■アマ球界でも上昇する"平均レベル"
大本命がいなかった、とされる今年のドラフト会議。ただ、本題はプロで活躍できるかどうか。そこで、アマチュア球界からの指導依頼も受け、数々の若手の活躍を予言し、的中させてきた野球評論家のお股ニキ氏に、現段階での期待値を分析していただこう。
指名選手が出そろった段階でプレー映像を見て評価してもらったところ、「吉田正尚(まさたか/オリックス)や栗林良吏(りょうじ/広島)はドラフト前にひと目見て『これはいい! 1位で指名すべき』と感じましたが、今年はそのクラスの選手は見当たらなかったものの、総じてレベルは高いです。プロ野球と一緒で、アマチュア球界も平均レベルが上がってきているのだと思います」と答えてくれた。
そんな中でもお股ニキが指名内容を高く評価したのは巨人、ヤクルト、オリックス、DeNA、広島の5球団。まずは今回の数少ない競合選手、浅野翔吾(高松商高)をクジで引き当てた巨人を振り返ろう。
「浅野は牧秀悟(DeNA)や村田修一(元巨人)的な動きがすでにできている。高卒でここまで逆方向に打球が伸びる技術を持つ選手は低身長でも期待大です」
2位も強打の外野手、萩尾匡也(まさや/慶應大)を指名した。
「鈴木誠也(カブス)にかなり打ち方が似ています。打球角度がつけられるし、反対方向にも思った以上に飛ぶ。浅野と競わせて出てくることを期待しての指名でしょう。いい外野手をふたり獲(と)ったと思います」
さらに、お股ニキ氏が注目したのは中継ぎ候補の3位・田中千晴(國學院大)と5位・船迫大雅(ふなばさま・ひろまさ/西濃運輸)だ。
「田中は身長190㎝と大きく、うまくいけば清水達也(中日)のようになれそう。船迫は、今年ブレイクした大勢(たいせい・巨人)、DeNAの伊勢大夢(ひろむ)ら、サイドから浮き上がるストレートが効果的とわかってきたからこその指名。スライダーとフォークかチェンジアップの質を高められれば中継ぎの一角に入れます」
続いて、リーグ覇者のヤクルトとオリックスについて。
「両球団とも、ここ最近の好調を裏づけるようなフロント力というか、球団として洗練されているからこそ、方向性や育成ビジョンが明確で補強も間違えない、とあらためて感じる指名です」
中でも、オリックス3位の齋藤響介(盛岡中央高)に注目したという。
「滑らかなフォームでスタミナもあり、試合終盤や走者が出た場面でも球威が落ちない。今季ブレイクした髙橋宏斗(ひろと/中日)のような印象で、138キロのスラットを投げられる点も評価が高いです」
ほかにも投手で指名した選手たちへの期待値は高い。
「1位の曽谷龍平(白鴎大)はスライダー、カーブ、スプリットと変化球が優秀。変化球割合を増やせばある程度は通用する気がします。5位の日髙暖己(あつみ/富島高)はとにかくフォークがいい。球威が増せばかなり面白い存在です」
一方のヤクルト、1位の吉村貢司郎(こうじろう/東芝)はCS(クライマックスシリーズ)前のヤクルトとの練習試合で好投して話題になった投手だ。
「私の好きなスラットとフォークとカーブを搭載している投手です。投手不利の神宮球場でヤクルト1軍相手に3回7奪三振はすごいですよ。野手では3位の澤井廉(れん/中京大)の体格がいいし、バットを前に置いてステップのときにトップに入る打ち方、スイング軌道もいいですね。村上宗隆(ヤクルト)っぽいスイングと形なので、まずは丸山和郁(かずや/ヤクルト)のように使われていくのでは」
DeNAは注目の高校生捕手、松尾汐恩(しおん/大阪桐蔭高)の一本釣りに成功した。
「松尾の守備は現状でも相当いいです。もともとショートを守っていたアスリート系で肩もフットワークもある。日本シリーズで活躍した内山壮真(ヤクルト)も星稜高2年時までショートを守っていて、似たタイプだと思います。
ただ、金属打ちなので打撃は少し時間がかかるかも。打撃面では3位の林琢真(駒澤大)、そして投手指名ですが4位の森下瑠大(りゅうだい/京都国際高)の打ち方がいいです」
広島で注目は1位・斉藤優汰(ゆうた/苫小牧中央高)、2位・内田湘大(しょうだい/利根商高)の高校生。
「斉藤は確かに才能を感じる投手。内田はスイング軌道がすごくいいですね。しっかりトレーニングして力をつけ、スイングスピードが上がれば、そのままいいバッターになるイメージが湧いてきます」
社会人の即戦力候補をしっかり指名しているのもDeNAと広島の特徴だ。
「DeNA2位の吉野光樹(てるき/トヨタ自動車)は栗林のように上から投げ下ろすタイプでストレートはバックスピンがかかっているのにフォークは落差がある。広島3位の益田武尚(たけひさ/東京ガス)はフォークとスライダーがいい。どちらも中継ぎで使えそうです」
■素材型に実戦型。伸びしろがあるのは?
高評価5球団以外の気になる選手を見ていこう。まずはパ・リーグ。ソフトバンク1位は、素材型の育成に定評のある球団らしく、イヒネ イツア(誉[ほまれ]高)となった。
「確かにスケールの大きい選手。ただ、それだけでなく頭の良さも感じます。学校自体がラプソード(打撃や投球のデータを分析する最先端システム)を導入するなど指導に熱心で、その影響を受けているのでしょう。3位の甲斐生海(かい・いくみ/東北福祉大)も村上的な打ち方でよさそうです。
また、素材型では育成7位の水口(みなくち)創太(京都大)も面白い存在。身長194㎝とスケールは素晴らしい半面、まだまだフォームがアマチュア。体を鍛えてフォームを固めればプロの投手になれるかもしれない」
そんなソフトバンクにも社会人の即戦力候補がいる。
「2位の大津亮介(日本製鉄鹿島)は変化球万能投球術型。会社の先輩・大貫晋一(DeNA)に憧れているというだけあって、似たような投球スタイル。技巧派なので、うまくリードできれば大貫のようになれる素質はあります」
3季連続甲子園ベスト4以上と活躍した山田陽翔(はると/近江高)は西武5位で指名された。
「サイズがないのでこの順位になりましたが、打撃も良く、野球センスの塊。投球はかなり完成しているが、センスと技術でどこまで上に行けるか」
投手で唯一競合した荘司康誠(しょうじ・こうせい/立教大)は楽天へ。
「今回の候補者では確かにトップクラス。東浜巨(なお/ソフトバンク)と似たタイプで、そのままパワーアップして球速が出せればローテに定着しそう。ほかに気になったのは6位の林優樹(西濃運輸)。近江高時代から活躍して、社会人を経てようやくプロ入り。サウスポーで宮城大弥(ひろや/オリックス)に似ている印象です」
ロッテでは、3位の田中晴也(はるや/日本文理高)を高評価。
「いい選手だと思ったらやっぱり3位で消えました」
日本ハムでは、二刀流で話題の1位・矢澤宏太(日体大)について、「大谷翔平(エンゼルス)を連想するのは違う」と指摘する。
「タイプとしては根尾昂(あきら/中日)に近い。新庄剛志(つよし)監督も外野手評価のほうが高そうで、外野手からのリリーフ、という起用もあるかも」
そんなお股ニキ氏の日本ハム注目はふたりの大学生だ。
「2位の金村尚真(しょうま/富士大)は176㎝と大きくはないですが、必要な球種をキュッキュッと曲げられて面白い存在。5位の奈良間大己(たいき/立正大)は常葉(とこは)大菊川高時代から気になっていたショート。スイングにパンチ力があります」
続いてセ・リーグ。浅野のクジを外した阪神の1位指名、森下翔太(中央大)はどうか?
「理論上の理想のスイングを追い求めてつくったスイングで、若干、"点"でしかとらえられない印象もあります。実戦での対応力やミートポイントの奥行きを見たい。阪神で注目は2位の門別啓人(けいと/東海大札幌高)。ソフトバンクの大関友久のようなイメージです」
中日は沖縄の大学から初のドラフト指名となる仲地礼亜(なかち・れいあ/沖縄大)を1位で獲得した。
「177㎝であまりサイズはないですが、オーバースローでストレートに伸びがあり、パワーカーブ、縦スライダーが特徴です。柳裕也(中日)や山岡泰輔(オリックス)に似ていて、中日が好きそうな投手です」
最後に、「選手の発掘・育成の肝」について、お股ニキ氏の見解を語ってもらった。
「本当にすごい存在は幼少期からその片鱗(へんりん)が見えるもの。東宝シンデレラオーディションを受けた当時12歳の長澤まさみさんがまさにそう。今、プロ野球で活躍する一流選手たちの高校時代のプレーを見返すと、多少無駄はそぎ落とされたり洗練されたりはしていても、根本的な力の伝え方や型などは変わっていません。
佐々木朗希(ロッテ)だって小学校時代のフォームを見ると今の面影はあるし、大谷翔平もそう。逆に言えば、その天性の素質にいかに気づき、そのまま伸ばしていくか。昔ほど指導力のないコーチが無理やり矯正(きょうせい)することは減っていると思うので、自分の感覚を大事にしてほしいです」
未来の球界を盛り上げる選手がこの中から何人も出てきてほしい。