたにき)OMATANIKI(@omatacom)
野球評論家、野球アドバイザー、ピッチングデザイナー。野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、フォロワー4万人を超える人気アカウントに。ダルビッシュ有投手を筆頭に40名以上のプロ野球選手が加入するオンラインサロンを運営し、アドバイスを送る

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