ワールドカップについて語った宮澤ミシェル ワールドカップについて語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第277回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、カタール・ワールドカップを振り返って。ドイツとスペインに勝利し、決勝トーナメントに進出するなど、日本代表が躍動した本大会を宮澤ミシェルが振り返る。

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今年の日本サッカー界を振り返ると、やっぱりカタール・ワールドカップでの日本代表の躍動につきるんじゃないか。

グループステージの組み合わせが決まった直後は「運がねぇなー」とガッカリしたのは事実なんだけど、こうしてW杯が終わってみると日本代表はグループの対戦相手に恵まれた面もあったなと感じるんだよな。

ドイツ、スペインというW杯優勝経験国と同じグループになったことで、日本代表は否応なく戦う集団になれたように思うよ。開き直りもあっただろうけど、それ以上にポジティブなメンタリティーで「やってやる!」と、チームが同じ方向を見れたように感じたね。

選手たちをそうした気持ちに持っていったのが、森保(一)監督のチームづくりの成果だよ。監督と選手が厚い信頼関係を築く。これはサッカーに限った話ではないけれど、やっぱりリーダーと選手たちが一緒に戦っていくためには、これがベースにないとダメってことだよな。

W杯アジア最終予選では苦しい滑り出しになって、森保監督への批判も噴出したし、頼りなく感じたシーンもあった。だけど、森保監督はブレなかった。選手を信頼してピッチに送り出すという点において。それがW杯でもよく表れていたね。

W杯が開幕する前には、「戦術・伊東純也」とか「戦術・三笘」とかって言葉がひとり歩きして、「森保監督には戦術がないのでは」と揶揄されたりしてさ。それがW杯では掌返しだよ。

グループステージのドイツ戦の後半から3-4-2-1のフォーメーションに変更して、交代カードもズバズバと的中させたし、スペイン戦もそうだったよな。選手たちの提案を受けてスリーバックにしたという報道もあったけれど、忘れてもらいたくないのは、森保監督がサンフレッチェ広島時代にオハコにしていたフォーメーションは3-4-2-1ってこと。

選手たちが提案しても、監督がそのフォーメーションを使い慣れてなかったら、あそこまで機能したかは怪しいところだよ。選手たちがヤル気を見せたときに、そこで各選手の役割をしっかり整理して送り出す。それが森保監督の仕事の進め方だから、表には伝わりにくいんだよ。

でもまあ、森保監督にしたら、「手柄は選手たちのもの、ミスは監督のもの」っていうスタンスだから、監督自身の仕事内容は世間に伝わらなくていいと思っている部分もあるだろうね。

ただ、選手たちも馬鹿じゃないからさ。そういう監督のもとだから、意気に感じてあれだけのパフォーマンスを発揮できたってのはあるよ。戦術がどうの、フォーメーションがどうのっていうのは、試合だけのことだからね。いわば氷山の一角。監督の仕事っていうのは、その試合に向かうまでのチームづくりのところが大部分。そこは表に出てこないところだけれど、もっとも肝心なんだってことを思い出させてくれたよな。

グループステージではドイツ代表とスペイン代表に勝って、グループ首位で決勝トーナメントに進出したけど、今回もベスト16の壁を超えられなかった。目標にしてきたベスト8以上という結果は手にできなかったことは忘れちゃいけない。

でもさ、大会直前まで守田英正と板倉滉、浅野拓磨はケガで実戦から離れていて、冨安健洋や酒井宏樹は故障でフルに使えないうえに、久保建英を発熱でクロアチア戦で欠いたりしてさ。どの試合も櫛の歯が欠けたようなメンバー構成でやりくりした手腕は見逃せないよな。

それでも、ドイツ戦での逆転劇は出来すぎだった気はするけどね(笑)。それからクロアチア戦。あの試合にドイツ戦と同じように久保が先発していれば、ボールポゼッションはもう少し高くできた気はするんだよな。そうしたら鎌田(大地)が後半であそこまで疲弊することはなかっただろうし、相手の前への出足は止められたような気はしてさ。

ただ、そこが世界ベスト8の課題でもあるよな。スピードは世界で通用することは証明できた。身長をふくめたフィジカル面の課題はまだあるけれど、以前よりも埋まってきた。CBの弾き返す力だって、世界トップレベルの肩は見えている。だからこそ、堅守速攻なんだけど、相手との力関係のなかではボールを保持して戦えるようになることが必要なんだろうな。

ボールポゼッションばかりやれっていうことじゃなくてさ。ベスト8以上に勝ち進んだチームは、どこも両方できるんだよ。日本代表だってアジアでの戦いではボール支配率が高くなるけれど、強豪国相手でも試合のなかでボールを保持して、相手を押し込む時間帯をつくれるようにするのが、まだ見ぬ景色にたどり着くには必要なんだろうね。

そうした課題も見えたなかで、日本代表監督は森保さんの続投が決まったね。私は続投に賛成だよ! 日本代表がこれまで積み上げてきたものや、足りなかったものを一番わかっている監督だからね。新たな監督を迎えるとゼロからのスタートになるけれど、森保監督が続投すればカタールW杯までにつくりあげたグループをベースにして始動できる。そのタイムラグがないのは大きなメリットだよ。

いずれにしろ、来年以降の日本代表がどうなっていくかの楽しみや期待感にあふれている年末は、久しぶりな気がするよ。去年の年末はW杯アジア最終予選の真っ只中でヤキモチした気持ちで迎えたし、今年の春先は「今年の年末は暗い気持ちで過ごすんだろうな」って思っていたからね。でも、実際はこうして清々しい気持ちでいられる。森保監督や日本代表選手たち、チーム関係者みんなのお陰だよ。感謝していますよ!

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