カタールでW杯取材は8度目の『キッカー』ベテラン記者、カールハインツ・ヴィルト氏カタールでW杯取材は8度目の『キッカー』ベテラン記者、カールハインツ・ヴィルト氏

W杯優勝4回を誇るサッカー強国ドイツ。前回大会では同国史上初のグループリーグ敗退という屈辱を味わっただけに、今大会ではそのリベンジに燃えているはず。初戦で戦う"格下"の日本なんて眼中にないはず、と思いきや......!?

■「今の代表に国民は期待していない」

カタールW杯で初のベスト8進出を狙う日本代表は、23日の初戦でドイツと対戦する。

ドイツ、コスタリカ、スペインと同居したグループEを突破(上位2チーム)するためには、その初戦で勝利、もしくは最低でも引き分けを狙いたいところだが、ドイツは2014年ブラジルW杯を制するなど過去に優勝、準優勝をいずれも4度誇る強豪だ。果たして、日本が勝ち点を奪うチャンスはあるのか。

ドイツ代表のことを知るにはドイツ人に聞くのが一番。そこで、まずはドイツ最大のスポーツ誌『キッカー』の編集部を訪問し、W杯取材はカタールで8度目というベテランのカールハインツ・ヴィルト記者を直撃した。

グループEについて、ドイツと共に優勝経験のあるスペインが入ったことで、2強2弱(日本、コスタリカ)という見方をする向きが多いが、キッカー誌でドイツ代表および強豪バイエルン・ミュンヘンを担当するヴィルト記者はどう見ている?

「数ヵ月前にその質問をされたら、私もスペインとドイツが無風で突破すると答えただろう。だが、今は正直わからない(笑)。コスタリカにほぼチャンスはないと思うが、日本は多くの選手がヨーロッパでプレーしている。

ブンデスリーガに所属している選手もほとんどがレギュラーとして活躍しているし、ドイツにとって危険な相手だと思っているよ」

「日本なんて眼中にないよ」「グループEの勝ち抜けはドイツとスペインで決まり」と突き放されることも覚悟していたが、ヴィルト記者は日本を評価した上で、現在のドイツ代表について「決していい状態にない」と説明してくれた。

ドイツは昨夏のEURO(欧州選手権)2020(新型コロナウイルスの影響により開催が1年延期)後に、チームを約15年間率いたヨアヒム・レーヴ監督が退任、新たにハンジ・フリック監督が就任し、8連勝という好スタートを切った。しかし、その後は2勝4分け1敗と完全に勢いを失っているのだ。

特にひどかったのが、9月の欧州ネーションズリーグで、FIFAランキング36位の格下ハンガリー(日本は同24位)に0-1で敗れた一戦だったという。

「ハンガリーが完璧に守備をしたともいえるが、ドイツは思うようにボールを回せず、相手DFの裏を取ることさえできなかった。今回のW杯で、フリック監督は最低でも準決勝までは行きたいと言っているが、正直国民はそこまで期待していない」

日本との初戦についても、「ドイツにとって簡単な試合にはならないだろう」とヴィルト記者は続ける。

「ドイツにとっての最大の課題は、9番(ストライカー)の不在。仮に日本がハンガリーのようにうまく守備を固めてくれば、ドイツはチャンスをつくれない可能性がある。加えて、ドイツのDF陣はスピード(のある選手への対応)をあまり得意にしていない。

鎌田大地はブンデスリーガで4位につけるフランクフルトで、チームトップの7得点を挙げていて絶好調だし、日本に速い攻撃をされれば苦しくなる。左SBのダヴィド・ラウム(ライプツィヒ)は攻撃型で、CBニクラス・ジューレ(ドルトムント)もスピードがない。もしCBアントニオ・リュディガー(レアル・マドリード)を故障などで欠くことになったら、ディフェンスラインは一気に不安になるね」

ドイツ代表の予想布陣byヴィルト記者

ちなみに、26人の登録メンバーには強豪バイエルンから最多7人が選出。試合展開によっては中盤から前線にかけての6人全員を、バイエルンの選手で固めることも可能だろう。

そんな中、ヴィルト記者が注目選手として挙げたのが、バイエルンで今季ここまで公式戦23試合12得点9アシストとブレイクした19歳のMFジャマル・ムシアラだ。左右中央どのポジションでもこなせる器用さがあり、ドリブルもパスも一級品のアタッカーだ。

「ムシアラは何をするかわからない動きでプレーが読めないぶん、日本にとっては守りづらいだろう。テクニックがあるだけじゃなく、ボールを奪い取る力があり、シュートもうまい。どのポジションでもプレー可能なだけに、ムシアラの起用法はドイツのひとつのカギになる」

"新星"ムシアラの台頭は気になる。ただ、チームとして見ればドイツに14年ブラジルW杯優勝当時のような強さはないようだ。

■「三笘の仕掛けはドイツの脅威になる」

前回のロシアW杯では、ドイツは同国史上初めてのグループリーグ敗退という結果に終わった。「今回も決勝トーナメントに進出できなければ大変な騒ぎになる」と話すのは、Jリーグの京都や浦和での監督経験があり、日本とドイツの両国をよく知るゲルト・エンゲルス氏だ。

かつて京都や浦和の監督を務めるなど日本でもおなじみの指導者、ゲルト・エンゲルス氏かつて京都や浦和の監督を務めるなど日本でもおなじみの指導者、ゲルト・エンゲルス氏

エンゲルス氏は、今年9月の日本代表のドイツ遠征の2試合(vsアメリカ、vsエクアドル)もスタジアムで生観戦している。

「9月のドイツ遠征では、鎌田が好調ぶりを見せたし、(主力組が出場した)アメリカ戦ではダブルボランチの遠藤航(シュトゥットガルト)と守田英正(スポルティング)のコンビも素晴らしかった。

また、前田大然(セルティック)の前線からのハードワークは、W杯の舞台でもきっと日本の武器になる。三笘薫(ブライトン)は相手陣地でボールを持ったら縦にも中にも行けるし、彼の仕掛けはドイツやスペインにとっても脅威になるはずだ」

日本にも戦い方次第でチャンスはある。ただし、エンゲルス氏はヴィルト記者と異なり、日本がハンガリーのように、低い守備ブロックを敷いて守り切る戦術をマネすることは難しいのではないかとみている。

「確かにドイツはハンガリーの5-4-1の守備を崩すのに苦労したし、当然、森保監督もあの試合をチェックしていると思う。ただ、日本がハンガリーの戦い方をコピーするのは簡単ではないし、選手のメンタルも違う。ハンガリーの戦い方を参考にするのはいいけど、日本は下がって守るチームかといわれればそうではないのでは。

ドイツに勝つには前線からアグレッシブに守備にいくしかない。そこからのショートカウンターなどで勝機が出てくるだろう」

そして、エンゲルス氏は日本の26人の登録メンバーに、ドイツのクラブに所属する8選手が含まれていることが、日本のアドバンテージになるとも続けた。

「バイエルンの選手を中心に、ドイツのメンバーはもちろん強力。でも、ブンデスリーガでプレーしている日本の選手は彼らがどういう選手かを知っているし、実際にピッチでそれを体験しているのは大きい。

『こうしたら危ない』『でも、こうやったら抑えられる』などとね。ただの情報ではなく、肌感覚としてそれを知っているのは間違いなく有利に働くはず」

ヴィルト記者が挙げたムシアラのほかに、注目すべき選手は誰か?

「日本が注意しなければならないのがカイ・ハヴァーツ(チェルシー)だ。ドイツはストライカーに問題を抱えているが、ハヴァーツは本来トップ下の選手ながらトップでもプレーできる。190㎝の長身でヘディングも強いのに、足元の技術もある。

それと、レロイ・サネとセルジュ・ニャブリ(共にバイエルン)はスピードがあり、スペースを与えると抑えるのは簡単じゃない。33歳となったベテランのトーマス・ミュラー(バイエルン)も運動量こそ減ったが、得点センスは健在だし、ここぞという場面では投入してくるはずだ」

好選手はそろっているが、弱点はもちろんある。

「最近のドイツの戦い方は、数年前のマンチェスター・シティに似ているというか、長い時間ボールを保持しているんだが、相手に守りを固められて数少ないカウンターから失点することがある。日本としては、そこを突けるかどうか。ボールを奪った後のGKとディフェンスラインの間のスペースは、日本にとって狙い目かもしれない」

■「前回もメキシコと韓国に負けた」

ヴィルト記者とエンゲルス氏、それぞれにグループEの順位を予想してもらった。

「今季のチャンピオンズリーグではバイエルンがバルセロナに2勝したものの、代表チームの完成度はスペインが上。ドイツは日本と2位争いをすることになるだろう。6対4でドイツが若干有利だとは思うが、前回大会のグループリーグでメキシコと韓国に敗れたことを考えると不安は少なくない」(ヴィルト記者)

「本音ではスペインが首位通過の可能性は高いと思うが、希望を込めてドイツと日本に勝ち上がってほしい(笑)。日本はおそらく初戦でドイツと引き分け、第2戦でコスタリカに勝って、スペインとの最終戦に望みをつなぎたいと思っているだろう。

一方のドイツは第2戦の相手がスペインで、初戦で日本に負けたら終わりくらいの覚悟を持っているかもしれない......」(エンゲルス氏)

日本はこれまで、W杯で決勝トーナメントに進出した3大会(02年、10年、18年)で、いずれも初戦で勝ち点を挙げてきた。その意味でもドイツ戦は重要だ。

「1-1、もしくは2-2という結果は十分ありえる。そうなれば、日本にとってポジティブだろう。かつて日本は長身DFの不在に悩んだが、対ドイツということで考えれば板倉滉(ボルシアMG)の復帰は大きい。

もし板倉が万全な状態なら、吉田麻也(シャルケ)とのコンビで中央を固め、左SBに伊藤洋輝(シュトゥットガルト)、右SBに冨安健洋(アーセナル)と4人全員が身長185㎝以上の高さのあるDFラインもオプションになるかもしれない」(エンゲルス氏)

ふたりの予想は想像以上に弱気だった。ただ、そこには今回のW杯は欧州サッカーのシーズン中という異例の時期での開催、またホスト国・カタールへの不信感などから、ドイツ国内でのW杯への盛り上がりがいまいちなことも影響している様子。

「ドイツ国内ではカタールの首都ドーハ近郊に7つのスタジアムが新設され、その過程で多くの出稼ぎ労働者が命を落としていること(非公式ながら6000人以上が亡くなったとの報道もある)や、スタジアムの冷房システムに莫大(ばくだい)なエネルギーが使われることに対して、批判的な意見を持っている人は少なくない。

その影響からクナイペ(パブや飲み屋)ではW杯のテレビ中継を流さない店もあるし、W杯中継の視聴をボイコットするファンもいるといわれている。

もちろん、そこには最近のドイツ代表の芳しくない成績が関連していることも確か。大会が始まったらどうなるかはわからないが、現段階では正直、これまでのW杯のような盛り上がりはない」(ヴィルト記者)

「ドイツ国内では、カタールW杯に関する政治や環境の問題、さらにイスラム教におけるLGBTQに関する問題などさまざまなことが議論されており、W杯に向けた国民の冷めた空気が、代表チームへ心理的な影響を及ぼしたとしても不思議ではない」(エンゲルス氏)

思い起こせば初のアジア開催となった02年日韓W杯では、アジア独特の気候の影響などもあって、優勝候補とみられていた強豪が次々に早期敗退する大荒れの展開となった。中東初開催となるカタールでも、何が起きても不思議ではないだろう。がんばれ、森保ジャパン!

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