みなさんこんにちは、野球大好き山本萩子です。ペナントレースと日本シリーズは終わりましたが、気がつけばあっという間に次のシーズンがやってくるでしょう。時が経つのは早いもの、季節はもうすぐ「師走」ということで、本日は「代走」についてお話させてください。

代走。

代打と同じように肝心な場面で投入されますが、その役割はかなり特殊です。代走をひとことで言えば、試合を決める大事な1点を取りに行く人。代走の選手が本塁を踏むことは試合の大きなターニングポイントとなり、ペナントレースの行方さえ左右します。野球にはそれぞれのスペシャリストがいますが、代走はとりわけ大事な役割の一つだと思います。

「代走」といえば思い出すのが、巨人で活躍した鈴木尚広選手。来年からジャイアンツの一軍外野守備兼走塁コーチに復帰することが決まっていますが、一度もシーズンの規定打席に達したことがないのに200盗塁を達成した唯一の選手です。

現役では、やはりソフトバンクの周東佑京(しゅうとう・うきょう)選手でしょう。WBCの日本代表・栗山監督からも「困ったとき、絶対的に必要なピースのうちの一人」と厚い信頼を寄せられているほど。

代走の選手が登場する場面も、とても特殊です。

たとえば試合終盤9回の裏、1アウトでランナー1塁。ベンチから代走が出てきます。この瞬間、選手はもちろん球場にいるファン全員がその意味を理解するわけです。

「間違いなく走ってくる」

複雑な戦術を駆使する近代野球で、こんなにもわかりやすいシーンはないですよね。足を使って勝負を仕掛ける瞬間を、ファンは固唾を飲んで見守ります。

ベンチとファンの期待を背負って送り出された代走の選手に対して、相手バッテリーは全力でそれを阻止しようとします。何度も繰り返される牽制、その度にユニフォームを真っ黒にして、手についた土をパンパンと叩いて落とす代走の選手。バッテリーも気が気ではないでしょう。

そして投じられた1球、すぐさま捕手からセカンドへ矢のような送球......。

警戒をかいくぐって盗塁を成功させる代走の選手はお見事です。一方で、盗塁に失敗してしばらく立ち上がれない代走の選手にも、拍手を送りたいと思います。勝負を仕掛けてバッテリーの動揺を誘い、集中力を削ぐことで対峙している打者に甘い球が入ったかもしれません。

成功か失敗、それだけで代走の意味は計れません。

走る......といえば馬。かく言う私は自分で走るのは苦手ですが、馬とともに走るのは大好きです 走る......といえば馬。かく言う私は自分で走るのは苦手ですが、馬とともに走るのは大好きです

先の鈴木選手は年齢を重ねてからも盗塁を続けました。これは足の速さだけではなく、技術も大事ということ。周東選手は左右どちらの足でもスライディングできる技術を磨いたことで、セーフになる確率を上げたのだとか。技術の研鑽を怠らないからこそ、スペシャリストとして尊敬されるのでしょう。

MLBでは来年から、牽制の回数が制限されます。3度以内に成功しないとボークになるため、牽制の重みがさらに増すことになります。

番組でご一緒していた黒木知宏さんはクイックの名手でしたが、「牽制しないことが1番の牽制」とおっしゃっていました。そうするとランナーはタイミングを計りづらくなるのだとか。来年から黒木さんがコーチを務めるロッテの盗塁阻止率にも注目ですね。

ということで、試合の途中で代走の選手が出てきたときは、プロフェッショナルが見せる真剣勝負に注目してください。それではまた!

追記:思い出の代走は、比屋根渉(ひやね・わたる)選手です!

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!