不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第35回目のテーマは、海外リーグ。いよいよ海外リーグの新シーズンがスタートしたが、その中で福西崇史が注目している日本人選手とは?
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海外各国で2022-2023シーズンが開幕しましたね。ワールドカップカタール大会が控えているなかでは、やっぱり日本選手の立ち位置が気になってしまいます。クラブチームのなかでシーズン序盤戦から確固たる地位を築けるか。それによって日本代表のあり方も変わってしまうと感じているからです。そして、多くの選手たちは、いいスタートを切れたなと思っています。
久保建英は今季、レアル・ソシエダに完全移籍して開幕戦を迎えましたが、ラ・リーガに挑戦して3年目で最高のスタートを切りましたよね。開幕戦でスタメンに名を連ねると、勝利に導く決勝弾を決めました。
やっぱり主導権を握るチームでは、彼のプレースタイルはいきてきますよね。そして、それを日本代表でも発揮するには、この活躍をどこまで継続できるかがポイントでしょう。クラブで何試合も目立った結果を出し続けていければ、日本代表内での地位を変えるチャンスが訪れると思います。
いまの日本代表はアンカーを置く中盤の構成をしていますが、久保がここから1カ月、2カ月のスパンでゴールを数多く決めたり、試合を決定づけるアシストをしたりしていけば、それが変わる可能性だってあるわけです。森保(一)監督も久保の良さを日本代表でも活かそうと考えて、トップ下のあるフォーメーションに変えるかもしれないですからね。そうなるくらいの活躍を続けてもらいたいですね。
これはなにも久保に限った話ではないですよね。ほかの選手たちもゴールをいくつも決めたり、アシストで勝利に貢献したりのパフォーマンスを何試合にもわたって見せることができれば、日本代表のフォーメーションやポジションは変わる可能性はあります。逆に言うと、それくらいまだ固まっていないとも言えるのですが。
堂安律も新たにフライブルクに移籍しました。右サイドアタッカーのポジションは伊東純也に越されてしまったけれど、もう一度日本代表での価値を高めるために決断したんでしょうね。心機一転で迎えた新シーズンは久保と同じくゴールという結果を出して好スタートを切りました。
堂安は6月の代表戦で久しぶりに存在感を見せてくれましたが、ボクの感想としては「あんなもんじゃないだろ」なんですよね。彼のポテンシャルを考えれば、あの程度では満足できない。ここからブンデスリーガで堂安らしさに磨きをかけて、ワールドカップでは日本代表にその力を還元してくれることを期待しています。
左サイドアタッカーの三笘薫は今季からプレミアリーグのブライトンでプレーをしますが、楽しみですよね。開幕前からしっかりアピールできていますから、出場機会は今後は増えていくと思います。ただ、相手も三笘のことを研究してくるなかで、三笘の個の力がどこまで通じるのか、ここからどれだけ伸びるのかを見届けたいですね。
一方で、移籍をしない決断もあるわけです。鎌田大地がその典型でしょうね。まだ移籍ウインドーが閉まってはいないので、今後の急転直下の展開もありえますが、ここまでの流れを見るといまはフランクフルトでワールドカップまでは戦うのかなと感じますよね。
これまでに主軸としてチーム内で地位を築いていますし、チームメイトも鎌田がどういうプレーヤーかを理解している。そういう環境で試合に出ながらコンディションを上げていけるのが、ワールドカップを見据えた場合の鎌田にとってのメリットということです。
さらに裏を返せば、鎌田がワールドカップにそれほど強い想いを抱いているということでもあるわけです。今季は開幕時点からコンディションも整っているようなので、どれだけの成績を残せるかに注目しています。その成績次第で鎌田のポジションがつくられる可能性だってあるわけですから。
注目といえば、古橋亨梧、前田大然(ともにセルティック)、浅野拓磨(ボーフム)の3選手がもっとも気になっています。ワールドカップメンバーを決めるときに、森保監督はこの3選手をどう選択するのかに興味があるからです。
3選手ともスピードという特色は似ています。そのなかでどう差別化するのか。これは選ぶ側だけではなく、選手自身もプラスαの部分でのアピールが必要ということでもあるわけです。古橋なら1トップがいいけれど、日本代表がボールを保持できない戦い方になった場合だと、彼の持ち味は出しにくいわけです。そこでのプラスαが必要になってくる。前田にしても、浅野にしても、それぞれのプラスαをどうアピールし、ほかよりも抜きん出るのか。
もちろん、3選手を同時に使うという選択肢も日本代表にはありますよね。中盤を省略する戦い方で3選手のスピードを生かす道はありますからね。そのための陣容を森保監督に模索させるためには、3選手ともが日本代表に不可欠だという結果をクラブで残していかなければならない。これはワールドカップでの現実に即した戦いにもなりうるものなので、3選手のシーズン序盤のパフォーマンスには注目しています。
いまや海外組は日本代表選手だけではなく、若手からベテランまでたくさんの選手がいます。クラブでレギュラーとして活躍したからと言って、日本代表に選ばれるわけではないほどレベルも高まっています。ただ、ワールドカップの登録選手数が従来の23人から26人に増えたことですし、招集する選手のうち1枠くらいは、経験や知名度があって、その人がいるだけで代表に注目が集まるような選手を選ぶのも手かなとも少し思っています。
メディアで仕事をしていて感じるのが、日本代表への注目度の低下。低下というと語弊がありますね。むかしに比べると、サッカーが日本に浸透したがゆえに、代表戦ならなんでもかんでも注目される時代ではなくなったということです。
先月のE-1選手権では、日本代表戦なのに観客席が半分ほどしか埋まらない試合がありました。この理由はサッカー人気がないせいかといえば、違いますよね。その裏では日本ツアー中だったパリ・サンジェルマンには、練習に1万人が詰めかけ、試合でも超満員になったわけですから。
要因のひとつは、観る側の目が肥えてきたこともあるでしょうね。国際大会や対戦相手の格付けが、世界のサッカー・ヒエラルキーのなかで、どこに位置しているかが、むかしに比べたら誰もが知るものになりました。そうしたなかでメディア的な視点で言うと、やっぱり日本代表に注目してもらう必要はあるわけで、サプライズな選手選考は必要かなと思うわけです。
そこで気になるのが香川真司です。スペインリーグへの挑戦によって結果的に日本代表から遠ざかることになってしまいましたが、まだ32歳。老け込むような年齢ではないですし、昨季途中から所属するベルギーのシント=トロイデンでは、世界トップのクラブでプレーした技術力は健在なところを見せています。
実力は間違いない。でも、代表活動に残された時間を考えれば、香川を日本代表に招集するメリットは、戦力的な部分で望めることは多くはないわけです。ほかの代表選手と合わせることの難しさはあるし、起用法は限定的なものにならざるを得ないですからね。
でも、それでも香川が持つ知名度の高さは、やっぱり日本選手のなかでは圧倒的なものがある。日本代表への関心を、サッカーに興味のない層まで掘り起こすには、香川の力を借りるサプライズがあってもいいのかなと思うわけです。現実味は薄いですけどね(笑)。
それくらいショックでしたよね、日本代表戦に観客が集まらないことが。コロナ禍で判断の難しい状況が続いたことも観戦離れの要因にはあると思いますが、それを打破する起爆剤に香川になってもらいたいなっていうことです。
でも、それだけではないですよ。そこを差し引いても今季の香川には、注目してほしいなと思っています。技術と経験をシント=トロイデンで発揮して、存在感を出していますからね。やっぱり香川はすごい。そう思わせてくれるシーズンになることを期待しています。