偉大な記録が生まれた今年のペナントレースも大詰め。本日は、"人生出たとこ直球勝負"の山本が、「変化球」についてお話させていただきます。

変化球って、すごいですよね。あれだけ硬いボールが曲がったり落ちたりするのがとても不思議に思います。昔は主に、カーブ、シュート、スライダー、フォークくらいしかなかったと記憶しているのですが、気がつけば球種はその名前を変えながら増え続けています。

直線的な軌道を描く球はフォーシーム、打者の手元で投手の利き腕方向に小さく変化するボールはツーシーム、利き腕と逆方向に変化するものをカットボールと言います。

同じフォーシームでもナチュラルにシュート回転する球を投げる投手もいたり、回転軸、握り方などによって球の個性はまったく異なります。

そもそも変化球は自己申告。投手本人がツーシームといえばツーシーム、シンカーといえばシンカー。スライダーとカットボールは球速の違いで区別することが多いのですが、ほとんど変わらないことも。

たとえば、ミネソタ・ツインズの前田健太投手がチェンジアップと自称している球は、握りは完全にスプリット。MLB中継では投手が投げた瞬間に球種が表示されるのですが、どうしてもスプリットにしか見えないので、ついに「スプリットチェンジ」という表記に変わった、ということもありました。

DeNAの山崎康晃投手の落ちるボールも、本人はツーシームと言っていますし、周囲の客観的な判断に対して、「いや違います」と投手自身が首を横に振るのは面白いですね。おそらく、投手には自分のイメージした軌道があって、そのイメージにぴったりの球種を口にするのかもしれません。

最近では、他の投手の変化球をコピーする選手もいます。メジャーでは高性能カメラやビッグデータが普及したことで、投手の伝家の宝刀の変化球も数値で表せるようになったのが大きな理由です。他の投手の球の握りなどを実際に取り入れたドジャースのトレバー・バウアーという投手は、実際に素晴らしい成績を残しました。

かの伊藤智仁さんのスライダーは、とにかく曲がるけど真似しようと思っても誰にも出来ませんでした。でも、今後はメジャーのように分析が進むと、他の投手でも同じように投げられる時代がくるのかもしれません。

夏の終わりに、今年もあまり外出せずほとんど日に焼けなかった山本を置いておきます 夏の終わりに、今年もあまり外出せずほとんど日に焼けなかった山本を置いておきます

しかし、まったく同じように投げても、同じ球が投げられるとは限らないのが面白いところ。エクステンションの違いや、回転数と回転軸が少し変わるだけで全然違うボールになるのでしょう。そのボールを投げられるのはその選手だけ。指紋のように人それぞれ違う変化球は、まさに投手の個性。

ダルビッシュ有投手と対戦したことがある岩村明憲さんは、ダルビッシュ投手が持つ変化球が多すぎて何が来るかわからなかったため、速い球・少し速い球・ゆっくりした球の3つにわけて待つしかないとおっしゃっていました。変化球を巧みに操る投手に対して、岩村さんほどの選手でもそれくらいしか対処方法がないのです。

エンゼルスの大谷翔平選手が、最近ツーシームを投げ始めました。直球とスプリットのイメージが強かった大谷選手ですが、ツーシームを投げ始めたのは、長く活躍し続けることを考えたからなのかもしれません。小さく手元で動くボールは1球で仕留められますし、省エネになります。投手のキャリアに大きな影響を与えますよね。

ということで、最後に私のお気に入り変化球3選を。

・相手を手球に取る、ヤクルト・石川雅規投手のシンカー
・左打者がのけぞる、パドレス・ダルビッシュ有投手のツーシーム
・私たちの想像を超えて野球盤のような落ち方をする、ドジャース・カーショー投手のカーブ

どの球も一見の価値あり。皆さんオススメの変化球も教えてくださいね。話もきっちり落ちたところで、それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!