サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第272回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、J1リーグの優勝争いについて。いよいよ大詰めを迎えているJ1リーグだが、優勝を争う2チームを宮澤ミシェルはどう見ているのか?
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サンフレッチェ広島がルヴァンカップ決勝でセレッソ大阪を2-1で下して優勝。ドラマチックな展開だったし、彼らにとっては本当によかったよな。広島は1週前にあった天皇杯のタイトルをPK戦で落としていただけに、よけいにそう思うよ。躍動した今シーズンにタイトルがひとつでも手にできたことは、若い選手が多いだけに自信になるはずだよ。
今シーズンのタイトルは、J2優勝がアルビレックス新潟、天皇杯がJ2のヴァンフォーレ甲府、ルヴァンカップがサンフレッチェ広島に決まった。でも、まさかJ1優勝争いが大詰めまで持ち越されるとは思ってもいなかったよな。
J1は残り2試合だけど、首位の横浜F.マリノスが勝ち点62で、それを川崎フロンターレが勝ち点2差で追いかけている。どっちが優勝しても不思議はない状況になっているんだよ。
でも、この展開は予想外だったよ。横浜F.マリノスが天皇杯決勝とルヴァンカップ決勝による中断期間前に、まさかガンバ大阪とジュビロ磐田に2連敗するなんて思いもしなかったからね。
なにが起きるかわからないのがサッカーの魅力とは言うけれど、リーグ戦で優勝に向かってひた走るチームが、残留争いの渦中にいる2チームに敗れるなんて、まさかだもんな。
「G大阪戦か磐田戦に勝てば優勝が決まるというプレッシャーがあったのかな?」と思われてるけど、私はそうは見ていないんだよね。足はしっかり動いていたし、2試合とも横浜F.マリノスらしいサッカーは展開していたから。ただ、流れを自分たちでつくりながら、最後のところで引き寄せきれなかった。そんな印象なんだよ。
だから、残り2試合は浦和レッズとヴィッセル神戸との対戦になるけれど、J1優勝争いは横浜F.マリノスが有利だと見ているんだ。この中断期間でしっかりと課題を見つめ直して、もう一度、兜の緒を締めなおすはず。それに、やっぱりリーグ戦というのは、上位に立つチームのほうが優位なのは間違いないからね。
一方の川崎は、J1リーグ3連覇のチャンスが舞い戻ってきた。彼らは今シーズン何度も、3連覇の可能性が遠のきそうになったけど、そのたびに王者らしい底力を発揮したよな。海外移籍した選手たちが全員残っていたら、ぶっちぎりで3連覇を決めていたんだろうけど、それを言い出したらキリがないからね。
それでも試行錯誤しながら、最後は優勝争いにチームを導いてきた鬼木(達)監督の手腕は見逃せないよな。CB谷口彰悟と右FWの家長昭博のところ以外は、手を変え品を変えながらチームとして機能する形をつくり出していたからね。
でも、やっぱりこの大詰めにGKチョン・ソンリョンとCBジェジエウを欠く可能性が高いってのは痛いよ。とくにジェジエウだよな。彼が戦列に戻ってきてから著しく失点が減ったわけではないんだけど、谷口の負担が減っていたのは間違いなかったからね。
ふたりを欠くなかで迎える残り2試合は、ヴィッセル神戸戦とFC東京戦。タイトル獲得のためには、「あの選手がいたら」なんて言ってられないからね。ピッチに立てる選手の力を結集して挑んでもらいたい。
それにしても、ヴィッセル神戸が優勝争いのカギを握っているってのが、Jリーグの展開のおもしろさな気がするよ。長く降格圏に沈んできたチームが、中断期間前は5連勝だからね。いまは安全圏にすっかり脱して、ノビノビとサッカーをやっている。まあ、もともとメンツ的にはその力は備わっているチームなんだけどさ。
でも、優勝争いの2チームからすれば、息を完全に吹き返したタイミングで対戦するのは避けたかっただろうね。今シーズンはリーグ戦大詰めで優勝争い同士の直接対決はないけれど、ヴィッセル神戸という存在が優勝争いのドラマにさらなる波乱を起こすかもしれないよな。
3年ぶりの横浜F.マリノスか。それとも3連覇の川崎か。まずは10月29日(土)だよな。ここで横浜F.マリノスが勝って、川崎が負ければ優勝は決まるからね。今週末はJ1リーグをしっかりチェックしてくださいね!