矢野燿大監督の4年間が終わり、満を持して阪神の監督に就任したのが2008年以来となる岡田彰布(おかだ・あきのぶ)氏だ。05年には強力リリーフ陣〝JFK〟を確立しリーグ制覇。今回、それ以来となる優勝を託されたわけだが、果たして岡田監督はどのようにしてV奪回を狙うのか。阪神のレジェンドOBである江夏 豊(えなつ・ゆたか)氏にすべてを語った。
(この記事は、1月4日発売の『週刊プレイボーイ3・4合併号』に掲載されたものです)
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■15年ぶりに阪神監督復帰の訳
江夏 何歳になった?
岡田 もう65です。
江夏 65......。あなたもオッサンになったな(笑)。
岡田 ハッハッハ(笑)。
江夏 12球団の監督で最年長になるんだよな。
岡田 はい。原(辰徳)が1歳下ですからね。
江夏 タツが1歳下か。彼は長いこと監督をやっているけど、今回タイガースのユニフォームを着るのは何年ぶりになる?
岡田 15年ぶりです。
江夏 それだけ長い年月が過ぎて「よし、もう一度タイガースに」と決めた理由は?
岡田 それこそ年齢的にも最後、もう1回ぐらいというのがあったし。オリックスの監督を辞めてから11年なんですけど、タイミングが合ってユニフォーム着るんだったらタイガースというのもあったし。そこでたまたま、話もらいましたんでね。
江夏 発表があったときは一瞬「ええっ?」と思ったよ。で、これまでネット裏から見てきて、特に阪神の試合はよく見たと思うけど、どうだ? おととしだったか、あなたは「今の阪神は誰が監督しても勝てる」と言っとったけど(笑)。
岡田 フフッ(笑)。いや、この何年間は「なんで勝てないんだろう」というのはありましたね。戦力的にも、ピッチャーにしろ、野手にしろ、27、28歳ぐらいの選手が主力で、若い選手もけっこういて。一番いいときじゃないですかね。だからなんで......と。
江夏 勝てないほうがおかしいと。
岡田 ええ。去年も僕は阪神を優勝候補にしましたから。
江夏 じゃあ、今年、2023年はどうだ。
岡田 ああ、今年は......。
江夏 フッフッフ(笑)。
岡田 いや、秋のキャンプを1ヵ月やっただけですけど、確かにいい選手がいますし、まだまだこれから伸びる若い選手もけっこういます。それを1ヵ月で発見しました。
江夏 外から見ているときと違って、思った以上にいい選手が多かったと?
岡田 多かったですね。
江夏 それは楽しみだよな。だったら、極端に言やあ、助っ人はいらんじゃない?
岡田 助っ人は一応......(笑)。新外国人はピッチャーふたり、バッターふたり。それで後ろで投げていたケラーだけ残しまして全部で5人になります。でも、去年なんか8人ですよ。
江夏 多かったよなあ。
岡田 だから今年は5人で。ただ、5人全部使うつもりはないですけどね。外国人を使うと、若い選手のポジションがなくなってしまいますから。
江夏 確かに、日本人選手の出る幕が少なくなるよな。それは特に打つほうで?
岡田 打つほうは、使うにしてもひとりです。今、外国人で考えているのはレフトのポジションだけですね。
江夏 なかなか空いているポジションは少ないよな。
岡田 空いているのは外野だけですね。内野はある程度、固定しようと思うんで。ただ、外国人はキャンプで見てからじゃないとわからないんで、まだ決められないです。日本人の外野手で、力があるのに全然使われなかったという選手もいますから。
■リリーフ陣もローテーションで
江夏 投げるほうで言えば、あなたは前回の監督時代、ジェフ・ウィリアムス、藤川(球児)、久保田(智之)による〝JFK〟という勝ちパターンをつくった。リリーフの分野に素晴らしい光を当てたわけだけど、今年の場合、当時よりもピッチャーの質はいいと思うんだよ。
岡田 それは間違いないです。それに人数もけっこういるんですよ。だから5人ぐらいで回していこうかなと。僕は前回のとき、藤川に10連投とかさせましたけど、今はそんなことやったら大変でしょ(笑)。10連投どころか、3連投したら怒られますから。「2連投したら休ませろ」って言われるでしょ?
江夏 指導者にとっては難しい時代になったよな。
岡田 だから、リリーフ陣もローテーションつくらんとあかんような使い方ですね。
江夏 そうそう。そうやってうまく回していかないと。
岡田 でも江夏さんの現役のときは、後ろで連投してたでしょ? 5、6連投はしたでしょ? 勝ってたら。
江夏 最高で7つか8つまでやったのは覚えてる。
岡田 そうですよねえ。やっぱ、勝ってたら投げますよね。特にクローザーは。
江夏 投げたい、という気持ちはあったよ。
岡田 それは絶対に勝ちたいですからね。
江夏 勝つためにやってんだからね。でも今はそういう厳しい使い方じゃなしに、豊富なリリーフ陣のローテーションでいくということだよな。
岡田 そうですね。考えりゃ、やっぱり、勝ちパターンのピッチャーが最低5人ぐらいは必要になります。5人いて、ふたり休ますとか。
江夏 質、量、両方が必要になる。自分は阪神のリリーフ陣はその条件を満たしてると思うけど、あなたの目から見ても選手の粒はそろっている?
岡田 そろってますね。
江夏 その中で特に、名前を挙げるとしたら?
岡田 湯浅(京己)と浜地(真澄)です。ふたりとも前の年までほとんど勝敗なしだったのが、去年ブレイクして。
江夏 両投手とも、球が速い、という武器があるわな。
岡田 ええ。その若いふたりがね、去年と違って自信つけたのは確かですから。そういう意味で、ある程度、湯浅と浜地も計算できるかなと思うと、5人、6人はなんとかやりくりできそうな感じがしますね。
江夏 勝ちパターンで5人、6人そろったら強いよな。
岡田 そうですね。
■岡田監督が警戒するライバル球団は?
江夏 で、打つほうはどうなの? 4番は決まった?
岡田 4番はまだわからないです。大山(悠輔)か、佐藤(輝明)か。秋のキャンプで見た限り、大山は確かに良くなりました。今年は絶対に活躍すると思いますけど、あとは佐藤がどうなるか。
江夏 大山はファーストか。
岡田 ファーストです。佐藤はサードで。ポジションを固定するつもりでいるんです。
江夏 そのへんは本人たちも理解している?
岡田 もう伝えてます。
江夏 ファーストに大山、サードに佐藤、新しい形だよな。去年もちょこちょこその形を見せていたけど、固定はされていなかったから。
岡田 やっぱり、クリーンナップを打つ主軸が外野に行ったり、内野に行ったりね......あんまりコロコロ変わるといいことないと思うんですね。しっかり打つほうに専念させてやらないといけない。
江夏 そのへんが指導者、監督のちょっとした愛情というか、思いやりだよな。打つ人は打つことに専念させるということは大事なこと。それと、攻撃のほうでは打つだけじゃなしに、特におととしにタイガースが見せた機動力。これは大きな武器だよね。
岡田 はい。それで今のところ、1、2番は近本(光司)、中野(拓夢)でいこうと思うんですよ。ふたりとも盗塁王を獲とってますし、走るのは武器ですから。相手に走れるというのを見せつけておきますよ。でも、走らないかもわからないし(笑)。とにかく恐怖心を植えつけておかないと。
江夏 その相手だけど、今のセ・リーグで怖いチームは?
岡田 ヤクルトがリーグ2連覇してますけど、個人的に怖いと思っているのはDeNAなんです。
江夏 ほおぉ。
岡田 この何年かでいちばん力をつけてきたのがDeNAかなと。今年はオースティンもケガが治ってクリーンナップ打つと思うし、ピッチャー陣が1年間頑張ったら、上にくる可能性はあるなと。
江夏 自分もDeNAの試合はよく見てるけど、問題はキャッチャー。毎年、何人かで守ってるけど、本当のキャッチャーがいないんだよな。
岡田 確かに、キャッチャーはそうですね。チームも強くなって、戦力あるように思うんだけど、キャッチャーがいちばんのネックですね。
江夏 そのへんを三浦(大輔)監督はまだわかってないと思うんだよね。
岡田 でも、もしキャッチャーがハマったら、というのはあります。
江夏 じゃあ、あくまでも現段階だけど、要注意は巨人じゃなしにDeNAか。
岡田 巨人は......あんまり頭の中にないですね、今は。このオフの補強も特別すごくないし、戦力的にも怖くないと思います。ただ、最終的にはうまいこと、なんとかしてくると思いますけどね。
江夏 伝統あるチームだからか、本当に困ったら、何かを出してくるような力は持っているんだよな。
岡田 何か出してきますよ。
江夏 やっぱり、日本のプロ野球は巨人が強くなければ......というのが自分の考え。強い巨人に周りのセ・リーグ5球団が追いつき、追い越せという流れがいちばんいい。
岡田 そうですよね。
■そらもう1年目から勝ちにいきます
江夏 ひとつ聞きたいのは、岡田監督が目指す野球、そしてチームづくりは?
岡田 僕は基本的には守りの野球ですね。バッター出身ですけど、打つのは全然、と言ったら悪いですけど、あんまり期待してないです(笑)。「3割打って一流」って言われても、10回打って7回はアウトになるわけだし。だから、確率的にもピッチャーを含めた守りの野球です。
江夏 それは甲子園という独特の風、土のグラウンドといったものも加味した野球?
岡田 当然、それはあります。実際、チーム防御率も去年はリーグ唯一の2点台だったわけで。今のチーム全体を見て、この戦力でどう勝てるかと考えたときに、やっぱりピッチャー中心の守りですね。
江夏 もう、それで十分、勝てる? チームづくりもそういう計算ができているわけ?
岡田 はい。これは守備のほうも含めてですけどね。去年は防御率が良かった割にエラー絡みで失点が多くて。
江夏 エラーは多かったな。
岡田 ええ。そういうのが積み重なって、リリーフ陣は防御率がいいのに負けが多かったんで。岩崎(優)が防御率1点台で1勝6敗とかないでしょ? 普通に考えたら。
江夏 そんなおかしな現象がないように、あらためて守備もしっかりだな。じゃあ、最後にずばり、今年の目標は。
岡田 そらもう1年目から勝ちにいきます。
江夏 勝ちにいく。
岡田 いきます、いきます。
江夏 監督が勝ちにいく、動くということは、相当の自信があるということだな。
岡田 はい。前回監督に就任した04年のときはベテランが多いチームでしたけど、今回はまだ伸びる要素のある若い選手が多いですから。
江夏 若い、というのは大きな財産だよな。
岡田 何かきっかけつかんだらすごく躍進するような感じは、今回のチームのほうがありますね。
江夏 そのきっかけをつかむための、ヒントを与えるのがあなたの仕事だから。
岡田 監督の仕事ですよね。
江夏 もうすぐ、長いようで短い2月の戦いが始まる。ある意味、キャンプは首脳陣と選手の戦いの場所だから。
岡田 2月のキャンプはそういう意味ですごい楽しみです。みんながどういう姿で来てくれるのか、いうのがね。
江夏 それを楽しみに、いいキャンプを送ってくれな。
岡田 はい、わかりました。
江夏 いい結果になることを期待してるよ。
岡田 ありがとうございます。
江夏 よっしゃ、今日はありがとう。
●江夏 豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスターでの9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ
●岡田彰布(おかだ・あきのぶ)
1957年生まれ、大阪府出身。北陽高校、早稲田大学を経て、79年のドラフトで阪神が1位指名。85年には不動の5番として日本一に貢献。94年から2年間オリックスでプレーし、95年の引退後はオリックス、阪神で2軍監督などを歴任。04年に阪神の監督に就任し、05年にリーグ制覇。その後、解説者を経て、23年から再び阪神の指揮を執る