2年連続同一カードの頂上決戦となったヤクルト・髙津監督(右)とオリックス・中嶋監督2年連続同一カードの頂上決戦となったヤクルト・髙津監督(右)とオリックス・中嶋監督

2年連続同一カードによる頂上決戦となった今年の日本シリーズ。ヤクルトを率いる髙津監督、オリックスを率いる中嶋監督の指揮官としてのすごみとは?

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■髙津&中嶋監督の滑らかな運用力

ついに始まった2年連続の顔合わせ、ヤクルトvsオリックスの日本シリーズ。注目したいのはヤクルト・髙津臣吾監督、オリックス・中嶋 聡監督の指導力だ。一昨年まで2年連続最下位だったチームが共に連覇を果たし、CSファイナルも相手を寄せつけずに突破した印象すらある。

「両者に共通するのが支配下70人をフルに使った総合マネジメント力と頭脳です」と語るのは『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏。ヤクルトは村上宗隆、オリックスは山本由伸という絶対的な軸がありつつ、両チームとも細かいマネジメントでの工夫に目を見張るという。

お股ニキ氏は「チームの再建を監督だけに任せず、フロントと現場が一体となり、ドラフトによる補強と育成、トレーナーやアナリストらとの連携といった総合力で成し遂げています」と語り、その象徴的存在として、ヤクルトからはショートのレギュラーをつかんだ長岡秀樹、CSでMVPに輝いたオスナの名を挙げてくれた。

「長岡は8番打者だからと四球狙いをさせず、本塁打9本と長打力を発揮させる育て方&起用法でした。また、オスナは打撃が低調でも、守備では牽制(けんせい)タッチを徹底し続け、ポストシーズンではバットでも活躍。その諦めない気持ちも見越して契約延長したフロントの功績が光ります」

オリックスにもフロントの眼力、そしてチーム全体のマネジメントで飛躍した選手がいる。後半戦の救援陣を支えた2年目の宇田川優希、新クローザーの阿部翔太だ。

「後半に山﨑颯一郎、ワゲスパックを中継ぎ転向させたことも見事ですが、育成で強行指名した宇田川、28歳でプロ入りした阿部の2年目コンビをここまで育てた点も大きいです。

宇田川のフォークは侍ジャパンに入れていいレベルですし、平野佳寿という経験と名前のあるクローザーがいても今は阿部のほうが適任と判断する柔軟性もあります」

こうした若手起用に長(た)けているのは、髙津&中嶋両監督が2軍監督を経験している点に加え、海外を経験している点も挙げられる。髙津監督は日米に加えて台湾、韓国と4ヵ国・地域でプレー経験があり、中嶋監督は現役引退後にMLBパドレスで指導者留学をした経歴を持つ。

「やはり海外では日本とは異なる柔軟な継投や打順、作戦、配球、マネジメントなどを学べます。日本人は采配や作戦でも決まりきった型のようなものを重視しがち。でも、セオリーはありつつも自由に何をしてもいいんです。

その点でも『型がすべて』と思っている人は采配や作戦を読まれやすいし、そもそも自分の視野が狭いことを認識できません」

■ソフトバンク、巨人とどこで差がついた!?

髙津&中嶋両監督の特徴、ヤクルトとオリックスの強さの要因を知る上で比較したい球団がある。巨大戦力を持ちながらも結果が伴わなかったソフトバンクと巨人だ。

「球界の投手レベルが上がったため、先発のイニング数が減り、相対的にリリーフの登板割合が増加している現状では、選手個々の能力以上にマネジメント力と頭脳面での僅差がやがて大きな差を生むことになる、というのは以前から指摘していることです」

象徴的な例を「投手運用」と「配球面」で見ていこう。

「中嶋監督の優れた点は〝由伸依存〟しないところ。去年は東京五輪も含めると年間3000球以上投げた上に、日本シリーズが11月末まであってオフが短かった。その疲労を考慮し、開幕当初の由伸は中7日と休養を取りながら起用していました。

そしてシーズン終盤に力を出し切り、2年連続での投手5冠。6月頃から戸郷翔征を中4日で起用して打ち込まれる試合があった巨人とは対照的です。ソフトバンクも展開に関係なくイニングで投げる投手を決め、投手のタイプ・球質や打者との相性を考慮しない起用が目立ちました」

配球面では「フォーク、スプリットを徹底させるオリックス」と、「ストレートにこだわるソフトバンク、巨人」という差異もあるという。

「155キロ以上の剛腕をそろえた上でスプリットとパワーカーブを仕込み、スプリットから入るのがオリックス。対して、ストレートの指標が悪いのにストレートの割合が多かったのがソフトバンクと巨人。ソフトバンクは捕手の甲斐拓也が必死にストレートばかり要求するシーンを何度も見ました。

外や低めはフレーミングの意識が低いためボールになり、藤本博史監督から『インコースを攻めろ』と言われて初球から不用意にインコースに投げて痛打される場面も。投手の状態や力量、相手の反応や球質を感じ取った組み立てができていません」

また、ヤクルト、オリックス両球団は捕手を固定せず、併用していたことも共通点だ。

「オリックスは若月健矢を成長させつつ、伏見寅威を併用。頓宮裕真は打撃成績も向上してファーストでも起用できます。誰が出ても配球が良く遜色ありません。ヤクルトも中村悠平をメインにしつつ、高卒2年目の内山壮真を育てながら使いました」

対して、ソフトバンクは打撃、盗塁阻止率でも低調だった甲斐にこだわり続け、若い優秀な捕手に出場機会を与えなかった。巨人は大城の疲労やコンディションへの考慮があまり感じられませんでした。

「捕手を併用する球団が勝っているのは結果からも明らか。疲労が分散され、配球はチーム全体で洗練されている。中村も若月も以前はコーナーぎりぎり、もしくはボール球ばかり要求する『弱者のリード』しかできませんでした。

それが今ではハイレベルな投手陣を生かすゾーン内勝負とボール球を使い分け、時折意表を突く『強者のリード』ができています。

サッカーなど他競技と一緒で、戦術が洗練され、フィジカルも相対的に上がってきた現代では頭を使わなければ結果は出ません。主力への依存、昔ながらの采配やマネジメントを繰り返したソフトバンク、巨人とは対照的といえます」

■〝打のヤクルト〟vs〝投のオリックス〟

いくつもの共通項がある髙津ヤクルトと中嶋オリックス。では、相違点はどこか?

「ヤクルトは先発防御率が12球団ワースト。それでも、先発の中10日を崩さず、中継ぎもローテを組んで負担を分散。配球や守備シフト、牽制タッチの徹底などを取り入れ、その上で村上を中心にどこからでも一発が出る打線と守備力で投手を援護しました」

オリックスもこの「マイナスを補う工夫」をしているが、構図が真逆だという。

「中嶋監督が優勝インタビューで『投手陣の頑張りがなかったら、ここまで来られなかった。野手陣、頑張ってください』と言っていたように、吉田正尚以外は厳しい野手力でも、充実の先発陣に加え、どのイニングに誰が投げるか固定しない中継ぎ運用。

抑えも8人の投手にセーブがつくなど決めつけず、50試合登板はゼロ。3連投は1度だけで投手を守りながら経験を積ませ、誰でもシビアな場面で使えるほどブルペンの総合力を最大化しました」

つまり、今年の日本シリーズは「村上擁する打の髙津ヤクルト」vs「山本擁する投の中嶋オリックス」という対決構図に。ファンの間では髙津&中嶋監督の名将ぶりも併せ、1992、93年の「野村ヤクルトvs森西武の2年連続日本シリーズ」と重ねる人も多いが、お股ニキ氏は「あのときとは状況が違います」と指摘する。

「当時の西武は85年からの10年間でリーグ優勝9度という常勝軍団。そんな絶対王者に、野村ID野球で強くなった若いヤクルトが挑む構図でした。

当時は交流戦もなく、やり返すには翌年にリーグ優勝するほかなかった。それと比べると、今のヤクルトとオリックスにそういったストーリーはなく、それだけに結末は予想できません」

因縁めいた構図よりも、連続最下位という低迷から監督、フロント、トレーナーらの総合力で立て直した再建力、チーム力のぶつかり合いとして楽しむのがよさそうだ。