プロのリーグにはやっぱり圧倒的なスター選手が必要だと語るセルジオ越後氏 プロのリーグにはやっぱり圧倒的なスター選手が必要だと語るセルジオ越後氏

「僕が(Jリーグの)得点王を獲(と)ったら日本サッカー界はヤバいと思います」

少し前、そんな家長(川崎)のコメントが取り沙汰された。家長は誰もが認める川崎の大黒柱。今季もチームを牽引(けんいん)し、得点ランキングでも2位タイ(10点)につけている。

ただ、彼はもう36歳のベテラン。そもそもストライカーじゃない。照れ隠しの意味もあったにしても、そんな自分が得点王を獲ったら「ヤバい」という懸念は本音だろう。

今季のJ1の得点王争いが、史上最も低い水準で繰り広げられている。現時点の首位は、残り4試合の清水のチアゴ・サンタナで12点。家長のほかにレオ・セアラ(横浜Fマ)、アダイウトン(FC東京)、上田(7月に鹿島からセルクル・ブルージュに移籍)が10点で続く。

得点王の過去最少得点は、2019年の仲川、マルコス・ジュニオール(共に横浜Fマ)の15点。それを下回りそうな状況だ。

背景には、コロナの影響による過密日程や5人交代制、さらに入国制限で新外国人の獲得が難しかったことがあると思う。その一方で、順調に得点を重ねていた上田がシーズン途中に海外移籍してしまった。

また、例えば首位の横浜Fマはひとりの点取り屋に頼るサッカーじゃない。レオ・セアラとアンデルソン・ロペス(9点)は出場時間を分け合う形で起用されることが多いし、チームには彼ら以外にも西村(9点)や仲川(6点)など点の取れる選手がいる。そういう戦術的な理由もあるだろう。

ただ、それらを差し引いても、今のJリーグには強力なストライカーが見当たらない。得点ランキング首位のチアゴ・サンタナは残留争いをする清水でよく頑張っているけど、シーズン終了後に中東のクラブに大金で引き抜かれるとは思えない。歴代得点王に比べると小粒な印象が否めない。

何しろ初代得点王のラモン・ディアス(横浜マ)をはじめとした外国人はもちろん、日本人もカズ(三浦、V川崎)、ゴン(中山、磐田)、高原(磐田)、大久保(川崎)と錚々(そうそう)たる顔ぶれだからね。

昨年もレアンドロ・ダミアン(川崎)と前田(横浜Fマ)が最終節まで熾烈(しれつ)な争いを繰り広げ、一昨年はオルンガ(柏)の規格外のプレーが注目を集めた。それに比べると、今季は得点王争いのニュースが圧倒的に少ない。

例えば、渋谷の街頭で「Jリーグの得点王争いは誰がやっている?」とアンケートを取っても、ほとんどの人が「知らない」と答えるだろう。

だからこそ、今回日本代表に招集された町野(湘南、9点)や、売り出し中の細谷(柏、8点)といった若手には現状に満足することなく、残り試合での奮起を期待したい。

また、町野は湘南よりも強いチームにいればもっと点を取れるだろうし、それこそ海外クラブの目に留まりやすくなるはず。来季に向けてはそういう発想があってもいい。それはチーム側も同じ。

例えば、上田が移籍して以降、その穴を埋められていない鹿島は町野を獲りに行けばよかった。それだけで話題性があるし、もし鈴木との2トップが実現したら、鹿島ファンじゃなくても試合を見に行きたいと思う人が増えるよ。

話が少しそれたけど、プロのリーグにはやっぱり圧倒的なスター選手が必要。その意味で、今季の得点王争いの状況は寂しいね。

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