W杯の名試合をフカボリ! W杯の名試合をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第40回目のテーマは、福西崇史氏の印象に残っているW杯の試合について。前回配信した記事では、福西氏の印象に残ったPK戦を選んでもらったが、今回は深く記憶に刻まれたW杯の試合4試合をピックアップしてくれた。

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ワールドカップ前に行える最後の代表活動が始まります。日本代表はもちろんのこと、このタイミングで代表に選ばれているメンバーというのが、基本的に本大会の登録枠26人になると思います。ここから選手が入れ替わったとしても多くて2人、3人でしょうし、もしそれ以上の人数を変更せざるを得ない状況だとしたら、その国はピンチかもしれませんよね。

各国代表がテストマッチを行うことで、ここからワールドカップ機運がグッと高まっていくわけですが、前回テーマのPK戦のなかで過去のワールドカップについて触れたので、今回はボクのなかで鮮烈な記憶となっている試合をピックアップしたいと思います。

■1994年アメリカ大会 ブラジル代表×イタリア代表

前回も触れましたが、やっぱりこの試合は外せませんね。それくらい当時高校3年生だったボクに与えたインパクトは強烈なものでした。部活動としてサッカーをやっていた自分に、世界ではサッカーというスポーツがどんな風に広がっていて、そこはどんなレベルなのかを教えてくれた試合だったなと思います。W杯決勝戦のPK戦のプレッシャーは、想像を絶するものがありますよね。可能ならばあの舞台を一度は味わってみたいし、あそこに立てる選手というのが技術面でもメンタル面でも、世界トップの選手ということなんですよね。

■2006年ドイツ大会 イタリア代表×フランス代表

衝撃的でしたね。イタリア代表DFのマルコ・マテラッツィへの頭突きでレッドカードを受けて、あのジネディーヌ・ジダンが退場になるんですから。

選手なら頭突きをしたら退場になることくらいは、もちろんわかっているわけです。それをあのジダンがワールドカップ決勝という舞台でやってしまった。なぜ、退場覚悟で頭突きをしたのか? その理由がなんなのかは、僕にはわかりませんが、あの異様な光景は"すごいもの"として僕の中に刻まれています。

この大会はボクも日本代表として出場したので、帰国後に観ました。日本代表の戦いぶりを振り返って、「もっとああすればよかった」なんて考えながら観ていたような気がします。でも、そういうことのすべてが吹き飛んだのが、この瞬間でしたね。

ワールドカップ優勝がかかった舞台、しかも現役最後の試合で退場になる。実は大会のレベルは違いますが、ボクも現役最後の試合が退場で、ジダンと同じなんですよ(笑)。

ボクの場合はシーズン終盤の試合での退場で、その時点では次シーズンも現役を続けるつもりでいたので、最後の試合という意識はありませんでしたが、結果的に引退しちゃったのでラストゲームが退場なわけです。

退場してしまったこと自体は申し訳ないのですが、そんな辞め方は、もしかしたら世界中でジダンとボクくらいなのかもしれないですよね。だから、万が一、ボクがJリーグに現役復帰をした場合、そのシーズンはやっぱり出場停止処分から始まるんだと思いますよ(笑)。

■2014年ブラジル大会 ドイツ代表×アルゼンチン代表

延長後半でマリオ・ゲッツェがゴールを決めて、ドイツ代表が勝った試合ですね。ドルトムント時代は香川真司とプレーして、今シーズンはフランクフルトで長谷部誠や鎌田大地と一緒にやっているゲッツェは、実はまだ30歳なんですよね。

この大会のドイツ代表は、準決勝で開催国のブラジル代表を7-1で沈めたのも衝撃的でしたけど、それ以上にこの決勝戦には注目していました。リオネル・メッシのためにチームをつくったアルゼンチン代表が勝つのか、それとも全員攻撃・全員守備のチームが勝つのか。サッカーの転換点になると思っていたからです。

4-4-2のサイド攻撃からモデルチェンジをしたドイツ代表がこの試合に勝ったことで、世界のサッカーシーンは現在のサッカーで主流になっている、全員攻撃・全員守備のような連動するサッカーへと加速しましたよね。

■2018年ロシア大会 フランス代表×クロアチア代表

決勝戦そのものも印象的でしたが、この大会はサッカーのトレンドの移り変わりがすごく早まっているのを感じた大会でしたね。4年前に優勝したドイツ代表がグループリーグで姿を消すなんて、誰もが想像しなかったことでしたよね。

キリアン・エムバペという新たなスターが誕生し、またサッカーの流れが変わろうとしているなとも感じたのを覚えています。攻撃では圧倒的なスピードとテクニックを持った選手を擁していれば、ポゼッションを高める必要性は減ります。そのため、フランス代表はムバッペのスピードを生かすために、「タテに速い」サッカーをやって世界の頂点に立った。それが現在の潮流になっています。

しかし、ワールドカップが示すサッカーのトレンドは、過去のものでもあります。4年前に世界一になったタテに速いサッカーを超えるためのスタイルは、実はすでに練られていて、実践されてもいるわけです。それが顕著になるのがワールドカップの舞台でもあります。選手の力量とスタイルがぴったり噛み合わないと、結果につながらない難しさがあるのですが、史上初めて中東での開催となるカタールW杯では、どんなサッカーが繰り広げられるのか。いまから楽しみでなりません。

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