三笘薫をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第50回目のテーマは、三笘薫について。プレミアリーグで大活躍中の三笘を福西崇史だったらどのように止めるのか?
* * *
「いまの三笘薫を止められるか?」
そう訊ねられたら答えは簡単で、ボクには無理(笑)。
現役時代の最高のコンディションだったとしても、自分ひとりで三笘を抑えるのは難しいなと感じます。
それは当然のことですよね。だって、各国代表としてカタール・ワールドカップに出場した世界屈指のディフェンダーたちが、いまの三笘を止められないわけですから。
1対1の状況を三笘につくられたら、対峙する選手は三笘からボールを奪おうとするのではなく、味方と連動・連係して三笘を抑えられる方向に誘導するのがいいでしょうね。ボクなら三笘がタテに進むコースを切って中央へと呼び込み、センターバックと協力しながら抑え込もうとするでしょうね。
もちろん、昨年6月に日本代表がブラジル代表と対戦したときに、三笘を完全に封じ込めたミリトン(レアル・マドリード)のようにフィジカル強度は高く、スピードも備えた選手ならば1対1で勝負することも可能です。
ただ、あのクラスの選手はそうそういませんからね。それに三笘もその頃より成長していますしね。いまミリトンと対峙したらどういうプレーをするのかは興味深いです。
そんなわけで、三笘のようなサイドアタッカーを封じるには、普通なら中央へ切れ込まれるのをケアしながら、タテに行かせたいところです。
でも、三笘の場合はタテに突破しても、そこからクロスを上げるだけではなく、エンドライン際で方向転換してペナルティーエリア内に突き進む突破力も持っている。カタール・ワールドカップではこうしたプレーから日本代表のチャンスをつくりましたよね。
そしてペナルティーエリア内に三笘を入れてしまうと厄介です。細かなタッチでボールを動かせるので、ディフェンダーとしてはPKが怖くて迂闊に足を出せません。だからこそ、ゴールマウスから遠いところで三笘の仕事を完結させたほうがいいという判断になるわけです。
ただし、これは諸刃の剣でもありますね。少しでも三笘にスペースを与えてしまうと、1月21日のレスター戦で放ったような鮮烈なミドルシュートがありますから。
三笘の武器はスピードのあるドリブル突破だけではなく、的確にゴールマウスをとらえるシュート力。やっぱり彼が世界で評価され始めている理由は、しっかり得点を奪える力を備えているからなんですよね。
所属するブライトンでは、左サイドから中央にカットインして決めたレスター戦でのシュートを含め、ワールドカップ後のリーグ戦では5試合で3ゴールを決めています。
しかも、アシストだったり、記録には付かない局面を打開したりも数多くありましたよね。ワールドカップ前のものを含めれば4ゴールですが、シーズン2桁得点の可能性は高いのではと見ています。
いまの三笘の活躍は、カタール・ワールドカップでサッカーに興味を持った日本の人たちをサッカーにつなぎとめていると言っても過言ではないように感じます。
彼のワンプレーにそれくらい多くの人が注目し、そのパフォーマンスに驚嘆して、また次の試合を観る。間違いなく三笘によって、サッカーの深みにハマりつつある人はいるでしょうね(笑)。
本来ならばカタール・ワールドカップで盛り上がった日本中のサッカー熱を、Jリーグが受け止められれば良いのですが、残念ながらJリーグではそれがなかなか難しいのが現状です。日本代表クラスの選手たちや次代の日本代表を担う逸材はほとんどが海外リーグ所属ですからね。
もちろん、JリーグにはJリーグのおもしろさもあるのですが、それをワールドカップでサッカーに興味を持った人たちに理解してもらうにはハードルが高いかなと思っています。
それでも三笘のように海外トップリーグでの目覚ましい活躍があれば、国内でもその活躍は大きく報道されますし、それを目にすることでサッカーへの興味がふたたび喚起されるわけです。現状の日本サッカーでは、三笘を始めとする海外組が各国トップリーグで躍動することは重要なことですね。
それに若い選手たちにとっても刺激になります。プロ選手を目指そうという世代にとってはひとつの目標になるでしょうし、三笘の活躍によって日本選手の海外からの評価というものがさらに高まっていくのは間違いないと思います。
なんせ三笘の川崎フロンターレからの移籍金は4億円ほどですからね。いまの活躍を見れば、これほどお買い得な選手はいませんよね。それだけに海外は日本の若手にもっと目を向けるのかなと思いますよね。
すでに高校年代の選手たちは海外クラブから興味を持たれていて、その進路をJリーグではなく海外に求めるケースも増えてきましたよね。今年の全国高校サッカー選手権で得点王になった神村学園の福田師王はボルシアMGへ入団しますし、昨年はチェイス・アンリが高校卒業からシュツットガルトに加入しました。
クラブユース育ちでも福田と同年代の福井太智は昨秋にサガン鳥栖からバイエルン・ミュンヘンに移籍し、セカンドチームでレベルアップに励んでいますからね。
いま、海外でプレーしている日本選手たちが、三笘のような目覚ましい活躍をしていけば、やがては若くしてヨーロッパに移籍する際の移籍金がブラジル選手のような額になる日は、夢物語ではないように感じます。
そして、その破格の移籍金で育ったクラブが潤い、次の世代の強化につながっていく。これも日本サッカーが発展していくひとつの方策ですからね。
いずれにしても、三笘には現状に満足してもらいたくないですよね。本人も満足はしないでしょうけれど、もっともっと成長を遂げて、個人として最高峰にまで駆け上がってほしいです。それに負けじと他の選手たちも躍動する。それが日本代表の発展にもつながっていきますからね。
ここからシーズンは佳境に向かって行きますが、そこで三笘がどんなプレーを見せてくれるのか。楽しみながら、しっかり注視していきたいと思います。