W杯という夢舞台で誰よりも輝きを放った、堂安 律(どうあん・りつ)。あまたの逆境を乗り越え、有言実行で夢をつかんだ男が紡ぐ、激闘録。
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■夢のような2、3週間。W杯のファンになった
初めてのW杯は夢の世界でしたね。楽しかったし、夢を生きていた。あまり実感が湧かないというか、少しふわふわした状態で2、3週間を過ごしていました。
小さい頃から憧れた舞台でしたけど、想像の2倍も3倍もすごかったです。これだからサッカーはやめられない。この大会を通して、W杯のファンになりました。
今までサッカーをやってきた中で感じたことがないほどアドレナリンが出っ放しでした。次の試合まで中3日しかないから、しっかりリカバリーしなきゃいけないのに、全然寝られなかったです。
そして、何よりも本当に素晴らしいチームでした。年上の選手が率先して水を持ってきてくれたり、スタメン組じゃなくても自分が感じたことをアドバイスしてくれたり。僕もベンチスタートの試合があったけど、献身的な先輩たちの姿を見習って、自分なりにチームのためにやるべきことをやれました。
■サッカーの神様が「いいよ」と言ってくれた気がした
初戦のドイツ戦では、俺しかいないと思ってピッチに入りました。ゴールを決めた瞬間、ホッとしたというか、報われたというか、今までやってきたことは間違ってなかったんだと思えましたね。
ごっつぁんゴールに見えるけど、自分のキャリアの中で間違いなくベストゴールです。これまで試合でうまくいかないこともあったけど、練習は嘘をつかないなと実感できました。W杯で自信に変わりました。
(南野)拓実くんがシュート性のクロスを上げるときに、(浅野)拓磨くんが先に前に入ってきて。そうなるとこぼれ球が転がってくるのは中だなと思って、ポジションを取り直しました。
(三笘)薫くんがボールを持ったら、間違いなく突破すると信じているので、迷いなく自分がフィニッシャーになれるポジションを取れるように常に嗅覚を研ぎ澄ませながら、準備していました。
あのタイミングであそこにボールが転がってくるという運を引き寄せることができたのは、これまでの頑張りがあったから。サッカーの神様が「いいよ」と言ってくれたような気がしました。
スペイン戦では、東京五輪のリベンジを果たせました。後半頭からピッチに立ったけど、近くにいた薫くんとか東京五輪世代の選手を集めて、「同じ相手に何回も負けてられない。やるしかない」と伝えました。
あの同点弾はザ・堂安 律のコースでした。右サイドの斜め45度のあそこは俺のコースだし、世界で一番練習していますから。W杯のピッチに立っている自分を目を閉じてリアルにイメージしながら、緊張感を高めて打ち込んでいました。だからこそ、目をつぶっても決められる自信があるんです。
あのシーンではトラップがうまくいって、横ではなく後ろにボールを置けたし、さまざまなオプションを持ちながらボールを持つことができました。シュートスピードのことをよく言われるけど、正直、インパクトの瞬間の感触はそこまでだったんですよね。
最初はファーを狙おうと思ったけど、蹴る瞬間、直感的に腰をひねってニアに打ち抜いたんです。だから、決していいコースではなかったけど、GKの反応が遅れたんだと思います。
■最後までピッチにいてPKを蹴りたかった
今大会を改めて振り返ると、まさかコスタリカに負けて、ドイツとスペインに勝つとは、自分たちも正直思っていなかったです。
いろんな人から「ありがとう」と連絡をもらえてうれしかったし、「ドラマや映画よりも劇的で、まるで『キャプテン翼』の世界だよ」と言われて誇らしかったですね。
サッカー選手はエンターテイナーですから。今回のW杯で国民の皆さんにサッカーやスポーツの素晴らしさを伝えられたという意味では、ノルマを達成できたとは思います。
でも、結局、ベスト16で負けてしまって。クロアチア戦の失点は真後ろで見ていたので、今でも頭に焼きついています。クロスからの失点はスペイン戦でもありました。試合前には「やれることは全部やった」と思っていたけど、試合後は「もっとやれた」という気持ちが強いです。
PKは見ていられなかったですね。蹴ることができるのは最後までピッチに立っていた選手だけなので。すごくふがいなかったし、チームに何も貢献できない無力さや怒りを感じました。やっぱり蹴りたかったですね......。
ただ、これが今の日本代表と堂安律の実力。必然の結果です。上には上がいることを思い知らされた大会でした。
日本に帰国してから、温かいメッセージをたくさんもらったけど、それでもまだ悔しい気持ちのほうが強くて。もっと素晴らしい景色を見せられたら......と申し訳ない気持ちになりました。僕たち選手は国民の皆さんの温かい言葉に甘んじたらダメだし、自分たちに厳しく、常に上を目指さなきゃいけないと思います。
■吉田麻也と長友佑都から盗んだもの、学んだもの
そして、この大会ではベテランの選手から、たくさんのことを学びました。
(吉田)麻也くんは存在感や言動でチームに一番影響を与える選手だし、誰もが認める絶対的な中心。おちゃめで親しみやすいけど、これほど空気が読めて、周りが見えて、監督と選手の間に入れる人に会ったことがなかった。いいものを盗めたと思います。
(長友)佑都くんからもたくさん学ばせてもらいました。代表では3年10ヵ月もゴールから遠ざかっていて、自分で自分を疑いたくなったのに、彼だけは本当にずっと言い続けてくれていた。「律、絶対決められるから」って。
だからこそ、スペイン戦後のロッカールームで「おまえ、すごいぞ!」と言ってくれたあのシーンはうれしかったですね。
■日本を引っ張るのは俺しかいない
これからは日本代表の絶対的な中心でいたいです。エースとして、リーダーとして、日本を引っ張って突き進んでいかなきゃいけないと思っています。
もしキャプテンをやってくれと言われたら......喜んでやりますね。でも、それはチームが決めることなので。キャプテンだろうがなかろうが、自分が引っ張るつもりでやりたいです。まあ、麻也くんに「おまえはできないだろ」と言われるかもしれないけど(笑)。
でも、これからの日本代表を引っ張っていくのは俺しかいない、と本気で思っているので。日本代表を背負えるのは俺しかいないし、これ以上の景色を見るためなら、どれだけつらくてもいいと思える覚悟ができました。
自分は麻也くんや佑都くんにはなれないけど、彼らのチームに対する影響力とか、国民に対する恩返しの気持ちとか、そういうものは間近で見てきたので。SAMURAI BLUEのDNAをしっかりと受け継ぎ、残していかないと。
1年後にはアジア杯、1年半後にはパリ五輪、3年半後にはW杯があります。自分が優勝できなかったすべての大会でリベンジしたいです。
2026年W杯はもちろん優勝が目標。今大会はベスト16で負けてしまい、悔しさ、無力さといったマイナスの感情がこれだけ湧き出てきたのは初めてだったし、もう二度とあんな思いはしたくない。
最後まで最高の大会だと思えるのは優勝した1ヵ国だけです。優勝するチーム以外、憎い大会だと思って去っていきます。今大会の決勝で敗れたフランスもそう。優勝しない限りはスッキリした気持ちで日本に帰国できないし、それを追い求めるのはつらい道のりだと思うけど、やるしかないです。
日本国民全員が認める絶対的で圧倒的な日本代表の中心に、俺はなります。
●堂安 律(どうあん・りつ)
1998年6月16日生まれ、兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪、FCフローニンゲン(エールディビジ)、PSVアイントホーフェンを経て、2020年9月にアルミニア・ビーレフェルト(ブンデスリーガ)へ期限付き移籍。21年は再びPSVアイントホーフェンでプレーし、22年7月にSCフライブルクへ完全移籍。18年9月からサッカー日本代表としても活躍中