PK戦の末に力尽きたクロアチア戦。だが、前回準優勝国を追い詰めたPK戦の末に力尽きたクロアチア戦。だが、前回準優勝国を追い詰めた

よく頑張った。ブラボー!! 下馬評を覆して次々と強豪を撃破したわれらが森保ジャパン。果たして、そのプレーぶりは現地で大会を取材する各国ジャーナリストの目にどう映ったのか? やっぱりブラボーなのか?

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■ドイツ&スペイン、強豪国の敗戦の弁

大会前、W杯優勝経験国のドイツ(4回)とスペイン(1回)と同グループに入った日本代表の決勝トーナメント進出(上位2チーム)を予想する声は少なかった。

だが、そんな低い前評判を覆し、初戦でドイツに逆転で勝利を収めると、続くコスタリカ戦には敗れたものの、第3戦でスペインにも逆転で勝利。見事グループリーグを首位で通過した。

決勝トーナメント1回戦では前回準優勝のクロアチアを相手に先制するも追いつかれ、PK戦で力尽き、悲願のベスト8にはあと一歩届かなかった。それでも、いい意味で期待を裏切った森保ジャパンの戦いぶりを海外メディアはどう見たのか?

まずは対戦相手国から。

初戦で日本に敗れ、まさかの2大会連続でのグループリーグ敗退となったドイツの専門誌『キッカー』のカールハインツ・ヴィルト記者は、今回でW杯取材8度目となるベテラン記者である。

ドイツ戦前半の日本の消極的な戦いぶりには「ガッカリした」と言いながらも、4-2-3-1でスタートした布陣を、後半に入って実質5バックの3-4-2-1に変更した森保監督の采配を絶賛した。

ドイツのナンバーワンサッカー専門誌『キッカー』のカールハインツ・ヴィルト記者ドイツのナンバーワンサッカー専門誌『キッカー』のカールハインツ・ヴィルト記者

「前半の日本の守備は、両サイドがかなりオープンで左SB(サイドバック)のラウムは好きなようにプレーしていた(実際、ドイツはラウムが得たPKをギュンドアンが決めて33分に先制した)。ただ、後半は5バックにしたことでドイツはチャンスをつくるのに苦労し、ミスも出た。

森保監督の采配は的確で、日本は勇気を出してカウンターに活路を見いだし、少ない好機をゴールに結びつけた。同点弾の堂安、決勝弾の浅野の途中起用はいずれもタイミングがよかったし、何より重要だったのが後半にDFを4枚から5枚にし、守備を改善したことだ。

また、ドイツ人の私にすれば、点を取ったふたりはもちろん、日本のメンバーのうち約半分はブンデスリーガでプレーしている選手だったということに胸が熱くなった。GK権田も前半にPKを与えた以外はいいセーブをしていたし、ドイツは負けるべくして負けた」

ドイツの日刊紙『F.A.Z.』のミカエル・ホレニ記者。「私の一番好きな選手は鎌田だ」ドイツの日刊紙『F.A.Z.』のミカエル・ホレニ記者。「私の一番好きな選手は鎌田だ」

同じくドイツの日刊紙『F.A.Z.』のミカエル・ホレニ記者も、後半のシステム変更と選手交代をたたえた。

「日本の勝利を多くの人が予想していたとはいえない。ドイツ国内では多くの人が格下の日本に敗れ、大会を後にしたことを嘆いている。ただ、日本の勝利は中盤でのクレバーなプレーの結晶だし、後半に関しては日本がドイツよりいいプレーをしていたことは間違いない

スペイン人のイナキ・アングロ・マルケス記者。カタールのテレビ局でリポーターを務めるスペイン人のイナキ・アングロ・マルケス記者。カタールのテレビ局でリポーターを務める

続いてはスペイン。カタールのスポーツ専門テレビ局『be IN Sports』でリポーターを務めるスペイン人のイナキ・アングロ・マルケス記者は、グループリーグでドイツとスペインに勝ちながらコスタリカに敗れた日本の戦いぶりについて「説明できないことが起こるのが今回のW杯」として、こう続けた。

「ドイツに勝っただけならまだしも、スペイン相手にも似た展開で勝利するなど、W杯王者を2度も破るとはね。前半は完全にスペインが試合を支配していたが、失点を最小限に抑えて後半の3分間で一気にひっくり返した。

率直に言って、日本が主導権を握っていたのはわずかな時間だけで、少し奇妙な試合だった。ただ、この逆転劇はW杯の歴史に残るものだ」

スペイン戦では三笘のゴールライン上ギリギリからのアシストも話題となった。多くのメディアが上空からの写真を使い、ボールの表面わずか1㎜ほどが線上に残っていたことを示すなどしたが、判定は議論を呼んだ。

「確かに、スペインでも話題になったし、判定への不満を口にしていた選手もいた。ただ、あれはゴールだよ。ラインを割っているように見えるかもしれないけど、空中でもボールのどこかがラインにかかっていればいいわけだから。

私にとってはなんの議論の余地もない。テクノロジーのおかげで日本が助かったというより、ゲームの正当性が高まったというべきだ」

■「印象的な選手はいない」のワケ

ドイツ戦、スペイン戦で森保監督が見せた試合の流れに応じた采配には称賛の声が寄せられたドイツ戦、スペイン戦で森保監督が見せた試合の流れに応じた采配には称賛の声が寄せられた

グループリーグの3試合では2度のジャイアントキリングを見せたものの、コスタリカ戦を落とすなど、その戦いぶりは安定感を欠いた。〝第三国〟の記者の目にはどう映ったのか。

イギリス最大の発行部数を誇る大衆紙『ザ・サン』のマーティン・リプトン記者イギリス最大の発行部数を誇る大衆紙『ザ・サン』のマーティン・リプトン記者

「同じチームの戦いとはとても信じられなかった。勝利を期待されたコスタリカ戦は不安げで、厳しい戦いとなったドイツとスペインに対してはリードされても恐れずに逆転した。

もちろん、2試合とも内容的には負けていてもおかしくなかったけど、粘り強く戦い、相手が不安になるように仕向けた。どうして勝ったのかは説明がつかないが、結局は相手より多く点を取ったってことだ(笑)

前回のロシアW杯で日本は決勝トーナメント1回戦でベルギーに負けたけど、あの試合は勝ちにいった中での負けだった。今回は負けないように戦って勝った。その姿勢の変化が躍進につながったのでは」(イギリスの大衆紙『ザ・サン』チーフスポーツライターのマーティン・リプトン記者)

フランス最大のスポーツ紙『レキップ』のビンセント・ドゥルク記者フランス最大のスポーツ紙『レキップ』のビンセント・ドゥルク記者

「日本は非常に組織立ったチーム。エネルギーに満ちていて、よく走るし、自己犠牲の精神もある。まあ、フットボールはそんなにしていなかったけどね(笑)。

それは冗談として、私に言わせればスペインもボールを保持していただけで、それほどフットボールはしていなかった。奇妙なことに日本はボール保持率で圧倒的に下回りながらスペインにもドイツにも勝った。そのことは日本の質の高さを表してはいるけど、見ていて美しいか(スペクタクル)といえばそうではない。

日本が強いのはボールを持っていないとき。ゲームを支配したり、動かしたりする役割を負わなくていいときは強いんだ。ところが、自分たちが主導権を握る戦いは得意ではなくコスタリカには敗れた。

もちろん、すべてのことを理詰めで結論づけるのが正解とは思えないけど、日本はひとつの戦い方を持っていて、その戦い方は相手にとってとてもやりづらいということだろうね」(フランスの大手スポーツ紙『レキップ』のビンセント・ドゥルク記者)

ほかにもスタジアムで日本の試合を取材していた各国の記者からはこんな声が聞こえてきた。

イタリアの大手スポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』のファビオ・ビアンキ記者イタリアの大手スポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』のファビオ・ビアンキ記者

「日本は戦術的にさえていた。初戦のドイツ戦では、まず相手を疲れさせ、そこから一気に攻撃を仕掛けたり。かつて日本代表はイタリア人のザッケローニが率いていたが、そこからの進化も感じられた。

そのことについて大会中にザッケローニ本人にも話を聞いたけど、彼は『日本は勝利に値した』と言って日本代表の成長をうれしそうに喜んでいた。

残念ながら今回のW杯にイタリアはいないけど、私にとっては日本のプレーが新しい発見になったよ(笑)」(イタリアのスポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』のファビオ・ビアンキ記者)

オランダの一般紙『AD』のミコス・ゴウカ記者。「日本の躍進は驚きだった」と語るオランダの一般紙『AD』のミコス・ゴウカ記者。「日本の躍進は驚きだった」と語る

「カタールW杯はサプライズ続きの大会になっている。ドイツ、ベルギー、ウルグアイといった強豪国がグループリーグで敗退し、アジア勢はノーチャンスだと思っていたのに日本、韓国、オーストラリアの3ヵ国が決勝トーナメントに勝ち進んだ。

大会一番のサプライズは、序盤にサウジアラビアがアルゼンチンから勝利した一戦になると思うけど、日本の躍進も驚きだったといえる。日本にドイツやスペイン、アルゼンチンほどの一流選手はいないが、規律とコンディションのよさで乗り切ったね(オランダの一般紙『AD』のミコス・ゴウカ記者)

ちなみに、日本で印象に残った選手を聞くと、三笘、堂安といった名前がチラホラと挙がったものの、総じて次のような答えが聞かれた。

エストニアのサッカーサイト『サッカーネット』のハルベラ・オト記者エストニアのサッカーサイト『サッカーネット』のハルベラ・オト記者

日本で印象的だった選手? 誰もいない(笑)。だって、日本のよさはチーム力だろ。日本がいいときはチーム全員がいいプレーをしたとき。例えばブラジルならネイマールがいいプレーをすれば勝てることもあるが、日本は誰かひとりの力で勝つのは無理だよね。

スペイン戦の後、カタールW杯を観戦に来ていたエストニア出身の元力士、把瑠都(ばると)と会って話をしたんだけど、彼が言うには日本は強豪とやるときのほうがいいプレーをするって。グループリーグはまさにそんな展開だったね」(エストニアのサッカーサイト『サッカーネット』のハルベラ・オト記者)

フランスのラジオ局『RMC』のリポーターを務めるティアシン・アウレリアン記者フランスのラジオ局『RMC』のリポーターを務めるティアシン・アウレリアン記者

日本とほかのチームとの違いといえば、(特定の選手に頼るのではなく)スタメン11人と控えメンバーに差がないことじゃないかな。そこが日本の最大の強み。ドイツとスペインを破るなんて、日本は諦めることを知らない。

ドイツ戦なんて、前半で3-0とか4-0になっていてもおかしくなくて、日本には相当苦しい展開だったはず。ただ、できると信じて戦い続けた結果、まさかのグループ首位通過をしたわけだからね」(フランスのラジオ局『RMC』のリポーター、ティアシン・アウレリアン記者)

W杯には本大会に出場していない国を含め、世界中からさまざまなジャーナリストがやって来る。そんな中メディアセンターでひときわ目立っていたのが、ドレッドヘアにボブ・マーリーの顔がプリントされたド派手なシャツを着こなしていたエチオピアの日刊紙『Addis Admass』のギルム・セイフ・センベト記者

母国のW杯出場は果てしなく遠い夢だとしながらも、W杯がどんなものかを若い世代に伝えるのが自らの役目だという彼にとっても日本の戦いは驚きだったそう。

現場でひときわ目立っていたエチオピア『Addis Admass』紙のギルム・セイフ・センベト記者現場でひときわ目立っていたエチオピア『Addis Admass』紙のギルム・セイフ・センベト記者

日本はちょうど20年前にW杯を開催したけど、それがどれほどの強化につながるのかと思い知らされたよ。想像以上にレベルアップして、スピードあふれるサッカーをした。

エチオピアの有名な作家が書いた本で、日本がどれだけ文明化されているかは知っていたが、文明化はあらゆることによい効果をもたらす。フェアプレー精神、規律あるプレー......。サポーターでさえスタジアムを掃除しているんだからね」

■クロアチア戦後に指摘された課題

ベスト8進出をかけて臨んだクロアチア戦は、先制しながらも後半に同点に追いつかれるとそのままPK戦までもつれ込み、敗れた。

スタジアムで試合を取材していたベルギーの日刊紙『HLN』のニルス・ポイソニア記者はこう話す。

「日本はよく戦った。4年前はベルギーにあんな形(ロスタイムのカウンター)で負けて、今日もこういうシナリオになって気の毒に思う。延長戦での三笘のシュートなど、チャンスはあったのにね。

ただ、PK戦ではアイスコールド(とてつもなく冷静)な姿勢が必要で、クロアチアにはそれがあった。もしかしたら、日本はいいサッカーをするためにではなく、勝つために何が必要なのかを理解する必要があったのかもしれない」

動画配信サービス『DAZN』などの運営会社であるイギリスのパフォーム社のベン・スプラット記者は、日本の戦いぶりを称賛しながらも、こう指摘した。

「初戦のドイツ戦も取材したけど、内容的には今日のほうが素晴らしくチャンスも多くつくっていた。だから、どちらがいいチームかと聞かれたら日本と答えるかもしれない。

でも、疲れがあったのか最後はクロアチアを崩し切れず、2点目が遠かった。ドイツとスペインに勝っておきながら本当に不思議だけど、日本はカウンター以外の攻撃のオプションがほとんどないから格上のチームとのほうが戦いやすいのかもしれないね」

2026年のW杯はアメリカ・カナダ・メキシコの3ヵ国による共同開催。日本は今度こそベスト8に進出し、〝新しい景色〟を見られるか。

「特定の選手に頼らないのが日本」という声が多かったが、裏を返せばエース不在が今後の課題!?「特定の選手に頼らないのが日本」という声が多かったが、裏を返せばエース不在が今後の課題!?