長打力が特長の細川成也はDeNAから中日へ。2軍では2020年に最多本塁打のタイトルを獲得するなど活躍していただけに、1軍での奮起が期待される長打力が特長の細川成也はDeNAから中日へ。2軍では2020年に最多本塁打のタイトルを獲得するなど活躍していただけに、1軍での奮起が期待される

出場機会に恵まれない選手の移籍の活性化を図る「現役ドラフト」が、12月9日に開催された。球界初となる試みに対してさまざまな声が上がっていたが、成功といえる内容だったのか。

かつて大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)などで活躍し、現在は野球解説者や野球系YouTuberとしても活動する高木 豊氏に、現役ドラフトの総括を聞いた。

「今回指名された選手たちの名前を見ると、『ほかの球団に移ることでチャンスをもらえそうだな』という選手はいましたね。中日に指名された細川成也(DeNA)や広島に指名された戸根千明(巨人)あたりがそうです。

今年の中日は鵜飼航丞(こうすけ)を起用しようとしていましたが、守備が1軍レベルに達していません。それならば、パワーは細川のほうがあるだろうし、守備も鵜飼よりうまい。中日は外野手の登録人数がかなり多いので、出場できるかが心配ではあります。

ただ、中日に欠けている長打力がありますし、チャンスをつかめるといいですね。細川はDeNAで、まったくといっていいほどチャンスをもらえていませんでしたから」

一方、戸根が広島で活躍の場が広がると考える理由をこう語る。

「広島は中継ぎがウイークポイントなので、戸根はハマると思います。巨人は高梨雄平や大江竜聖、井上温大ら左腕がそろってきて出番が減る可能性がありましたが、広島ならばすぐにチャンスをもらえるはずです」

阪神は、選手層の厚いソフトバンクから左腕の大竹耕太郎を獲得。大竹は、ここ数年は登板数が減っているものの、2019年には17試合に登板し、5勝(4敗)を挙げるなど一定の実績がある。

「大竹は活躍できると思います。ソフトバンクは球威のある投手を起用する傾向があって、のらりくらりとかわしていく技巧派の大竹はあまり使われませんでしたが、試合をつくる力がある。

チームに欲しかった左腕ですし、阪神はいい補強をしましたね。岡田彰布監督が同じ早稲田大学というつながりもありますし、チャンスを与えると思います。

阪神には同じ左腕で伊藤将司がいますが、伊藤は球威がそれほどなくても勝てる。大竹も同じタイプのピッチャーですし、セ・リーグに環境を移したことで活躍できる可能性は十分にあると思います」

巨人は楽天からオコエ瑠偉を獲得。関東一高時代に甲子園を沸かせたスターも、プロ入り後は伸び悩んでいた。チーム、リーグも変わったことがどう影響するのか。

「オコエはバッティングに非凡なものを感じますが、なかなか開花する気配がありません。ただ、身体能力を生かした走塁や守備が魅力なので、原 辰徳監督が試合後半に1点を取りにいく野球を仕掛ける際、重宝される可能性はあります。

外野守備兼走塁コーチに鈴木尚広が就任しましたが、足のスペシャリストだった彼からの指導を受けたら面白い存在になりそうです。

巨人の外野は丸 佳浩や(アダム・)ウォーカー、長野久義も戻ってきましたし、そこへ割って入っていけるのかが懸念する点です。ウォーカーに関しては守備固めが必要なので、オコエの足を生かした守備が求められるかもしれませんね」

他球団でチャンスが広がりそうな選手が何人かいたことについて、高木氏は現役ドラフトを「実施する価値はあった」と評価しながらも、「改善の余地がある」とも指摘した。

「細川や戸根、オコエ、大竹らはある程度知られていると思いますが、『えっ、こんな選手もいたの?』という選手も指名候補にリストアップされていた。その球団のファンでなければ知らないような選手が、ほかの球団に移ったところでチャンスをもらえるのかは疑問です。

これまで活躍できていなくても、ある程度は名前が知られていて、『あぁ、あの選手があの球団に行くんだ。新天地で活躍できるかもしれないな』とファンが思えるような選手をひとりでも多くリストに載せるべきです。

『うちはこの選手は必要ないから出すよ』といったスタンスで臨むような球団が多くなると、現役ドラフトをやる意味はあまりない。ある程度の実績があって名前が知られている選手を出せない球団は、現役ドラフトに参加しないほうがいいと思います」

移籍することでチャンスが広がりそうな選手がいる一方、そうではない選手も見受けられたと言う高木氏は、独自の表現で結果を総括した。

「指名された選手は3つに分類できます。まあまあチャンスをもらえそうな選手、どっちに転ぶかわからない選手、移籍しても状況は変わらなそうな選手です。実施前は、チャンスが広がりそうな選手は少ないんじゃないかと心配していたので、ふたを開けてみたら3分の1はいたのはよかった。

ただ、今回は1回目ですから手探りの部分が多かったと思いますし、この1回で成功・失敗を判断することはできません。1回目の反省を2回目に生かし、2回目の反省を3回目に生かすというように、3回くらいはやらないと判断材料がない。

それでうまくいかないような結果が続くのであれば、やめてしまったほうがいいと思いますし、代わりに『12球団合同トレード』をしたほうがいいんじゃないかと思います。仰々しく『現役ドラフト』と銘打って行なうのではなく、『こういう選手をトレードで出せますよ』と各球団間で内密に情報交換して進めればいい。

出せる選手がいなければ出す必要はなく、獲(と)りたい選手がいなければ獲らなくていいわけです。結果論ですが、細川と笠原祥太郎(中日→DeNA)は、両球団にとってトレードと同じでしたしね。

いずれにせよ、ひとりでも多くの選手にチャンスが与えられるような制度になっていくことを期待しています」