不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第46回目のテーマは、カタールW杯の優勝候補について。今大会で優勝の可能性が高いチームはいったいどこなのか? 福西崇史はブラジル代表のチーム力を高く評価した。
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「今大会の優勝候補は?」と聞かれると、ヨーロッパ勢の強さは理解していますが、今大会はブラジル代表がもっともバランスが取れたチームだなと感じています。
ネイマールは31歳で、フィジカル面とメンタル面でキャリアのピークで今大会を迎えています。しかも、今大会は攻撃陣にはビニシウスやラフィーニャなど若くて能力の高いタレントが揃っているので、ネイマール頼みになることもない。
ネイマールのマークがなくなるわけではないでしょうけど、前回大会のようにネイマールさえ潰しておけば攻撃力が半減するということもないわけです。また、ネイマールは初戦で負ったケガにより、グループリーグの残りの試合を欠場すると言われています。そういう意味で、グループリーグの残り試合はブラジルの底力、そして真価を図ることができるのではないでしょうか。
守備陣もCBにはベテランの経験値があって、若手もしっかり台頭している。なにより、アリソンとエデルソンという世界一のGKがふたりもいますからね。これほど贅沢なチームはそうありませんよね。
どんな強豪国でも1度や2度はピンチを迎えるわけです。そのときにアリソンなり、エデルソンなりがゴールマウスを守っているというのは、味方にとっては心強いでしょうし、相手にとってはプレッシャーになるわけです。
ビッグチャンスは確実に決めたいけれど、アリソンやエデルソンだと「ゴールマウスの四隅の厳しいところを突かないと決まらない」という心理が働く可能性はありますからね。
南米勢がワールドカップを制したのは、2002年日韓ワールドカップでブラジル代表が優勝したのが最後です。そこからの20年間、優勝はいつもヨーロッパ勢でした。
2006年ドイツ大会は、決勝戦でフランス代表に勝利したイタリア代表が優勝。2010年南アフリカ大会は、延長までもつれ込んだ決勝戦で、イニエスタの決勝ゴールでオランダ代表を下したスペイン代表が初優勝。2014年ブラジル大会は、ドイツ代表が決勝でアルゼンチン代表に勝利して優勝。前回大会はフランス代表がクロアチア代表を退けましたよね。
この背景には、サッカーが組織的な戦いを求められるようになってきていることがあるでしょうね。たとえばドイツ代表なら、バイエルンの選手を中心にしたり、スペイン代表ならバルセロナを中心に据えたりしながら、クラブですでに出来上がっているコンビネーションを生かしながら、チームをつくっていくことができるわけです。
でも、ブラジル代表やアルゼンチン代表の場合、選手個々は5大リーグのトップクラブに所属して主力としてプレーする優秀な選手は多いのですが、チームとして組織的に成熟する時間的な余裕がないし、組織力の母体になるチームとしての戦い方がない。これは、海外組の増えている日本代表にも同じことが言えるわけですが......。
代表選手たちがみんな、海外リーグの同じクラブでプレーしているなら話は違うのでしょうが、そういうわけにはいきませんからね。メッシがバルセロナでは輝けても、代表になると輝けないのは、ほかのメンバーとのコンビネーションの有無が大きかったですよね。
どれだけ個々の力量が素晴らしくても、それだけで勝てるものではなくなっているのが現代のワールドカップなんですね。まずコンビネーションなどのチームとしての組織力があって、そのうえで個の力を発揮するから相手の脅威になるわけです。
その組織力が構築しきれないのが、これまでのブラジル代表であり、アルゼンチン代表でした。はたして今回のワールドカップはどうなのか。その視点からも興味深いですよね。
アルゼンチン代表について言えば、ぼく個人が今大会で1番期待しているチームです。初戦のサウジアラビア戦の負けは衝撃的でしたが、メッシとともに出場したどの大会よりも、チームとしてのまとまりはあるように感じています。メッシが主軸なことに変わりはないけれど、メッシだけではないチームがようやくできたなという印象です。
それだけに、サウジアラビア戦の敗戦は驚きました。「まさか」は起きるもんなんですね。ただその結果、グループリーグから尻に火がついた状態のアルゼンチン代表を見ることができました。
第2戦のメキシコ戦では、メッシのスーパーゴールも飛び出し2-0で勝利。チーム含め試合に対するとてつもない気迫が伝わってきました。メッシにとってキャリア最後となるであろうワールドカップで、決勝トーナメント進出を逃すわけにはいかないですからね。
残るポーランド戦もメッシはもちろん、ほかの選手たちも必死になるはずです。グループリーグから本気のアルゼンチン代表はそう見られるものではないだけに、楽しみでなりません。
ひとつの試合が、次の試合とそこに含まれているドラマへと続いていく。この楽しさが、ワールドカップに夢中になる理由のひとつでしょうね。