矢澤宏太(日本体育大) 外野手と投手の二刀流。どちらで大成するか 矢澤宏太(日本体育大) 外野手と投手の二刀流。どちらで大成するか

10月20日に開催されるドラフト会議。注目選手や期待の高校生、話題性のある選手など、今年の見どころを余すことなくお伝えします!

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■Part1 1位競合選手や新人王候補などの即戦力

2022年のドラフト会議は、今のところ「目玉不在」といわれている。誰もが認める超大物選手は確かに見当たらないが、決して「不作」というわけではない。

ソフトバンクが1位指名を公言したイヒネ・イツア(誉高)のように、大化けの可能性を秘めたポテンシャル型の選手がひしめき、スカウト陣の眼力と球団の育成力が問われるドラフトになりそうだ。

今年のドラフト最大のキーマンは矢澤宏太(日本体育大)になるだろう。矢澤は大谷翔平(エンゼルス)以来となるプロ球界で本格的な〝二刀流〟でのプレーを熱望している。

投手としては最速152キロをマークし、タテのスライダーで空振りを奪える。野手としては今すぐプロに入れても超一流の部類に入る強肩と俊足、さらに爆発力と融通性を兼ね備えた打撃力を秘める。

ただ、プロのスカウトの矢澤への評価は割れている。現時点では「野手・矢澤」を評価する声が多く、「野手でお金を儲けたほうがいいかな」とコメントした新庄剛志監督(日本ハム)のように二刀流挑戦に否定的な人物もいる。

矢澤を二刀流とみるか、外野手とみるか。投手としては「瞬発的に力を発揮するリリーフタイプ」とみるスカウトもおり、評価が難しい。

そんな矢澤に対しては、日本ハムが1位指名を公言。新庄監督は前出のコメントを発したが、稲葉篤紀GMは二刀流として育てる方針を表明している。追随する球団が現れるのか、注目される。

投手のドラフト1位候補は曽谷龍平(白鷗大)、荘司康誠(立教大)、金村尚真(富士大)の3人を挙げたい。

曽谷は力感のない投球フォームから、球威のあるストレートで打者のバットを押し込む剛球左腕。バックスイングの大きな腕の振りは、岩瀬仁紀(元中日)を彷彿(ほうふつ)とさせる。スケール感と実戦での強さを併せ持ったサウスポーは希少価値が高く、オリックスが1位指名を公言している。

荘司は身長189㎝の大型右腕で、大学生ながら大きな伸びしろを残す。タテに割れるカーブや高速で変化するスプリットも高性能で、ゲームメーク能力も悪くない。今秋、状態を落としていた点が気がかりではあったが、楽天が1位指名を公言した。

金村は大学球界随一の実戦派で、速球の軌道から動くカットボールは白眉。大学4年になって速球に一段と強さが増し、スカウト陣の評価を高めている。1年目から1軍デビューも期待できるだろう。

社会人では大卒3年目の吉村貢司郎(東芝)が即戦力候補筆頭。ドラフト直前にはクライマックスシリーズを控えたヤクルト相手の練習試合で、3回7奪三振と実力を見せつけた。フォークという決め球があるだけに、リリーフ適性も高い。

ほかにも今夏の都市対抗で奪三振ショーを演じた吉野光樹(トヨタ自動車)も即戦力タイプの右投手。同社のテクニカルアドバイザーを務める吉見一起(元中日)からノウハウを叩き込まれ、入社2年目の今季に右肩上がりに状態を高めてきた点も評価できる。

蛭間拓哉(早稲田大) いずれはチームリーダーになれる資質もある 蛭間拓哉(早稲田大) いずれはチームリーダーになれる資質もある

野手ではすでに西武が1位指名を公言している蛭間拓哉(早稲田大)に注目。インパクトで爆発力のある打撃に、多くの野球人を引き寄せる求心力も大きな武器。いずれはチームリーダーになれる資質がある。

同じ左投げ左打ちのスラッガーである澤井 廉(中京大)、しぶとさを兼ね備える右の強打者である森下翔太(中央大)も野手の中心人物だ。

田中幹也(亜細亜大) プロで重宝される右打ちの遊撃手 田中幹也(亜細亜大) プロで重宝される右打ちの遊撃手

プロ側の需要が高いのは、遊撃手。しかも右打ちであれば、さらに希少性が高い。そんな需要にバッチリはまるのが、田中幹也(亜細亜大)。

身長166㎝の小兵ながら、スピード感抜群の走攻守で〝忍者〟の異名を持つ。その身のこなしをひと目見るだけで、「人間はここまで速く動けるのか?」と驚かされること間違いなし。

この手のタイプはプロのキレのあるボールに早めに順応できるケースが多いだけに、内野手層の薄いチームに入団できれば間違いなく即戦力になれる。少し気が早いが、来年の新人王争いの有力候補に挙げたい存在だ。

■Part2 注目の高校生候補

浅野翔吾(高松商高) 高校通算68本塁打をマーク。俊足も誇る 浅野翔吾(高松商高) 高校通算68本塁打をマーク。俊足も誇る

今年の高校生は野手に好素材が多い。筆頭格は今夏の甲子園で3本の本塁打を放り込んだ浅野翔吾(高松商高)だ。高校通算68本塁打をマークしているが、小学生時代に95本塁打、中学時代に55本塁打と幼少期からアーチを重ねた生粋のホームラン打者。

身長171㎝と小柄ながら、中村剛也(西武)を参考にしたスイングで飛距離を伸ばせる。ボール球にはバットがピタッと止まる選球眼に、50m走5秒9と俊足でもある。超攻撃的1番打者になれる素養を持った逸材だ。

「飛ばし方は右も左も同じ」と豪語し、日本人強打者としては異色のスイッチヒッターという意外な一面も持つ。すでに巨人が1位指名を示唆している。

前出のイヒネ・イツア(誉高)は、甲子園出場歴はゼロながら壮大なロマンを秘めた好素材だ。両親はナイジェリア人で、184㎝、83㎏の8頭身の肉体は躍動感に満ちている。独特のリズム感、身のこなしのフィールディングとスイングができ、そのパフォーマンスからはとてつもないスケールが感じられる。

高校通算18本塁打と突出した実績はないものの、現時点での能力を論じるのが無意味に思えるほど高い将来性を秘めている。もし才能を開花できれば、世界的な遊撃手になれると言っても過言ではない。次世代の遊撃手候補を求めるソフトバンクが1位指名を公言するのもうなずける。

右の強打の内野手として上位指名候補に挙がるのは、内藤 鵬(日本航空石川高)だ。180㎝、100㎏の巨体で、高校通算53本塁打の大砲。中国人の両親を持ち、「鵬」という名前は中国の伝説の鳥が由来だという。

パワーに優れるだけでなく、バットの芯でとらえる能力も高く、確実性を併せ持った強打者。練習熱心な性格とケガに強い肉体を評価するスカウトも多い。

なお、イヒネとは愛知の軟式クラブチーム・東山クラブでのチームメイトという奇縁がある。内藤は中学時代から争奪戦が繰り広げられるほどの逸材だったのに対し、イヒネは体の線が細く試合に出たり出なかったりとあまり目立たない存在だった。そんな両者が3年後にドラフト上位候補として並び立つのだから、人生はわからない。

松尾汐恩(大阪桐蔭高) 遊撃手経験もあり、フットワークが軽い 松尾汐恩(大阪桐蔭高) 遊撃手経験もあり、フットワークが軽い

今年は能力の高い高校生捕手が多いのだが、筆頭格は松尾汐恩(大阪桐蔭高)である。高校1年の秋まで遊撃手だったこともあり、軽やかなフットワークが際立つ。国体では三塁手手前のゴロを猛烈なチャージでアウトにする、驚異的な守備を見せた。

高校2年夏以降に甲子園で通算5本塁打を放った強打もあり、いかにも「新時代の捕手」という雰囲気がある。近年は松川虎生(ロッテ)、内山壮真(ヤクルト)とプロ入り早々に1軍戦力になる高卒捕手が目立つが、松尾もその流れに乗れるだけの可能性を持っている。

サプライズ1位指名の可能性を感じるのは、西村瑠伊斗(京都外大西高)だ。金属バットの性能に頼って飛ばす高校生打者が多い中、西村は自分の間合いでとらえる技術がある。そのスイングは世界の本塁打王・王貞治(元巨人)の姿を重ねるスカウトもいるほど。

高校通算54本塁打の数字以上に、内容の濃さを感じさせる強打者だ。今夏は右肩を痛めていたものの、投手としても最速147キロをマークする強肩でもある。

高校生投手は例年ほど目立つ大物はいないものの、要注目の大器として斉藤優汰(苫小牧中央高)を挙げたい。188㎝、88㎏のマウンドで映える体形に、バランスのいい投球フォーム。現時点で最速151キロをマークし、さらなる伸びしろを感じさせる。

かつての大エース・斉藤和巳(元ソフトバンク)を彷彿とさせる大型右腕だ。投手育成に自信のある球団なら、是が非でも欲しい素材だろう。現在、広島が1位指名を公言している。

同じく田中晴也(日本文理高)もポテンシャルを評価したい本格派右腕。186㎝、92㎏のたくましい肉体と高い総合力を誇り、将来性が光る。今夏の甲子園でアピールしたいところだったが、右手指のマメを潰した影響で不完全燃焼に終わった。

とはいえ、高い資質は多くのスカウトが認めるだけに上位指名の可能性は十分にある。もし1位指名されれば、新潟県の高校生としては史上初の快挙になる。

■Part3 話題性ありの注目選手

最後に今年のドラフト候補の中から話題性のある選手を紹介したい。まずは過去3度の「指名漏れ」を経験した悲運の右腕・小孫竜二(鷺宮製作所)。遊学館高3年時、創価大4年時、入社2年目の昨季とプロ入りを狙ったものの、いずれも指名なし。今年は最速155キロの快速球を武器に猛アピールを見せたが、社会人野球の晴れ舞台である都市対抗野球大会はコロナ罹患のため登板なし。

それでも、艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えてきた実力は多くのスカウトから評価されており、ドラフト上位候補に挙がっている。プロ入りへ4回目の挑戦は実るのか、その生命力をプロで発揮してもらいたい苦労人だ。

臼井 浩(東京ガス) 昨年の都市対抗で最速154キロをマークした 臼井 浩(東京ガス) 昨年の都市対抗で最速154キロをマークした

小孫は25歳でのプロ入り挑戦だが、それを上回るのが28歳の臼井 浩(東京ガス)。身長168㎝と小柄ながら、修羅場をくぐり抜けてきたキャリアと完成度の高さはピカイチ。昨年の都市対抗で最速154キロをマークするなど、年齢とともに進化を重ねており幅広い役割をこなせる。

28歳になる年にドラフト指名された阿部翔太(オリックス)が今年のパ・リーグの胴上げ投手になったように、社会人野球のエースの価値が見直されるような明るいニュースもある。新たな〝オールドルーキー〟の誕生なるか、見守りたい。

今年は難関国立大の東京大と京都大にもドラフト候補がいる。阿久津怜生(東京大)は大学2年夏にアメリカンフットボール部から野球部に転部した異色のアスリート型外野手。アメフト部のトレーニングで15㎏の体重増に成功し、そのパンチ力は野球の打撃面に大いに生かされている。

水口創太(京都大)は194㎝、100㎏の超大型右腕。粗削りながら、高いリリースポイントから放たれる快速球は最速152キロをマーク。京都大では主にリリーフとして活躍し、「育成でもいいからプロに行きたい」とハングリーさをアピールする。

バラエティに富んだドラフト候補たちの思いは成就するのか。運命のドラフト会議は10月20日に開かれる。