J1勢はしっかりしろといういいメッセージをもらった気がすると語るセルジオ越後氏 J1勢はしっかりしろといういいメッセージをもらった気がすると語るセルジオ越後氏

ジャイアントキリングだといわれているけど、甲府は3回戦から決勝までの5試合すべてでJ1のチームを破っているわけだからね。この大会にジャイアントはいなかった。J1勢はしっかりしろといういいメッセージをもらった気がする。そして何より甲府にはおめでとうと言いたい。

日本サッカーの歴史に新たな1ページが刻まれた。10月16日に天皇杯決勝が行なわれ、J2で下位に低迷する甲府がJ1上位の広島を延長1-1からのPK戦の末に破って初優勝した。

試合は広島がボールを保持して主導権を握り、甲府は引いて守って少ないチャンスを狙う展開。両チームには明らかに力の差があった。それでも甲府はゲームプランどおりに、粘り強く戦った。

CKからのデザインされたプレーによる先制点は見事。後半終了間際に同点ゴールを奪われてもガタガタと崩れなかった。そして延長後半にはGK河田がPKをストップ。1-0で勝った準決勝の鹿島戦同様に、これしかないという形で勝利をモノにした。

甲府は普段、J2の試合ではあそこまで引いて守ることはないし、あの守備的なサッカーでJ1昇格を目指すのは難しい。それでも、今回の天皇杯では相手との差を謙虚に認め、負けないためのサッカーに徹したのが功を奏した。一発勝負のトーナメント戦ならではの勝ち上がりだった。

甲府のある山梨県は昔からサッカーが盛んな地域で、高校サッカーでも韮崎や山梨学院が好成績を残している。とはいえ、甲府はビッグスポンサーを持たない小クラブ。J1になんとか昇格してもなかなか定着できず、近年はJ2での戦いが続いていた。それだけに、地元の喜びもひとしおだろう。

テレビ中継では、スタンドで大旗を振るおじいさんサポーターが映っていたけど、あれはいい光景だったね。今回の結果は地域のプライドになる。サポーターの間ではずっと語り継がれるだろう。それだけ価値がある。

今季はJ2で結果を出せなかったけど、それもすべて帳消し。今年の忘年会は盛り上がるだろうね。今回の優勝を、来季以降、再びJ1昇格を狙うための良いきっかけにしてほしい。

一方の広島は、パスをよく回していたけど、引いた相手を崩す攻撃のバリエーションが乏しかった。サイドに出してはまた中に戻す。その繰り返し。相手としては守りやすかったはず。もっとミドルシュートを打つなり、ワンツーや個人技で仕掛けるなり、工夫が欲しかった。

外国人でも日本人でも、ひとりで局面を打開できるような選手がいないと苦しい。まるでW杯アジア予選で格下相手に攻めあぐんで苦戦する日本代表みたいだったね。視察に来ていた日本代表の森保監督も参考になったんじゃないかな。

広島からすれば、相手をなめていたとまでは言わないまでも、ひょっとすると心のどこかに油断があったのかもしれない。(甲府が準決勝で勝った)鹿島よりは楽、相手がJ2でラッキー、とね。選手も人間だからそういう気持ちがあったとしてもおかしくない。

個人的には、プレッシャーのかかる延長後半のPKは、ルーキーの満田ではなく外国人選手に蹴らせるべきだと思った。まあ、いまさらそれを言っても仕方ないね。満田は試合後に泣いていたけど、彼はいい選手だから、この悔しい経験を糧にしてさらに成長することを期待したい。

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