久保建英をフカボリ!久保建英をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第43回目のテーマは、レアル・ソシエダに移籍するや抜群の存在感を放ち活躍し続けている久保建英。そんな久保が日本代表にもたらしたものとは? 福西崇史が語る。

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カタールワールドカップの開幕まで1ヵ月を切りました。日本代表のメンバー発表は11月1日(火)に行われますが、果たして森保(一)監督がどんな選手をカタールに連れていくのかに注目したいですね。

今回のワールドカップと過去大会との違いは、各国リーグのシーズン真っ只中に行われる点があります。欧州各国リーグが開幕して3ヵ月ほど経過したタイミングというのは、選手たちのコンディションに限れば、とてもいい状態にあります。とりわけ所属クラブで試合に出続けている選手は、コンディション面はもちろんのこと、プレー面でも結果を出しているから使われ続けているわけです。なので、期待が持てると言えるでしょうね。

日本代表で言えば、遠藤航(シュツットガルト)や守田英正(スポルティング)、伊東純也(スタッド・ランス)などの主力の選手たちのほとんどは所属クラブでも試合に出ています。彼らには故障せずにW杯の開幕を無事に迎えてもらいたいですね。

そうした日本代表のメンバーにあって、W杯で楽しみな存在のひとりが久保建英です。昨シーズンまでも所属クラブで試合に出続けていましたが、チームは格下に位置づけされるレベルだったので守備に追われる時間が長く、久保が持ち味を発揮するのには難しい状況でした。それが今季はUEFAヨーロッパリーグも戦うレベルの高いレアル・ソシエダでも、しっかり存在感を発揮して試合に出続けていますからね。

レベルの高いチームというのは、チーム内のメンバーのクオリティーも高いわけです。そのなかにあっても久保はチーム内の競争を制して試合に出場し、結果を残している。ようやく誰もが待ち望んだような活躍を見せ始めているわけですから、注目されるのも当然でしょうね。

久保はレアル・ソシエダでは前線2トップの一角での起用が多いですが、トップ下や左右のアウトサイドでもプレーします。これらのポジションで結果を残していることで、日本代表監督の森保監督に向けてのアピールはできていますよね。森保監督も久保がこれまでと違うポジションで結果を残していることで、起用法の選択肢が増えていろんなバリエーションを考えているのではないかと思います。

日本代表は9月の国際親善試合での戦い方を踏まえれば、W杯でも基本的には4-2-3-1で戦うと思います。トップ下には鎌田大地が入り、久保がスタメンに名を連ねるとしたら左サイド。ただ、久保は左サイドに固着することなく、鎌田とポジションチェンジをしながら中央でもプレーするでしょうね。

久保が中央に入ってくることで鎌田との距離感が近づくシーンは、9月のアメリカ戦でも見て取れましたが、これは鎌田にとってもプレーはしやすかったように映りました。パス交換したり、ポジションを変えたりしながら、互いを生かしながらプレーができていましたね。

世界の強豪と対戦するときに、日本代表が個の力だけで相手の守備を打開することは容易ではないわけです。そのときにどうやって攻撃を組み立てていくかを考えると、ボクはやっぱりコンビでの崩しというのが大事になると思っています。

昨夏の東京五輪では久保と堂安律のコンビがポジションをチェンジしながら相手の守備を崩していきましたよね。あのときと同じです。いまの日本代表では久保と鎌田のコンビがひとつ生まれている。

ただ、本当はもうひとつかふたつ、崩しのできるコンビがピッチ上にあるといいですよね。堂安律が右サイドに入れば、久保と東京五輪で見せたコンビも使えるのですが、今の日本代表にとって右サイドは伊東純也が外せない存在になっています。

伊東は自力でタテに突破するタイプなので、前線の選手とのコンビで連携して相手守備を崩すような形はそんなに多くは生まれないですよね。理想を言えば、伊東と右サイドバックの酒井宏樹が、コンビで相手守備を崩すようになってくれれば攻撃のバリエーションがさらに増えるので、そこはW杯で見られることを期待したいですね。

そうなると鎌田とのコンビが計算できる久保は、スタメンから外しにくいのかなと思います。もちろん、守備強度を優先したときには、違う組み合わせも考えられますけどね。

それに久保ではなく左サイドには南野拓実を起用する選択肢もあります。ただ、過去に何試合か鎌田がトップ下で左サイドが南野という形はありましたが、悪くはないですが、コンビで崩したというほど機能した印象もないんですよね。

三笘薫は足首の状態が気になりますが、彼がメンバー入りした場合も持ち味は伊東と同じで独力での突破ですからね。鎌田とのコンビで崩していけるかは未知数。そこを考えると、スタメンというよりはスーパーサブ的な起用法になるのかなと予想しています。

久保を左サイドに置くメリットは、彼が所属クラブで2トップの一角でプレーしている点ですよね。ゴール前での動き出しなどを含めて、前線で求められる仕事を日常的に経験し、試合を重ねながら修正を加えることができている。ポジションというのはあくまでも目安で、そこにベッタリ張り付いているわけではないですから、久保が左サイドからゴール前にポジションを移したときに、ゴールを奪うために必要な動きを理解していることは大きいと思います。

いずれにしろ、所属クラブで好調な選手が多くいるのは心強いですよね。ただ、日本代表はまだ選手ありきで、布陣を決められるわけではないんですね。久保もチームでは2トップで使われているし、伊東純也がスタッド・ランスで2トップの一角でも結果を出したからといって、日本代表では2人を最前線に置けばいいというのは乱暴な発想なんですよね。

彼らがそのポジションで結果を残せたのは、それを支えるチームメートがいるから。久保の場合なら2トップを組むパートナーは、体のサイズがあってフィジカル強度も強い選手ですし、トップ下にはボールを失わないダビド・シルバがいるわけです。そうした選手の働きを無視して、所属クラブと同じように久保を2トップの一角に置けるものでもないんです。

そういう意味では、久保には現状に満足せずさらに飛躍してもらいたいですよね。メッシのように、「久保のためのチームをつくるのが勝利への近道だ」と考えられる選手に成長してほしい。今シーズンのレアル・ソシエダでのプレーを見ていると、ちゃんとチームメートからパスが回ってくる信頼感があるし、ゴール前でもシュートチャンスもある。攻撃のところでリズムをつくっているし、守備のところは昨シーズンまでの経験をしっかり活かせていますからね。

レアル・ソシエダはW杯までにリーグ戦3試合、UEFAヨーロッパリーグ2試合、コパ・デル・レイ1試合の計6試合を戦います。17日間で6試合はなかなかの過密日程で、すべての試合に出たら疲労度も懸念されるところではありますけど、コンディションはW杯直前期間からもう一度整えられますからね。それよりは残り6試合でしっかりと結果を出して、いいイメージを持ってW杯に突入してもらいたいと思っています。

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