いよいよ日本時間の12月6日(火)0時より、カタールW杯のベスト8をかけてクロアチアと対戦する日本。グループリーグ突破のキーマンとなったのが、これまで攻撃力不足が指摘されてきた森保ジャパンで、幾度となくピンチを救ってきた三笘 薫(みとま・かおる、サッカー日本代表MF/ブライトン&ホーヴ・アルビオンFC所属)だ。
生粋のドリブラーは再び、日本代表に再び歓喜をもたらしてくれるのだろうか!? W杯開幕直後の11月22日に配信したスポーツキャスター・中川絵美里さんによる三苫選手の独占インタビューを再録する。
■プレミアリーグ挑戦で得られたもの
中川 お久しぶりです。まずは、去る10月14日のプレミアリーグ第11節、ブレントフォード戦での負傷が大事に至らず、本当に安心しました。
三笘 もう、全然大丈夫です。
中川 W杯直前ということもあり、ご自身が一番ヒヤッとされましたよね。
三笘 診断結果が出るまでは気になっていました。でも、結果を聞かされて大丈夫だと確信できたので、ほっとしました。
中川 今年7月にベルギーのロイヤル・ユニオン・サンジロワーズから現所属のブライトン & ホーヴ・アルビオンFC(以下、ブライトン)に復帰、世界最高峰のリーグでの挑戦が始まりました。
三笘 プレミアリーグを肌で感じることができて、すごく楽しいです。ただ、ここまで試合にはあまり多く出られていないので、もっとチームの助けになりたいですね。
中川 一番の収穫を挙げるとすれば、どんな点ですか?
三笘 やはり世界のトップレベルを体感できる点ですかね。スピード感もそうですし、DFもレベルの高い選手がひしめいているので、自分が通用するのか、試合ごとに確かめられます。
中川 ひとたび三笘選手が投入されると試合の流れが変わることも多く、ボールもよく集まるので、チーム内での信頼、存在感が増していると感じます。
三笘 そうですね、試合を積み重ねるにつれて、チームからの信頼も少しずつは増してきているのかなと。でも、自分が先発で試合に出て勝利することが一番信頼につながると思うので、まずはその位置をつかみ取りたいです。
中川 ブライトンは、ご自身を相当成長させてくれていますか?
三笘 ええ、ベルギーにいた頃と比べると、やはり練習の強度が高いです。技術のある選手も多いので、その中でもまれて毎日練習できているので、自然と成長につながりますね。基本的に僕は、やっていることは昔から変わらないんですが、それでも日々自分の課題や伸ばすべきポイントが発見できているのは非常に大きいです。
中川 プレミアリーグを拝見していると、三笘選手のフィジカルが格段に強くなったと感じます。やはりブライトンの環境が影響していますか?
三笘 ええ、施設がすごく整っています。出場試合数はここまで少なかったですが、その分しっかり練習できるし、トレーニングも積めるので、体はいい感じになってきています。
中川 具体的に、施設の充実度はどの程度なんでしょう?
三笘 相当高いです。例えば、クライオセラピー(冷却療法)というリカバリーの施設があったり、低酸素トレーニングやさまざまな筋力トレーニングの器具も充実しています。グラウンドも広いんですよ。何面もあって。しっかりとひと通りこなすことができる設備がそろっているので、いいクラブに来られてよかったと、しみじみ思います。
■チュニジア戦後の発言の真意
中川 今年、三笘選手にとってプレミアリーグ挑戦と並ぶビッグイベントが、初のW杯出場です。今の心境は?
三笘 W杯は絶対に出たかったですし、昔からの憧れでした。本当にうれしいです。
中川 A代表デビュー戦となった、昨年11月のアジア最終予選のアウェーでのオマーン戦では、決勝点をアシスト。それを皮切りに代表戦9試合で5ゴールを記録と、限られた時間の中でしっかりと結果を出されています。
三笘 招集を受けた最初の頃は、正直、自分をどうアピールするか、次も呼ばれるためにはどうすべきかを考えていました。ただ、最終予選を戦っていくうちに、この試合に勝てないとW杯には出られないという重圧の下、チームのためにどう貢献すべきかという考えに重きを置くようになりました。
中川 やはり国を背負って戦うという緊張感、覚悟というのは別格ですか?
三笘 そうですね。おっしゃるとおり代表というのは国を背負っているわけですから、それだけ名誉なことですし、責任も重大ですので。特に試合前に、国歌を聴くときにそれを感じます。
中川 あるYouTubeチャンネルで、W杯出場を決めた今年3月のオーストラリア戦が「人生で一番大きな試合だった」と。敵地での2ゴールは圧巻でした。周囲の期待もピークにある大一番で、プレッシャーもすごかったということですか?
三笘 いや、僕は日本が本大会出場を危ぶまれた最終予選の始めの4戦を戦っていないので、そう語れるほどのプレッシャーは感じていなかったんです。いつものとおりのルーティンをこなす感覚で臨みました。
中川 平常心がすごいですね。
三笘 W杯出場を決める試合で得点できたのはうれしかったですけど、大事な試合だから失敗できないという焦りはなかったです。焦ったところで、プレーに何か変化をもたらすとか、成長できるわけではないですから。
中川 普段から気持ちがブレないタイプだと。
三笘 どうですかね、冷静ぶっているところもありますけどね(笑)。でも、自分自身と常に対話するというか。周りに惑わされず、自分に集中することで、あまりブレないでいられるのかもしれません。
中川 W杯出場が決まり、6月は親善試合が4試合行なわれました。ブラジルとの試合後には、相手DFのエデル・ミリタン選手とのマッチアップで2度ほど止められてしまったことで、自分の力を測れたとコメントされていました。
三笘 1対1に関しては、いろんな反省点がありました。前提として、フィジカルやスピードでこちらが劣っているから止められてしまった。それを補うには練習や経験を積み重ねていくしかないし、筋力トレーニングも充実させていこうと思ってます。
W杯本番ではブラジル戦のような展開は多分に考えられます。自分たちがボールを支配できない中で限られたワンチャンス、ツーチャンスで決め切らないといけないと感じました。
中川 0‐3と惨敗を喫した6月14日チュニジア戦後には、「チームで決まり事を共有する点をもっと明確にしていかないといけないのでは」と、提言されたのが注目されました。
三笘 なぜか言葉がひとり歩きしてしまったのですが(苦笑)、チームへの批判ではないんですよ。僕が言いたかったのは、こうです。チーム内で共有があるかないかでは、連動性も距離感も全然変わってくる。
共有が不足していたがために、チュニジア戦のような結果になってしまい、これではW杯本番では勝てないと。そこからは、練習やミーティングにおいて共有が徐々に増えてきました。効果が表れた好例は、9月のドイツ遠征、アメリカ戦(23日)だったと思います。
中川 チームの話から少しそれますが、見事なゴールでした。
三笘 序盤でアピールできてなかったんで、アディショナルタイムが近づいていたこともあり、ここは自分が結果を出すしかないと。スペースも空いてましたし、いいイメージ、感触でゴールまでいけましたね。
中川 そのドイツ遠征ですが、選手間ミーティングはかなり行なわれましたか? 現在の代表メンバーは若手が多い印象ですが、若い選手もどんどん発言されたり?
三笘 はい、僕もしましたし、(久保)建英(たけふさ)や(堂安)律も積極的に。いつまでも上の世代の選手に任せっぱなしでは、チーム自体が強くならないと思うんです。責任を持つという意味でも、どんどん言うべきことは言いました。
中川 本番が近づくにつれ、危機感も増していきますよね。特に今大会は夏ではなく11月開催で、通常より準備期間が短い特異なケースです。
三笘 ええ。大会前になると選手間で議論がどんどん増えるというのは聞きますが、今回はそういう事情もあって、皆で集まれる機会がそもそも少なかったので。海外組にとってドイツ遠征は大会前の最後の招集でしたし、(吉田)麻也さんも言ってましたけど、いい遠征にしようと。そういうフェーズなんだというのは、皆ひしひしと感じていたと思いますね。
中川 主将として前回W杯に出場された長谷部誠選手も遠征に同行されていましたが、何かお話はされましたか?
三笘 僕は少ししか話してないですけど、W杯本番の雰囲気とか、食事中に皆が長谷部さんに質問していて、僕は傍らでいいお話が聞けました。
■三笘 薫のドリブル論。「間合い」と「見極め」
中川 いよいよ11月23日、本大会初戦を迎えます。グループリーグでの戦い方について、ご自身の予想と分析を教えてください。
三笘 正直、いざ本番を迎えてみないとなんとも言えませんが......。ただ、僕がベンチウオーマーとして前半戦を外から見ていた試合でいずれも感じたのは、日本は自分たちの強みを出して、弱みを出さないというところでは、ここまでは手堅く戦えているなと。それを本番でもいつもと同様に出せるのか。それがカギになってくると思います。
中川 より具体的に、各国との対峙(たいじ)の仕方については?
三笘 ドイツ戦はボールを握られると思うんで、ボールを奪った後に、すぐまた失うようだとショートカウンターでやられてしまう。なので、プレーの大胆さやプレスのかけ方が大事ですね。当然ながら、失点しないこともドイツやスペイン戦に関しては重要かなと。
中川 コスタリカは?
三笘 コスタリカについては僕も少し分析が足りませんが、ボールを握れる時間帯はドイツやスペインに比べれば増えると予想されるので、その中でチャンスを決め切れるか。
また、僕たちが4-2-3-1で戦うのか、それとも別の布陣に変えるのかはわからないですけど、そういう変化をぶつけやすい、僕らからアクションを加えられそうな相手だとは感じています。
中川 そして、三笘選手といえば、やはりドリブルです。プレミアリーグでも日本代表でもチャンスを演出する場面は多く、成功率も高いですよね。
三笘 途中出場であれば、ドリブルが通用するという自負はあります。相手も疲労してきて、コンパクトさがなくなってスペースが空いてきたところに、フレッシュな僕が投入されるわけですから。
ただ、試合90分間を通してどのくらい通用するかは未知数なので、フル出場でも結果を出せるようにしっかり練習していく必要はあると思います。
中川 W杯では、相手国の右サイドバックの選手と主にマッチアップするわけですが、今の時点でどう崩そうか、イメージはありますか?
三笘 本番では誰と対峙するのかわからない部分はありますが、スピードのある選手とそうでない選手とでは、こちらも対応の仕方が変わってきます。例えばドイツのDFならアントニオ・リュディガー選手(レアル・マドリード)やティロ・ケーラー選手(ウェストハム)は共にスピードある選手なので、タテには自信があるはずです。
中川 間合いの問題もありますよね。
三笘 ええ、間合いが広い選手と狭い選手がいますね。それと、僕が(相手を)背負ったときにどれだけ突っ込んでくるかというのもあるので、その都度、柔軟に対応していきたいです。
中川 スピードのある選手、ない選手との間合いだったり、そこでのドリブルでの仕掛け方だったりについて、もう少し教えてもらえますか?
三笘 相手がスピードのない選手であれば、こちらが意図的に仕掛けてタテに突破していくのが可能です。オフ・ザ・ボールの立ち位置よりも、いかにスピードに乗れるかとか、いい状況でボールを受けられるかというのも関わってくるんですが。
一方で、スピードのある選手だと、やっぱりタテに一回で仕掛けるというのは厳しいので、自分の最初の立ち位置で相手をいかに混乱させるか、あるいは味方との連係だったり、相手にあえて近づくとか、仕掛ける場面でスピードを上げすぎないようにしたり。間合いをよりゴールに近いところまで運ぶ、ですとか。
中川 それぞれの相手の特徴を瞬時にとらえて臨機応変に変えていくということですか。
三笘 ええ。直感で動いているところもありますけどね。
■観客を楽しませて、結果を出す
中川 約2年前のルーキーイヤーに取材した際は、将来的には日本代表や海外で活躍したいとおっしゃってました。ほぼ夢がかないましたね。
三笘 おかげさまで順調にきているとは思いますが、まだまだ上に行けると思ってます。もちろん、いいチームに所属できる運、チームメイトの支えがあってこそですが。
中川 W杯ではどのように活躍したいですか?
三笘 もちろん、すべての試合に出てチームを助ける仕事をしたいというのが理想です。でも、ほんの数分しか出られないということも十分ありえます。とにかく、フォア・ザ・チームの心ですね。自分の我を出さないことが大事だと思ってます。
中川 個人としては、今後のキャリアをどう歩んでいきたいですか?
三笘 プレミアリーグで満遍なく試合に出ること、やがてはビッグクラブでプレーして、チャンピオンズリーグにも出場したいですね。それから、いざピッチに立てば、観客を楽しませて、コンスタントに結果を出す。それが今後の目標です。
●三笘 薫(みとま・かおる)
1997年5月20日生まれ、神奈川県出身。川崎フロンターレのU-10以降、年代別の下部組織でプレー。筑波大学卒業後、川崎フロンターレのトップチームに入団、ブレイクを果たし、2020年シーズンJリーグベストイレブンに選出。21年、東京五輪日本代表として3位決定戦のメキシコ戦で1得点。同年11月のA代表デビュー以降、森保ジャパンの切り札として存在感を増している。ベルギーリーグへの期限付き移籍を経て現在、英プレミアリーグのブライトン&ホーヴ・アルビオンFC所属。11月16日時点でA代表9試合出場5ゴール
●中川絵美里(なかがわ・えみり)
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。昨年まで『Jリーグタイム』(NHK BS1)のキャスターを務めたほか、TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週木曜27:30~)のパーソナリティを担当。テレビ東京『ゴルフのキズナ』(毎週日曜10:30~)に出演中
スタイリング/武久真理江 ヘア&メイク/川上優香 衣装協力/EPOCA KAORU