不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第41回目のテーマは、日本代表の欧州遠征について。ワールドカップの代表メンバー発表前では最後となる2試合を戦った日本代表。福西崇史氏の目に今の代表はどう映ったのか?
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カタールワールドカップを戦う日本代表メンバー発表前の最後の日本代表戦は、アメリカ戦に2対0で勝利し、エクアドル戦は0対0の引き分けでした。
このタイミングでの国際親善試合は、勝敗は二の次というのはあります。でも、それでも負けるよりは勝った方がいい。ただ、この2試合の感想を率直に言えば、対戦相手は2試合ともエクアドル代表くらいの強度のあるチームががよかったですね。アメリカ代表はカタールワールドカップの出場国ですが、主力選手を欠いていたり、コンディションが整っていなかったりで、本来の姿からは遠い出来でした。
自分たちがやりたいサッカーができるかの確認という立ち位置での試合なので、対戦相手の出来は関係ないという意見もあります。でも、ぼく個人の経験から言わせてもらえば、やっぱりこの時期の親善試合は少しでも緊張感を持って臨める相手がいい。ピリピリした雰囲気のなかで選手たちがどれくらいやれるのか。そこを見るのも大切だと思うからです。
アメリカ戦はドイツ代表を想定して組まれたと思うのですが、そこは相手のコンディションなどで目論見は崩れてしまった。けれど、日本代表は自分たちがやりたいことをしっかり表現できました。前線からプレッシングをかけて、中盤のところでボールを奪う。そこから素早くタテに展開してゴール前に迫るという狙いはしっかりできていました。
ただ、それだけになってしまったというところもあります。攻撃のところでは高い位置でボールを奪えることでタテに素早く攻め込みましたが、ダメならマイボールにしてもう一度組み立て直すという攻撃も見たかったですね。
同じくカタールW杯出場国のエクアドル戦は、相手のコンディションがよかったこともあって、日本代表は収穫と課題の両方をしっかり把握することができる試合になりました。日本代表はアメリカ戦からメンバーを全員変更して臨みましたが、あまりやらない組み合わせもあって前半は相手の良さが目立つ展開でした。あの展開だと1トップに入った古橋亨梧はかわいそうだし、中盤にパサーがいるメンバー構成でやらせてあげたかったですよね。
1トップのところは依然として解決策はなかった印象でした。上田は悪くなかったけれど、相手がドイツ代表になったらどうなのか。前田大然のようなスピードのある選手で行くのもありですが、ロングフィードが使えない難しさはある。選手をこの2試合で試せたことで、森保監督はいま頃は頭を悩ませているでしょうね。ぼくはコンディション的に不安がないのであれば、大迫勇也を招集するという手があってもいいと思います。どういう判断を森保監督はするんでしょうね。
エクアドル戦は後半途中から遠藤と鎌田を投入したことで、日本代表のサッカーがガラッと変わりました。高さで競れる上田綺世を1トップに置いた効果もありましたが、あの変貌ぶりを見て改めて強く感じたのは、日本代表は遠藤航と守田英正のチームになったなということです。
アメリカ戦はトップ下に先発で鎌田大地が入り、何度もシュートチャンスをもらって1ゴール。本番までに決定力を高めてほしいという希望はあります。鎌田が目立ったために鎌田のチームのように思われますが、やっぱり生命線はボランチのところ。遠藤と守田のふたりが相手からボールを奪い、攻撃へと切り替えるからこそ、鎌田にしろ、伊東純也にしろ、久保建英にしろ、前線の選手たちが躍動できる部分もあるわけです。
エクアドル戦は相手が前線からプレッシャーをかけてきたことで、日本代表はビルドアップのところで苦戦しました。遠藤と守田がいなかった影響は多少はあったでしょうね。本番では相手のレベルはさらに高まります、ドイツ代表、スペイン代表ですから。
ビルドアップのところでは、相手の前線の選手からプレッシャーを受けたからと簡単にサイドに回避してしまうと、そこは相手がボール奪取のために狙っているので、ボールを奪われてピンチになります。遠藤と守田が入れば大丈夫ではなく、本番までにもう一度確認してもらいたいです。
収穫でいえば、この2試合とも日本代表は4-2-3-1で戦いましたが、ドイツ戦は最初からは難しいですが展開的には3バックもありですね。ぶっつけ本番はさすがに厳しいと思っていたのですが、この欧州遠征で少しの時間ではあるけれど3バックを試した。これはW杯に向けて大きいですよね。
事前に試せたことで、もうW杯でも使うことができる。守備のときには両ウイングバックが引いて5バック気味に守るのですが、システム変更してからは相手に攻撃されることがほとんどなかった。そういう状況での対応を見れなかったのは残念ですけど、仕方ないですね。練習ではしっかり確認していると思います。
日本代表が決勝トーナメントに進出して、ベスト8以上という過去最高成績を残すためには初戦が重要なわけです。その相手であるドイツ代表は、バイエルン・ミュンヘンの選手たちを主体にしてチーム編成がされているわけです。
日本代表にはブンデスリーガでプレーする選手が多いので、ドイツ代表の選手たちに対して慣れている面がある。相手の強さやスピード、体の強さを想定できる。これを知る、知らないでは大きいですからね。
あと2カ月でW杯が始まるわけです。選手たちはここから各自の所属クラブで出場機会を手にしながら、コンディションをさらに高めていくわけですが、11月にふたたび顔をあわせる彼らが、最高の状態にいることを期待しています。