今大会では3試合で3本塁打。高校通算67本塁打を記録した浅野翔吾(高松商・香川)

10月のドラフトに向けて、スカウトの評価の上がった選手を一挙紹介!

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■甲子園を沸かせた選手の評価

今夏の甲子園で最も衝撃度の強いパフォーマンスを見せたのは、讃岐の怪童・浅野翔吾(高松商・香川)だ。初戦の佐久長聖(長野)戦で2本塁打をマークするなど、3試合で打率.700、3本塁打、6打点の大暴れ。

高校生の右打者が甲子園球場の右中間最深部に本塁打を打つことなどまれだが、浅野はあっさりと放り込み、試合後には「少しこすりました」と驚きのコメントを残している。近江(滋賀)との準々決勝では大会屈指の好投手・山田陽翔の投じた146キロの快速球をバックスクリーンに叩き込んだ。

171cm、86kgと上背はなく、見栄えのする体形ではない。だが、根っからのホームランアーチストで、小学生時には95本塁打、中学時は55本塁打を記録。高校では甲子園で放り込んだ3本を含め通算67本塁打をマークしている。

清原和博(元西武など)の高校通算64本塁打を上回り話題になったが、長尾健司監督は「ウチは公立校だからコロナの影響を受け、練習試合の数が大きく減っている。浅野ならもう40本は打っていたはず」と証言する。中村剛也(西武)の動画を参考にし、ボールに対してバックスピンをかける技術が飛距離の秘訣だと浅野本人は語る。

浅野は信じられない発想力の持ち主でもある。2年時の秋には右打席だけでなく、スイッチヒッターとして左打席にも立つようになった。

浅野は「右も左も飛ばし方は一緒ですから」と事もなげに言うが、チームメイトからは「もはや人間じゃない。ゴリラみたいだ」と評されているそうだ。本人も「野性的な動きを見てもらいたい」と人間離れしたプレーぶりをアピールポイントにしている。

甲子園では「左打席に立つのは右の軟投派投手のときだけ」と右打席限定だったが、将来的には日本人では珍しい長距離砲タイプのスイッチヒッターへの期待も膨らむ。

また、浅野はただ打撃力が高いだけでなく、50mを5秒9で駆ける脚力やセンターからの鋭いスローイングも兼ね備える。走攻守三拍子が高い次元でそろい、甲子園で伝説的な活躍を見せたとなれば、当然今秋のドラフト1位候補になるだろう。

打の主役が浅野なら、投の主役はまたもこの男。近江を昨夏の甲子園ベスト4、今春のセンバツで準優勝、今大会はベスト4に導いた山田陽翔だ。甲子園通算11勝は歴代5位タイの記録。

右腕を真上から叩き下ろすような腕の振りから、最速148キロをマーク。それ以上にスカウトをうならせたのは、高精度の変化球だった。

「ストレートと同じ軌道から曲がるカットボールは、高校生では打てません。春までは山田君を野手として評価していましたが、やはり投手だなと見直しました」(楽天・後関昌彦スカウト部長)

今夏の海星(長崎)戦で満塁本塁打を放ったように打者としても高いポテンシャルを秘めるが、本人も強い投手志向を表明する。「上背もないし、やや早熟気味」と語るスカウトもいるため、ドラフト中位(3~5位)程度の評価になりそうだ。

春夏連覇は逃したものの、タレント軍団・大阪桐蔭もスカウト陣の視線をくぎづけにした。特に評価が高いのは、捕手の松尾汐恩。細身ながら飛ばす力があり、2年夏から3季で甲子園通算5本塁打を放った。

高校1年の秋までは遊撃手を務めており、今でも内野手として評価するスカウトがいるほど。フットワークを生かした機動的なスローイングも超高校級で、「ドラフト1位じゃないと獲れない」と語るスカウトもいる。

エース右腕の川原嗣貴は、馬力も制球力も高い次元でそろうバランスの取れた投手に成長。来年のドラフト1位候補である2年生左腕の前田悠伍ら投手層が厚く、甲子園で酷使されていない点も好材料だ。

眠っている潜在能力にかけては今年のドラフト候補ナンバーワンと目されるのが、5番・センターの海老根優大。182cm、85kgとたくましい体躯(たいく)で、その超人的な飛距離と強肩は今すぐプロに入っても目を引くだろう。

盗塁も可能な快足の持ち主でもあり、好不調の波の激しい打撃面の成長次第で日本を代表する外野手になる可能性を秘めている。

今夏は大会の目玉と目された田中晴也(日本文理・新潟)、森下瑠大(京都国際)の2投手が故障で本来の力を発揮できずに敗れ、侍ジャパンU-18代表選出も叶わなかった。

とはいえ、田中は投手としての高い総合力とポテンシャル、森下は好球質のストレートと左肘痛からの回復ぶりをアピール。田中は大学進学の含みも持たせており、今後の動向が注視される。

甲子園で株を上げた新星では、富島(宮崎)のエース・日高暖己の名前を挙げたい。同じ宮崎の都城出身の山本由伸(オリックス)を彷彿(ほうふつ)とさせる、腕全体をダイナミックにしならせる投球フォーム。捕手のミットを力強く叩くストレートを武器に存在感を見せたが、初戦で今夏のダークホースになった下関国際(山口)に敗れた。

浜田登監督が「いくら勧めても投手をやりたがらなかった」と嘆くように、もともとは野手志望で本格的な投手歴は高校2年時の秋以降と浅い。侍ジャパンU-18代表とはならなかったが、プロで大化けが期待できる好素材だ。

同じく強烈なインパクトを残したのは、興南(沖縄)のエース右腕・生盛亜勇太。2年秋から3年春までケガで表舞台に立てなかった存在だが、今夏の甲子園で自己最速を更新する148キロを計測。ミサイルのように捕手のミットに突き刺さるストレートは、誰よりも速く見えた。

こちらは、侍ジャパンU-18代表にサプライズ選出されている。高校卒業後は大学進学の意向を表明したが、いずれ4年後のドラフト上位指名を狙える存在になるだろう。今から目が離せない。