世界最高峰のボランチをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第33回目のテーマは、世界最高峰のボランチについて。日本代表のボランチとして活躍した福西崇史氏が考えるボランチの理想像はどのような選手なのか? 世界で活躍した歴代のサッカー選手の中から5人を選んでもらった。

 * * *

日本代表がEFFA E1選手権で韓国代表に3-0で勝利して、4大会ぶり2度目の優勝をしました。Jリーグ組だけで臨んだなかで注目していた選手のひとりが、ボランチの藤田譲瑠チマ(横浜FM)。東京ヴェルディのユース時代から知っている選手で、パリ五輪世代の主力ボランチが日本代表でどんなプレーを見せてくれるのか楽しみにしていました。

W杯カタール大会へのメンバー入りという点では、もうひと皮もふた皮も剥けてこないと難しい気がしました。日本代表のボランチ陣には、遠藤航を筆頭に、守田英正や田中碧などの選手たちがいますからね。

ただ、まだ20歳の選手です。プレーの随所に大雑把な部分も見られましたが、2026年のワールドカップやその先では日本代表のボランチの主軸になりうるポテンシャルは見せてくれました。その潜在能力は高いものがあると感じていますし、そのすべてを発揮して、世界最高のボランチを目指してもらいたいと思います。

『世界最高峰のボランチ』。こう言うのは簡単ですが、その言葉がどんな選手を指すのか漠然としていますよね。そこで今回はボクの考える世界最高のボランチを5選手ピックアップします。ボランチという定義も曖昧ですが、ここでは中盤で守備の比重が高い選手としてとりあげていきますね。

■現代サッカーでナンバーワンはエンゴロ・カンテ

まずは現役選手だと、フランス代表でチェルシーに所属するエンゴロ・カンテがナンバー1ボランチでしょうね。2018年W杯の優勝メンバーですが、日本では岡崎慎司とレスターでチームメイトだったので、それ以前から日本では馴染みのある選手ですよね。

持ち味はボール奪取能力の高さ。運動量も豊富で、危険なところに必ず顔を出してピンチを未然に防ぎます。2015-2016シーズンはこの能力でレスターのプレミア制覇に貢献しましたが、チェルシーに移籍した翌シーズンからは攻撃面でも成長を遂げました。ゴール前に攻め込んでゴールを決めたり、アシストをしたりというプレーが増え、攻守両面でチームに不可欠になっています。

そのカンテも今年で31歳。レスター時代のような若さはないですが、その変わりに円熟味は増しました。フランス代表として臨むW杯カタールではどんなプレーを見せてくれるのか興味深いです。

■カンテとのコンビだと威力倍増、ポール・ポグバ

ポール・ポグバ(29歳)のプレースタイルは、守備の選手と言い切れない部分もありますが、ポジションはボランチですからね。フランス代表でボランチを組むカンテとのコンビは世界一。となると、ポグバの名ははずせないんですよね。

彼のすごさはプレーエリアの広さ。中盤の底で守備に専念するのが従来のボランチ像でしたが、彼は相手ゴール前へとどんどん攻め上がります。フランス代表ではカンテが相棒なので、その傾向は強まりますよね。もし海外サッカーに詳しくない人が、ポグバが相手陣でプレーする姿を見たら、FWの選手だと勘違いしても不思議ではない気がします。

もちろん、守備も強く、身長が191cmあるので、高さの面でもメリットはありますよね。なにより攻撃への意識が高いので、自陣でボールを奪ったら相手陣へと攻め上がる姿は、現代サッカーで重視される『ボックスtoボックス』を体現しています。

今夏にマンチェスター・ユナイテッドから古巣のユヴェントスに復帰しましたが、右ヒザ半月板損傷のケガを負ってしまいました。もしかするとW杯カタールに間に合わない可能性もあるということで、これは連覇を狙うフランス代表にとっては痛手ですよね。

■ボランチの仕事を変えたパトリック・ヴィエラ

現代サッカーにおけるボランチの仕事は多岐に渡っていますが、以前のそれはDFラインの前で相手からボールを奪うことがメインでした。それを変えたひとりが、パトリック・ヴィエラでしたよね。

ヴィエラは年齢ではボクの1つ上でしたが、彼のプレーからはたくさんの刺激をもらいましたね。98年W杯フランス大会、2000年EUROに優勝した頃はまだ、ディディエ・デシャン(現フランス代表監督)の控えでしたが、それ以降はフランス代表の不動のスタメンとして中盤の底から支えました。2006年からはキャプテンマークも巻きましたね。

フランス代表だけではなく、アーセン・ヴェンゲル監督が率いたアーセナルで中心選手として長く活躍した(1996年-2005年)こともあって、そのプレーぶりはいつも気になっていました。192cmの長身で身体能力も高かったですが、それだけではない選手でした。ボールを奪う、相手の攻撃を読む、そういう能力も高かったですよね。加えて、パス精度の高さ。当時のフランス代表にはジネディーヌ・ジダンが君臨していたので、攻撃のところでの脚光が当たることは多くはなかったですが、ヴィエラの展開力があればこそでもありましたね。

■歴代で世界最高峰はヤヤ・トゥーレ

ボクがこれまで見てきた数多くのボランチ、守備的MFのなかで世界最高だと思っているのが、ヤヤ・トゥーレです。

コートジボワール代表として2014年W杯のグループリーグでは、日本代表に逆転勝利して、FIFA選出のマン・オブ・ザ・マッチになりました。あのW杯はケガの影響もあって本来の守備的MFではないポジションでの起用が多かったですが、それでも日本戦のように活躍できてしまうのが、ヤヤ・トゥーレのすごさの一端ですよね。

ヤヤ・トゥーレは、2007年から2010年までの3シーズンをバルセロナ、2010年からの8シーズンをマンチェスター・シティでプレーしましたが、全盛期は何でもできるスーパーマンでしたね。身長191cmある足の長さをいかしたパスカットや、ボールホルダーへのプレッシャーなどもすごかった。また、攻撃での推進力も高くて、パス精度も素晴らしい。

もちろんこれだけでも文句なしに素晴らしい選手だと言えるのですが、ボクが彼を世界最高に推す理由は、そうしたフィジカル的な優位性を生かすプレーだけではなく、ゲーム勘やサッカー脳のところでも秀でた選手だったからですね。

ヤヤ・トゥーレはサッカーの歴史においても分岐点になった選手だと思います。それまでのボランチ像というのは背の小さな選手がチョコマカと守備のために動くというもの。それがヤヤ・トゥーレをDFラインの前に置くことで、ボランチの仕事は大きく変わりました。相手は制空権も奪いにくくなりましたよね。これはヴィエラもそうでしたが、彼らの登場によって、ボランチや守備的MFが守備だけをしていればいいポジションではなくなっていきました。

■ボランチ師の名はやっぱりリストからはずせない

最後はやっぱりドゥンガを挙げたいですよね。現代サッカーのボランチ像がボックスtoボックスだとしたら、ドゥンガはその少し前の時代のボランチなのでプレースタイルとしては、ここまで挙げた4選手とは違うので特別枠という感じでしょうか。

ドゥンガとはジュビロ磐田に入ったのが1995年で同じなんですね。そこから3シーズンを一緒にプレーしましたが、ドゥンガはつねにボクのお手本でした。磐田に入ってFWからボランチに転向したボクの目の前に、W杯アメリカ大会で優勝したブラジル代表メンバーがいる。これほど恵まれた環境は、いまのJリーグからは想像できないですよね。

ドゥンガというと"闘将"というイメージがあると思います。確かに声でチームメイトを動かしていくことが多く、そこがクローズアップされることが多かったですよね。でも、ブラジル代表のW杯優勝メンバーですから、当然ながら個の能力も非常に高かったですよね。ドゥンガの大きな特長は味方の選手を動かしてボールホルダーにプレッシャーかけ、自分のほうにおびき寄せて奪うプレーでした。このプレーは体力的に自信のなかったボクが、経験を積みながら真似したものでした。

こうしたドゥンガの教えがあったからこそ、ボクは日本代表になれたと思っています。まわりの選手を生かすのがボランチの能力のひとつだとしたら、やっぱりボクはドゥンガによって生かされた選手なのかなとも思いますね。

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★