IOCのトーマス・バッハ会長は、暴力的な表現を含む一部の人気ゲームをオリンピック競技として扱うことには反対を表明している IOCのトーマス・バッハ会長は、暴力的な表現を含む一部の人気ゲームをオリンピック競技として扱うことには反対を表明している

果たして「ゲーム」は五輪競技になるのか? 今年6月、シンガポールで開催予定の「第1回オリンピックeスポーツウイーク」は、その試金石になるかも。eスポーツの現場を取材し続けるライターのハル飯田氏が解説する!

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■〝リアルスポーツの延長〟として

今年6月にシンガポールで開催される「オリンピックeスポーツウイーク」は、eスポーツ、つまりはゲームの大会で、国際オリンピック委員会(IOC)が主催するれっきとした〝オリンピック公式のイベント〟だ。ゲームでの対戦のほかにも、技術展示やパネルディスカッションなどが予定されている。

ただ、オリンピックの名を冠したeスポーツイベントはこれが初めてではない。2021年には東京オリンピックに先駆け開催された「オリンピック・バーチャル・シリーズ(OVS)」にて複数のタイトルで競技が行なわれていた。公式発表によればオンライン上で100ヵ国から25万人以上の参加があったという。

それにしても、なぜIOCはeスポーツへの参画に積極的なのか。実はIOCは21年にオリンピックの長期的な戦略に関する「オリンピック・アジェンダ2020+5」を採択しており、その中で今後は「デジタル化」に対応していくことを明言している。そこで、デジタルとスポーツが組み合わさったeスポーツに白羽の矢が立ったのだろう。

加えて、IOCのバッハ会長はOVSの開催発表会見で「新たなオーディエンスとの直接的な関わりを深めること」を目的として挙げており、簡単に言えば〝ゲームファンにオリンピックをアピール〟する、新規ファン層開拓の狙いもあると推測できる。

ここで注目したいのは、OVSで競技に採用されたゲームのタイトルだ。日本生まれの野球ゲームで〝パワプロ〟の通称で知られる『eBASEBALL パワフルプロ野球2020』や、レースシミュレーター『グランツーリスモSPORT』をはじめ、自転車やセーリングなど、リアルでもスポーツとして親しまれているジャンルのゲームに限定して実施された。

一方で昨年、さいたまスーパーアリーナでのオフライン大会を成功させたシューティング『VALORANT』など、今やeスポーツの中心的存在となっているFPS(一人称シューティングゲーム)や『ストリートファイター』のような格闘ゲームは、世界的に人気を誇るタイトルであってもOVS種目には選ばれなかった。

まだ詳細は発表されていないが、「オリンピックeスポーツウイーク」の種目もOVSと同じ方針で選ばれるとみられている。

■トップ選手は参加しづらい?

eスポーツ界にとって同大会は、格式高い競技会への参加をもって地位の向上をアピールする絶好の機会であり、IOCとしても華やかな大会を成功させることでゲーム愛好家にオリンピックブランドを強く示すチャンスになるだろう。

しかし、参加する選手にとってもうれしいことかというと、それは微妙なところである。

というのも、〝賞金事情〟がまったく不透明なのだ。通常、オリンピックで活躍したメダリストは報奨金を受け取れるものだが、先述のOVSでは優勝者は1円も手にすることはできなかったという。

それもそのはず、メダリストへの報奨金はオリンピックへ選手を派遣する各国の委員会や競技団体から支払われるものであり、OVSは個人参加のため賞金を出す団体が存在していないのだ。

勝者には主催のIOCからトロフィーなどの記念品が授与されていたが、今大会もゼロとなれば賞金が出る大会を資金源に活動している選手にしてみれば、どうしても「参加しづらい」ものだろう。

大会で結果を残すことが今後の活動につながる可能性もあるが、今のままでは「参加することに意義がある」以上のものは見いだしづらい。

世界大会ともなれば何百億円もの賞金が争われる夢のあるeスポーツ界において、トロフィーたったひとつで存在感ある大会をつくり上げようというのは、いくらオリンピックブランドが強かろうと厳しいはずだ。大会サイドにトップレベルの選手を集めるだけのアイデアはあるのだろうか。

■〝本祭〟と無関係なシンガポールでの開催につく「?」

加えて気になるのが開催地だ。OVSはオンラインで完結する競技が大半であったが、東京オリンピックの開催年ということもあり、一部競技は東京のオフライン会場で開催された。

しかし、今後の五輪は24年がパリ、28年がロサンゼルスで開催されることを踏まえると、オリンピック本大会と連動するものではないシンガポールでの単独開催にはやや疑問符がつく。

今大会はシンガポール国内のオリンピック委員会(SNOC)の協力で開催されるそうだが、もともと東南アジアはeスポーツが盛んな地域であり、シンガポールも例外ではない。近代オリンピックそのものを誘致するのは難しくとも、自国の得意分野でIOCとのコネクションを強めていく狙いがあるという見方もできる。

しかし「オリンピック誘致」と聞くと、記憶に新しい東京大会にまつわる汚職事件の数々が脳裏をよぎる。ゲーム大会を誘致するために、〝汚いお金〟を動かしていた、なんて裏技が後から発覚しないことを願いたいものである。