8月以降は「NEW藤浪」へ超絶進化した藤浪晋太郎。「1994年世代」のライバル、大谷翔平との「夢の対決」が早く見たい!8月以降は「NEW藤浪」へ超絶進化した藤浪晋太郎。「1994年世代」のライバル、大谷翔平との「夢の対決」が早く見たい!

今オフ、ポスティングシステムによるメジャー挑戦の希望を表明している阪神・藤浪晋太郎(28歳)。日本球界屈指のポテンシャルを秘める大器がいよいよ本領を発揮する時が来た!

■カギはスプリット!「NEW藤浪」へ進化

大阪桐蔭高校時代には、「1994年世代では大谷翔平(エンゼルス)以上の大器」と言われ、プロ入り後も高卒3年連続2桁勝利を達成した藤浪晋太郎(阪神)。そこから実力を発揮できない時期がしばらく続いたものの、今季は完全復活の兆しを見せている。

そんな藤浪のメジャー挑戦について、「さらなる上積みも欲しいですが、現状のままでもある程度は通用します」と語るのは、ここ数年、藤浪本人とコンタクトを取りながら見守ってきた野球評論家のお股ニキ氏だ。

まずは藤浪の今季の投球内容を振り返りたい。青柳晃洋のコロナによる離脱で、2年連続の開幕投手を務めた藤浪。だが、この開幕戦も含め、序盤は好投しても勝ち星につながらず、やがて中継ぎ転向。さらにコロナによる抹消もあり、前半戦は未勝利だった。

「球種配分でストレートが多すぎたこと、そのストレートの癖がバレていたことも影響したようです。ただ、癖への対応はアメリカでも役立つこと。実際、大谷はすぐに対応できました。藤浪もそういった引き出しはたくさん持っておいたほうがいいでしょう」

改善のきっかけは2軍での先発調整期間中にスプリットの投球割合を増やし、与四球数が減少したことだ。

「4月頃はスプリットの割合がわずかでしたが、シーズン後半は3割、最後の試合では4割台に。スプリットは上からかぶせて落とすだけのボールなのでフォームも乱れず、抜け球にもなりにくい。

空振りが取れてバットに当たってもゴロ、低めを見逃されてもボールという効率的な球種です。そのスプリットをカウント球でも使う考え方を体現したのが奏功しました」

また、オフに菅野智之(巨人)の指導を受けたこともよかったのでは、と推察する。

「再現性の部分は菅野の助言が大きいのでしょう。体重移動の方向が真っすぐホームへ向かうようになり、並進運動も速くなった結果、球速も制球も両立して向上しました」

今季開幕前には巨人・菅野と合同自主トレを実施。「NEW藤浪」への進化には菅野の教えがあったようだ今季開幕前には巨人・菅野と合同自主トレを実施。「NEW藤浪」への進化には菅野の教えがあったようだ

こうして、8月には先発として477日ぶりの勝利を挙げ、4試合に先発して月間防御率1.65、与四球3という見事な成績。特に与四球が減少したことで投球が大きく改善したという。

「明らかなボール球が減ったことで、打者にボール球を振らせることができるようになりました。ストライクゾーン近辺に投げられるようになった上で、球速も球質も改善。変化球もストライクからボールになるように、かつ、打者が手を出してくれるような球を投げられるようになったことを意味します」

8月以降の藤浪は、先発ローテを守っていた入団当初の4年間をもしのぐ投球を披露しているが、どうしてこんな回り道になったのか。

「以前の藤浪は、能力の高さゆえに完璧を求めすぎていた。160キロをコーナーいっぱいに決め、追い込んだらフォークやスラッターを低めに、と理想が高すぎました。

でも、あれだけのスペックがあれば、力まず軽めに150キロ程度のボールをアバウトに投げておけば、結果的に真ん中から散って抑えられる、という感覚が持てた。気持ちも楽になったはず」

あえてアバウトになり、変化球でカウントを整えることで最初の3年間よりも与四球減に成功。「NEW藤浪」ともいえる姿に進化を遂げているのだ。

今季、2年連続で開幕投手を務めた藤浪。8月には先発として477日ぶりの勝利を挙げた今季、2年連続で開幕投手を務めた藤浪。8月には先発として477日ぶりの勝利を挙げた

■課題は「制球」「守備」「走者がいるときの投球」

では、メジャー移籍が実現したとして、藤浪の課題は何か? お股ニキ氏は「ポテンシャルの塊なので課題や伸びしろだらけ」として、「制球」「守備」「走者がいるときの投球」の3点を挙げてくれた。まずは「制球」について。

「藤浪は多少アバウトに投げることでストライクが増えましたが、さらに細かいコマンドをもっと高められるのも確か。そして、右打者に対して死球を気にせず、インコースを狙えるかどうか。サッカーと一緒で、海外トップクラスのほうがプレーの精度が高く、データどおりにすべて実現できてしまうもの。

日本よりもメジャーのほうが当然、制球力や技術は求められます。今季の藤浪は右打者に対して死球を気にせず、インコースも攻められるようにもなってきたので、期待は大きいです」

続いて「守備」について。実際、今季9月のヤクルト戦では自身のバント処理ミスの1失点で敗れたこともあった。

「細かいですが、こういったところで差が出ます。山本由伸(オリックス)は本当に守備がうまいですし、一流投手になれば自分が投げている球の軌道と打者のスイングで打球の軌道が予測できるから、ボールが来る前から準備できるんです」

そして、「走者がいるときの投球」でお股ニキ氏が提示してくれたのは状況別の奪三振割合。走者なしのときに比べ、走者ありのときは奪三振率が下がってしまうという。

「奪三振割合がこれだけ違うのは、走者ありの状況で実際に球の質が悪くなっている証拠です。藤浪に限らず、日本流のクイックはただフォームを速くしているだけ。球質や制球を犠牲にクイックタイムを速くするだけでは真にクイックがうまいとは言えず、むしろ制球や球質の乱れにもつながります。

メジャーの超一流投手は、通常のフォームの足を上げてからの動作とセットポジションのフォームがまったく同じです。必要以上にクイックに意識を取られず、さらに牽制(けんせい)や間合いで抑止力を働かせ、走者を一塁にくぎづけにした上で併殺になりやすい球を投げる。

そして、走者にあえて走れると思えるギリギリの水準を狙って走らせた上で、捕手との共同作業でアウトにする。口で言うのは簡単ですが、これが本当に合理的で理想の水準です」

こうした課題があるにせよ、今の藤浪ならばどのくらいの活躍ができそうか?

「今の時点でも、澤村拓一(ひろかず/今季途中までレッドソックス)より上の投球ができるのでは。また、今季パドレス所属のスアレスやピアース・ジョンソン(共に元阪神)、ニック・マルティネス(元ソフトバンク)ら、日本で防御率1点台と無双していた投手たちが中継ぎで2~3点台になるのがメジャーの実力感です。

通算防御率3点台の藤浪ですが、現時点での能力的に3点程度と考えれば、メジャーの中継ぎで3~4点台くらいでしょうか。あとは先発なら得意のスプリットやスラッターに加えて、大谷翔平のようにスィーパー、2シーム、配球など、アメリカに行ってからもどんどん成長し、今の形を崩さずに変化できるかどうか、だと思います」

■藤浪に合う球団は?

そんな藤浪に合いそうな球団はどこか? まず挙がったのはアストロズとメッツ、そしてヤンキースとドジャースだ。

「アストロズはデータを重視する球団で、藤浪の良さを適切に理解して能力を引き出してくれる。メッツもデータを重視するオーナーの下、超ハイレベルの投手陣を形成しています。ロースターに入るのも難しいですが、キャンプのブルペンでマックス・シャーザーらと並んで投げる姿は見てみたいですね。

同様にヤンキースとドジャースもデータ活用で投手を改善できる強豪チームで、選手層が厚く、大都市の重圧も大きいという厳しさはありますが、可能性はあると思います」

このほか、データを重視した投手改良に定評があるのは、マリナーズ、ブレーブス、ガーディアンズ、ブルワーズ、レイズ、オリオールズ、ブルージェイズ、レッズといった球団だ。

「最速162キロのストレート、150キロのスプリット、145キロのスラット、しかも身長197㎝......。これほどのフィジカル、ポテンシャルがある投手をデータ分析やフォーム分析で改善してみようと思うGMはいるはずです」

ほかに注目したいのは、憧れのダルビッシュ有が所属する、縦じまのパドレスだ。

「パドレスも天候が良く、球場も投手有利で強豪すぎないなど、総合的な環境はいい。何よりも日本投手への理解があり、本人としてもやりやすいでしょう」

まずは中継ぎ起用なのかもしれないが、ファンとして見たいのは、先発としてメジャーのマウンドに立つ姿。そして、大谷翔平と投げ合い、切磋琢磨(せっさたくま)してくれる姿だ。

「紆余(うよ)曲折ありましたが、やっと立つべきステージにたどり着ける機会が巡ってきました。本来なら、26歳くらいには日本でやることがなくなり、ポスティングでメジャー移籍していたくらいの逸材です。来季、大谷と先発同士で投げ合い、打者・大谷とも対戦する藤浪の姿を見たいですね」

大阪桐蔭で春夏連覇を果たしてからちょうど10年。節目の年にどんな岐路が待っているのか。