カタールワールドカップをフカボリ!カタールワールドカップをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第48回目のテーマは、カタール・ワールドカップの空気感について。アルゼンチン代表の優勝で幕を閉じたカタールW杯。そんな大会を現地に滞在して見た福西崇史が感じたものとは?

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カタール・ワールドカップは日本代表の活躍もあって、日本国内でも盛り上がりを見せましたよね。開幕前は「W杯優勝経験のあるドイツとスペインの2カ国に負けて予選敗退したらどうしよう」と心配していましたが、杞憂に終わりました。本当によかったなと思いますし、今回のワールドカップをキッカケにもっと多くの人たちが日常的にサッカーを楽しんでくれることを願っています。

ボクは今回のワールドカップでは、開幕から5日間ほどを現地に滞在することができました。NHKでテレビ解説を担当した日本代表のドイツ戦をふくめて、7試合をスタジアムで観戦したのですが、現地で過ごした時間や解説の準備で拘束される時間などを考えると、滞在期間内でたくさん観られたほうだと思います。

理想を言えばブラジル・ワールドカップのときのように開幕から決勝戦まで現地に滞在して、どっぷりワールドカップに浸りたかったですよね。ただ、短い期間ながらも、カタールならではのワールドカップにも触れることができたかなと思います。

カタールにはこれまで何度も訪れたことがあるのですが、やっぱりワールドカップとなると雰囲気は別物でした。それに過去のワールドカップと比べても、小さな国土ならではの違いというものもありましたよ。

それは開催都市でいろんな国の代表ユニフォームを着たサポーターたちに出会えたこと。世界中からサッカーファンが集まるワールドカップなんだから当たり前だろ、と思われるかもしれませんね。でも、実は過去のワールドカップでは一都市に多国籍のユニフォーム姿のサポーターが集まるのは稀なことなんです。

なぜなら、これまでの開催国は国土が大きかったから。前回のロシア大会、前々回のブラジル大会をはじめほとんどのワールドカップは、グループステージの試合が行われるスタジアムがある開催都市の距離は遠く離れていました。そのため開催都市にいる人のほとんどは、試合を控えた2カ国の応援サポーター。だから、町中で見かける代表ユニフォームも、その2カ国のものが圧倒的に多かったわけです。

でも、今回のカタールは開催都市間の移動距離が短く済むため、移動に費やす時間をかけなくていい。このため試合がない国のサポーターたちも町にいたので、いろんな国のサッカーファン同士の交流がそこかしこで生まれていました。

ボクも町を歩いていると、日本代表の躍動もあったので、いろんな国のサポーターから「日本スゴイね!」といった声をかけられました。やっぱり自分の国がいい試合をして、他国にサポーターに認められるっていうのは気持ちがいいものです。

カタールの気温は、日中に陽なたで30度くらいあったのでTシャツ1枚で過ごせたのですが、日陰の場所だったり、夜になったりするとすごく涼しかったですね。スタジアムのなかは冷房が効いていたので、選手たちは快適にプレーできたようですが、観戦には寒すぎるくらいでした。

ボクはあまりに寒くて、持っていった羽織りものを3枚重ねて観ていました。ただ、その寒さを忘れ去るくらい熱くて素晴らしいゲームを日本代表は見せてくれましたね。

あと、開幕直前になって観戦者向けのビールの販売が禁止になったことが話題になりましたが、やっぱりあの涼しさのなかでもビールを飲みたくなるんですね。スタジアム周辺をふくめた公共の場でのアルコールの飲酒は禁じられていましたが、飲もうと思えば飲む場所もあるので、夜に歩くと活気に満ちたサポーターの声が響いていましたよ。

サッカーのプレー面に関していえば、スタジアムの環境は空調などによって整っていたと思います。でも、残念だったのは、欧州各国の選手たちがリーグ戦やUEFAチャンピオンズリーグで疲弊していたことですよね。

シーズンを中断してタイトなスケジュールが組まれていたことで、強豪国ほどコンディション面で苦戦を強いられた印象でした。イングランドやドイツの選手たちなど、試合中盤でヒザに手をついて肩で息を整えているくらいでしたから。

アジア勢は日本代表のほかに、韓国代表、オーストラリア代表が決勝トーナメントに進み、サウジアラビアはグループステージ初戦でアルゼンチンから大金星をあげました。モロッコ代表はベスト4になり、チュニジア代表はグループステージでフランス代表に勝利しました。

今回のワールドカップでは、各大陸のレベルが近づいた印象を残したわけですが、ヨーロッパ勢のコンディションが果たしてベストに近い状態だったかというと、そこは懐疑的にならざるを得ない部分でもあります。

通例のワールドカップのようにしっかり準備期間を設けたなかで戦い、そのうえで同じような結果を残したときに、真の意味での各大陸のレベル差は縮まったと言っていいのかなと思いますね。

もうひとつ残念だったのが、カタールのサポーターでした。開幕戦でエクアドル代表と戦って0-2で敗れましたが、カタール・サポーターが試合終了前から次々と席を立って帰路につく姿は悲しかったですね。

ボクは開催国としてワールドカップのピッチに立つ重圧を2002年日韓大会で経験しているのでわかるのですが、やっぱり選手が最後まで戦っているうちはサポーターも一緒になってスタンドで最後まで応援してもらいたかったですよね。

開催国としてワールドカップ初出場を果たしたのは、今回のカタールが初めてなんですね。94年アメリカ大会のときのアメリカ代表は、1990年イタリア大会で初出場していましたし、日本代表も1998年フランス大会で初出場を決めて、自国開催を迎えたわけです。

やっぱり予選を突破した経験がないまま、開催国枠として予選を免除されて強化に励んでも、本当の意味でプレッシャーのかかる試合では力を出せなくなるのだなと思いましたね。

その点で言えば、次回の2026年にアメリカ、メキシコとともに開催国になっているカナダは、今回のカタールワールドカップに出場しました。3戦3敗という結果でしたが、彼にとってこの大舞台での経験は4年後へとつながっていくことでしょうね。

次回は3カ国での共催ですからね。出場国が48カ国へと拡大されるとはいえ、カナダ、アメリカ、メキシコは広くて遠いですから、果たして現地に行ってハシゴして何試合を観られるのでしょうね。

いずれにしろ、これまでの流れとは別物の大会になるのかなと予想していますし、一区切りとなる大会を短い日数とはいえ、この目と肌でしっかり感じられたことは、サッカー人として今後の糧にしていきたいですね。

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