甲子園の熱闘も幕下ろし、8月の暑さもピークを越えたような感じですね。優勝した仙台育英のみなさんをはじめ、全国の球児とそれを支えたみなさん、お疲れ様でした。
みなさんこんにちは、野球大好き山本萩子です。今日は真剣勝負だからこそ見られる「敬遠」という作戦についてお話しようと思います。
敬遠とは、決して勝負から逃げているわけではなく、あくまで作戦だと強く思うようになったのは、MLBロサンゼルス・エンゼルスのマドン監督が、満塁から敬遠したシーンに衝撃を受けたから。
満塁で敬遠というのは、当たり前ですが、無条件に1点を相手に与えるわけで、滅多に見られる場面ではありません。目の前の打者を歩かせて次の打者と対戦したほうが最小失点で済むだろうという、要するに確率論ですね。データを重要視するアメリカらしい作戦ともいえます。
ただ、野球は確率だけで成立するスポーツではありませんし、敬遠が失敗に終わることも多々あります。試合後にその作戦が非難されることもあり、監督を含めたベンチの判断が難しいであろうことは想像に難くありません。
昔は申告敬遠はありませんでしたから、敬遠をする場合はわざとはずれたボールを投げていました。これが難しかったようで、クロマティ選手(元・巨人)や新庄選手(現・日本ハムファイターズ監督)が敬遠球を打ち返して話題になったことも。
敬遠の後の初球にも注目でした。投手もストライクゾーン以外に投げるのは緊張するようで、敬遠の後にリズムつかむために初球はストライクを投げ込みたいし、打者もそれを狙いたい......。
申告敬遠が生まれたのは投手の球数を減らすためですが、敬遠された次の打者は間違いなく燃えますよね。敬遠を判断したベンチか、あるいは打者に軍配が上がるのか。敬遠の次の打席にはかならずドラマが待っています。
申告敬遠の誕生により、もうひとつ山本が注目するシーンが生まれました。それは、監督が申告敬遠を球審に伝達する際に、投手がどういう表情をするかです。
敬遠は作戦ではありますが、目の前の打者から逃げていると感じる投手もいるのかもしれません。エースとしての自負がある場合は、納得がいかないこともあるのでしょう。
ただ、申告敬遠に納得できず、「えっ」という表情を浮かべた投手は、次の打席で打たれることが多いような気が。これは統計もエビデンスもないただの私の直感なので、信じるか信じないかは皆さん次第なのですが、きっとモヤモヤを抱えたままの心情でマウンドに立ったことが、ピッチングに影響を与えているのかなと。
ヤクルトの村上宗隆選手が、プロ野球記録となる5打席連続HRを打ったときのことを振り返ります。
村上選手は対阪神戦の3打席目でサヨナラHRを打ったのですが、それまで好調だった村上をなぜ阪神ベンチは敬遠しなかったのかとファンの間で議論になりました。
敬遠を選ばなかった阪神ベンチは結果的に打たれてしまいましたが、ここを避けてはいけないという強い姿勢を示したともいえます。長いペナントレースのなかで、この場面を避けては上位を狙えないという思いもあったのかも。
しかし、こうして必ず議論を呼ぶのも、敬遠の面白いところ。
それでも、敬遠とは泥臭く勝つための選択肢であってほしいと思います。敬遠策を選択したことが、そのときは批判されるかもしれませんが、シーズンが終わったあとに評価されるものであってほしいと思います。
そもそも敬遠とは緊迫した試合で行われるわけで、つまり勝負どころということ。敬遠は試合の見どころを教えてくれるのです。
敬遠って本当に面白いものですね。それでは!
★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン