フリーキッカーをフカボリ! フリーキッカーをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第43回目のテーマは、フリーキッカーについて。福西崇史氏の記憶の中に今も鮮烈に残るフリーキッカーは誰か? 数いる名手の中から4名をピックアップしてもらった!

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カタールワールドカップを戦う日本代表は11月1日(火)に発表されます。誰が選ばれようとも日本代表にとっての最大の課題のひとつになるのがセットプレーです。日本代表はセットプレーを武器にするためにデザインする専門コーチを招聘したりもしています。

もちろん、こういう取り組みは、やらないよりはやったほうがいいに決まっていますが、そう簡単に向上するものではないですよね。なぜなら、いまの日本代表には"フリーキッカー"と言えるようなフリーキックを武器にできる選手が見当たらないんですね。

直接ゴールを狙うフリーキック(以下FK)はもちろんのこと、コーナーキックや間接FKから生まれる得点というのは、ゴール前で合わせた選手の動きよりも、8割方はキッカーのクオリティーで決まると言ってもいいくらいキッカーが重要なんです。

特に現代のサッカーはより組織的になり、なかなか点がとれないようになってきているので、以前にもましてセットプレーの重要性が高まったと言えるでしょう。

ボクは現役時代、セットプレーではゴール前に飛び込む側でしたが、キッカーのクオリティーが高いと、ゴール前で思い切って動き出せました。ピンポイントでボールが来ると信じられると、ポジショニングで先手が取れる。そうすると相手マーカーが自分よりも大きくてもゴールが決まりやすくなりましたよね。

ボクがプレーしていたジュビロ磐田には、名波浩さんという稀代のキッカーがいましたし、ドゥンガも名手でした。ただ、このふたりは敢えて外して、それ以外で記憶に残っているフリーキッカーを振り返ってみたいと思います。

■中村俊輔

今シーズン限りでの引退を発表した中村俊輔のキックは、本当にスペシャルな武器で、海外からも認められた日本人フリーキッカーでしたよね。ボクもヘディングでゴールを決めさせてもらったことがありましたが、当時は「キッカーが俊輔だから、こういう入り方をしよう」、「名波さんだから、こうしよう」って動き出しのことばかり考えていましたね。

練習のときからやっぱりピンポイントにボールが来るので、試合ではどうやって相手DFの先手を取って合わせるか。そればかり考えていましたし、キッカーの精度が高いので、思い切り動き出しで勝負ができました。


それが相手DFに対してのアドバンテージにもなりましたね。逆を言えばキッカーのボールを見ながら合わせようとしても得点は決まる確率はものすごく低くなるんです。狙った場所にボールが来る。だから、合わせる側は信じてそこに入ればいい。そういう信頼が自然と生まれたのが中村俊輔の凄さでもありました。

■三浦淳宏(現在は三浦淳寛に改名)

三浦淳宏さんは、俊輔とはまた違った意味で衝撃的でした。淳宏さんと言えばブレ球でしたが、当時はいまのようにブレ球は浸透してなかったですからね。最初に知ったときは、「そんなの防ぎようないじゃん」って思ったくらいでした。

淳宏さんから現役時代にブレ球の蹴り方を習ったことがあるんですけど、全然できなかったんですね(笑)。同じように教えてもらって蹴れるようになった選手もいたので、ボクが下手くそってのもあるんですけど。ただ、もともとのボールの蹴り方が淳宏さんと似ているってのも大事な要素なんですよね。それとパワー。淳宏さんのパワーだからこそ、あのブレ球を蹴ることができたんだと思います。

■ベルナンブカーノ(元ブラジル代表)

そのブレ球で世界最高峰だったのが、元ブラジル代表のジュニーニョ・ベルナンブカーノ。右足から蹴り出される無回転のボールを武器に、キャリア通算でFKで決めたゴールは76もあるそうです。揺れながら飛んできて、どう変化するかわからない。本当に止めようがないシュートでしたよね。

ベルナンブカーノはブラジル代表として40試合で6得点を記録したのですが、そのうちの1点は日本代表から奪ったものなんですね。2006年ドイツワールドカップでのゴールは、ボクも現場にいたのでよく覚えています。日本戦はFKからではなく、流れの中でミドルレンジからの無回転シュートでした。GKの川口能活が手で触れると思いきや、その指先を避けるようにしてゴールネットを揺らす。あれは本当にとんでもないないシュートでしたね。

ただ、あのシュートは、日本人の多くは子どもの頃から知っているんですよね。『キャプテン翼』の大空翼のドライブシュートですから。そう思うと、あのシュートが現実になるずっと前に描いている高橋陽一先生の凄さも際立っていますよね。時代の先を行き過ぎていて、あそこでようやく時代が追いついたわけですから。

■ロベルト・カルロス

ブラジル代表のフリーキックと言えば、この人も忘れられない名手でした。ベルナンブカーノは予測不能のボールを蹴りましたが、ロベルト・カルロスのは破壊系。左足から放たれる強烈な弾丸シュートは、あまりに強烈過ぎてボールが破裂したという都市伝説まで生まれました。しかも、地を這うような強烈なシュートなうえに、大きく曲がりもしました。あれを蹴られたらたまったものじゃありませんよね。

ボクはブラジル代表とは、2005年のコンフェデレーションズカップで対戦しているのですが、その時はロベカルは出ていなかったんですよね。2006年のドイツワールドカップでの対戦のときは、ボクもロベカルも出場しなかったので、直接あのフリーキックの壁に入った経験はないのですが、ロベカルのFKに対して壁に入った選手はみんな嫌な気持ちだったんだろうなと思いますよね。対戦したかった選手ですけど、その点に関してだけはよかったです(笑)。

しかも、ロベカルの時代のボールはいまとは違うわけですよ。いまの時代にロベカルが現役選手だったら、どれだけ遠くからフリーキックを蹴れたのかも見たいですよね。きっと現在のボールは、ロベカルにしたらバレーボールを蹴っ飛ばしているような感覚になるのかなと思いますね。軽すぎて狙い通りに蹴れないかもしれないですけど(笑)

こうやって振り返ってみると、過去の日本代表には、俊輔や淳宏さんだけではなく、遠藤保仁や本田圭佑といったスペシャルなキッカーがいつの時代もいました。それがいまの日本代表にはなかなか見当たらない。

フリーキックの精度というのは、一朝一夕で磨かれるものではないけれど、ひとりで黙々と高めていける技術でもあるわけです。次の時代を担う子どもたちの中から、フリーキックの重要性を理解したスペシャリストが育ってくれたらうれしいですね。

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