本塁打数、打点とも2位以下を大きく引き離す村上。打率も上位で、2004年の松中信彦氏(ダイエー)以来、18年ぶりとなる「三冠王」誕生が見えてきた

プロ野球史上初の5打席連続本塁打という記録を打ち立て、史上最年少となる22歳6ヵ月での40本塁打を達成するなど、驚異的な活躍を続けるヤクルトの4番・村上宗隆。

8月15日時点で41本塁打と100打点はリーグ断トツで、打率(.320)も上位をキープ。18年ぶりとなる「三冠王」の誕生も現実味を帯びている。

そんな村上は小学生時代、かつて〝史上最高のスイッチヒッター〟と呼ばれた松永浩美氏に指導を受けたことがあるという。阪急・オリックス、阪神、ダイエー(現ソフトバンク)で活躍し、約20年の現役生活で通算1904安打をマーク。

現在は九州を拠点に野球教室で指導をしている松永氏に、少年時代の村上のエピソードや、昔と今のバッティングなどを聞いた。

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■ポテンシャル以上に光っていた〝人間力〟

――子供の頃の村上選手の印象や、指導することになった経緯を教えてください。

松永浩美(以下、松永 現役時代から交流があった、元広島の今井譲二さんが熊本県で野球塾をやっているのですが、塾の開始当初に何回かコーチとして呼ばれていました。

今井さんに「何人か、インコースの打ち方がわからない子がいるから教えてくれないか?」と言われて指導をしたんですが、その中のひとりが村上だったんです。当時はそこまで体も大きくなく、目立つ子ではなかったですね。彼が小学3年生ぐらいのときだったと思います。

――記憶に残っているプレーはありますか?

松永 最初に指導をしてから数年後、野球塾に顔を出したら試合をやっていて。今井さんから「マツ、今日はちょっと面白い子を使うから」と言われたので楽しみに見ていると、村上がレフト、センター、ライトと3打席連続でホームランを打ったんですよ。「すごい子やな」と思いました。

ただ、私は〝野球がうまい子〟はたくさん見てきました。体の強さや大きさなども大事ですが、一番大事なのは〝人間力〟。その点も見ていましたが、村上は周囲への気配りがよくできる子でしたね。それで、「ひょっとしたら、この子はいいところまでいくかもしれない」と感じました。

――ヤクルトでも、若手ながら積極的にチームメイトに声をかけたり、鼓舞したりする姿が印象的です。

松永 そうですね。小学生の頃も、学年が上がるごとに積極的に大きな声を出すようになっていき、仲間が困っているときには「どうした?」と気にかけたりと、気遣いができる子でした。親分肌っぽい感じもありましたね。

あと、今井さんが「あいつもかわいいところがあるんだよ」と話していたんですが、ドラフトのとき「僕って上位で指名かかりますか?」「本当に大丈夫ですか?」などと言っていたみたいで。同期の清宮幸太郎(日本ハム)が注目されていましたし、不安だったんでしょう。そういう人間味も村上の魅力だと思います。

■体重移動を教えた村上が22歳でたどり着いた領域

――当時のバッティングはどうでしたか?

松永 スイングするときに、バットのヘッドが寝ないで立ったまま出ていました。ヘッドが寝てしまう(ヘッドが地面と水平のラインよりも下がる)と、インパクトの際に力が入りにくいのですが、立っていればインパクトが力強くなる。

時々、何も言わなくてもそれが身についている子もいるんですが、村上にも備わっていました。

――村上選手は、九州学院高校時代はキャッチャーでしたが、当時のポジションは?

松永 キャッチャーだけでなく、いろいろなポジションを守っていましたよ。村上に限らず、野球塾ではキャッチャー、ファースト、サードなど多くのポジションを経験させます。ただ、小学生でキャッチャーをやる場合は手首が強くないとできません。その手首の強さは、バッティングにも生かされていますね。

――先ほど話に出た、村上選手に教えたインコースの打ち方とは?

松永 インコースを打つときに大切な体重移動と、「かかと」を意識させたくらいです。左打者でいうと、左足を軸に、右足をステップさせて体をピッチャー方向に動かしますよね。体重移動というとその動きをイメージする人が多いですが、私はそれが体重移動だとは思っていません。

体をピッチャー方向に大きく動かさなくても、右足の爪先からステップして、かかとにクッと重心を乗せるだけで体重移動は十分にできています。それができている今の村上はほとんど頭が動かないし、体が前に突っ込まない。

私も現役時代に「バッターボックスで〝暴れるな〟よ」とよく言われましたが、動きすぎないなかで、どうやって処理していくかが大事です。

――村上選手のバッティングのすごいところは?

松永 自分のストライクゾーンが、はっきりと見えているように感じます。アマチュアでは「ボールをよく見ろ」という指導も多いですけど、私はバッティングではボールを見ていませんでした。

ボールの高低、コース、球種など、過去に打ってきた自分のバッティングフォームは頭の中に絵として残ります。投手が投げた瞬間にその映像が浮かぶので、その映像どおりにスイングするだけなんです。

それがボールであろうが、「このコースはこうやって打ったな」という感覚と再現能力さえあれば、必ず打てる。たぶん、村上もそのくらいの領域に達していますよ。

――松永さんがそういう感覚をつかむまで、どのくらい時間がかかりましたか?

松永 1軍の試合に出始めて6年目くらいですから、25歳前後ですかね。そういう感覚を身につけると、配球に惑わされなくなります。村上は22歳でそこにたどり着いた。これからも、どんな成長を見せてくれるか楽しみです。