今年も1年を締めくくる日がやってきました。2022年はどんな年でしたか? 悲喜こもごも、今年もきっと色々なことが皆さんの身に訪れたことでしょう。

大晦日は、野球でいうところの9回のマウンド。皆さんがきっちり最後の3アウトをとって、「終わりよければすべてよし」と言える素敵な1日になることを願っている、野球大好き山本萩子です。今年も1年、お疲れさまでした。

さて9回のマウンドといえば、一般的には3点差以内のリードであればクローザーが送られます。クローザーを含め、7回以降の3イニングに登板し、リードを守ってチームを白星に導く投手たちは「勝利の方程式」と呼ばれます。

彼らが登板する機会はおおむね固定されていて、それ以外の投手は試合状況や前後の登板間隔などにより、ブルペンに待機している投手から決まります。

最終的に投手を送り出すのはもちろん監督。ですが、その運用の大部分を担っているのが「投手コーチ」です。

私にとって今年最も大きなニュースは、担当番組で4年間、平日は毎日のように顔を合わせ、ともに番組を盛り上げてきた相方・黒木知宏さんが、千葉ロッテマリーンズの1軍投手コーチに就任されたこと。「あの"ジョニー黒木"がマリンに帰ってくる!」と思わず小躍りした野球ファンの方も多いのではないでしょうか。

闘志あふれる熱いマウンド捌きと同様の熱血漢であり、宮崎訛りでつむがれる丁寧な言葉から感じられる優しさも兼ね備えた人格者ですから、長くファンに愛され続けてきました。今までのようにお会いできなくなるのは、正直寂しい気持ちでいっぱい。

そんな黒木さんとは顔を合わせるたび、たくさんお話をしてきたわけで、仕事、家族、美味しかったご飯やお酒のこと......(笑)。そのなかでもやはり一番思い出に残っているのは、日本ハムでも5年間務めた黒木さんの投手コーチとしての経験にまつわるお話でした。

ということで今日は、私がジョニー黒木さんに仕込まれし"投手コーチの流儀"について、可能な限りお話していきたいと思います。

投手コーチの仕事と聞いてまずどんなことが思いつくでしょう。基本的に投手コーチは各チームに2人ずついて、試合中はベンチとブルペンに別れています。投手の育成という大きな役割があるのは想像できるけれど、私たちが投手コーチを実際に目にするのは、テレビ中継でベンチからブルペンに連絡する姿や、投手がピンチを招いたときにマウンドへ行く姿しかありません。

けれど、投手コーチの仕事の大部分は試合の外で行われています。

まず驚いたのは、コーチ陣は試合が行われる日は必ずと言っていいほど誰よりも早く球場に入り、誰よりも遅く帰路につくということ。業務内容は、想像以上に多岐にわたるようです。

練習に参加するのはもちろん、デスクワークも多くあります。投手の登板間隔や球数の管理をはじめ、監督や他のコーチとの情報共有。2軍の監督や投手コーチとの連絡も怠りません。1軍登板を控えている先発投手がファームにいれば、ローテーションを調整します。今は莫大な種類のデータを扱うプロ野球ですから、計算ソフトなどを使って投手の情報を管理していたそう。

そして、何より敬服したのはその鋭い観察眼です。私のメイクやネイルが少し変わるだけでもすぐに「今日、何か違う?」と、まるで理想の彼氏さながらに声をかけてくれた黒木さん(笑)。その本領はもちろん、野球において最も発揮されます。

解説者としてスタジオにいるときも、「投手のトップの腕の位置が少し低くなった」「打者の構えがほんの少しオープンスタンスになった」など、いくつもの小さな変化に気づかれるのですが、この鋭い観察眼は投手コーチ時代に培われた部分が大きかったようです。

黒木さん曰く、「大切なのは俯瞰で見ること」。細かい部分にフォーカスしすぎるのではなく、あえてぼんやりと全体を見ることでこそ、気がつく変化があるのだとか。これは野球に限らず私たちの日常生活においても、観察力を身につける上で重要なヒントとなりそう。

変化に気づいたならば、すぐに投手本人に伝えます。コーチと選手という関係である以前に、人間同士であるのが重要なところ。相手の性格や、そのときの精神状態を見極めながら慎重に言葉をつむがなければいけません。

良いことも悪いことも伝えなければいけないのは、時には辛い役回りとなることだってあるでしょう。技術的なことはもちろんですが、人としての成長を促すことも大きな役割なんだとか。

また、リリーフが準備するブルペンは、「ひとつのチーム」であるという認識も大切なんですって。観察し、育て、まとめて、絆を作り上げる......。投手コーチには、学校の担任の先生のような役割も求められるのかもしれません。

さらに、これらのタスクを日々の成果を求められるなかで同時に遂行しなければいけないのが大変なところですよね。リリーフが登板するタイミングは試合が大きく動く重要なところですから、登板した投手が打たれれば、不服を言うファンもいるでしょう。

投手起用で大切なのは、「投手のタイプ」なんだとか。例えば、速球派の先発投手なら、次にリリーフする投手は変則ピッチャー。あえて真逆の特徴を持った投手を続けて起用することで、打者を惑わす効果があるようです。だからこそ、ブルペンにはバリエーション豊かな投手が必要なのでしょう。

これはリリーフだけでなく、先発ローテーションにおいても言えます。同じチームとの3連戦なら、初戦は右の本格派、1戦目は左の技巧派、3戦目はまた本格派と、打者が同じタイプの球に見慣れるのを防ぐために、投手起用を工夫します。

こんなふうに投手コーチの目線で起用を考えながら野球を見るのも楽しいかもしれません。こんなに極意をバラしてしまって、大丈夫かしら(笑)。

2022年もお疲れさまでした。来年も皆さんにとって素敵な1年になりますように! 2022年もお疲れさまでした。来年も皆さんにとって素敵な1年になりますように!

「野球は投手」という表現をよく耳にします。幼い頃は特大ホームランなど華やかなバッティングに目を奪われがちだった私ですが、だんだんとその言葉の意味が理解できるようになってきました。確かに、投手力はチーム力に直結すると言っても過言ではありません。

それほど重要なポジションである投手を育成・管理・運用し、日々行われる試合で結果を出し続けなければいけない投手コーチは責任重大です。黒木さんもストレスで身体を壊した経験もあるそうで、投手コーチがどれだけ重責を担う役割かわかります。

黒木さんは、それほど大変なお仕事に古巣ロッテでもう一度チャレンジしようと決意されたわけですが、就任時「選手が輝ける環境づくりを目指したい」とお話しされていたその目には、"ジョニー黒木"らしい情熱と高揚感が宿っていました。球界の未来を担う大投手、佐々木朗希投手をはじめ、黒木さんがどんなふうに投手たちを輝かせていくのか。胸を膨らませながら、そしてぜひ長く温かい目で見届けたいですね。

さて、私にとって今年起きた大きな出来事はもうひとつあって、それはこの連載がスタートしたことです。読者の方から「連載を読んで、野球への情熱を思い出している」と言っていただけたのが本当に嬉しかったです。来年もこの連載で野球愛と変態ぶり(笑)を発揮して、皆さんと一緒にビールを飲みながら熱い野球談義をしている気分を味わいたいな。

それではよいお年をお迎えください。また来年!

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!