温かい飲み物が体に染みる寒さが続いていますが、かわりなくお過ごしでしょうか。みなさんこんにちは、野球大好き山本萩子です。

先日、熱を出しました。気温の変化などに敏感な私の扁桃腺は、すぐに腫れ上がり高熱を出してしまいます。かかりつけの病院で治療を受けながら、次のテーマは何にしようか考えていました。熱と喉の痛みで朦朧としながら「耳鼻咽喉科」で思いついたテーマは「インコース」でした。

近年の変化球のトレンドのひとつに、ツーシームがあります。直球に近いスピードで、小さく投手の利き腕方向に曲がる変化球は右打者の内角に食い込んでくるので、とても打ちにくい球とされています。

配球の基本は内角と外角、さらに高さを使い分けること。インコースは打ちにくいとされていますから、投手としては絶対に攻めなくてはいけないコースですが、打者に当てるリスクもありますので諸刃の剣です。

インコースの球は、打者にとっては力強くスイングできる球ではありますが、とても打ちにくいコースです。ど真ん中のストライクボールと比べたら体の近くにボールが来るので、腕が窮屈になってしまうからです。

ツーシームのトレンドを受けて、インコースを上手にさばく打者も注目を集めています。内角の球を上手に打てる選手がプロになる、と言えばそれまでですが、中でもジャイアンツの坂本勇人選手などのように特別に上手な選手もいます。

たとえば我がヤクルトの山田哲人選手も、インコースをファウルにせずにスタンドに放り込む技術はピカイチでした。

MLBを代表する選手の一人、エンゼルスのマイク・トラウト選手は、天性の才能と卓越した技術で内角の厳しい球でも簡単にスタンドに運ぶのですが、それゆえ投手からギリギリを攻められて、頭部付近へのあわや死球という球を投げられたこともあります。内角を上手に打てる選手に対しては、インコースの中でもさらに工夫して攻めないといけないのでしょう。

インコースの球を打つのは、素人から見てもとても難しそうに思えます。以前に聞いたことがあるのですが、インコースの球はストライクゾーンを動かせるんだとか。どういうことかというと、打者は際どいインコースを投げられたあとは、感覚的にストライクゾーンがボール何個分か内側にずれるそうで、定石通りインコースのあとにアウトコースギリギリのストライクが来ても、ボールだと思って見逃してしまうとか。

インコースはプロでも打ちにくい球です。インコースを強気で攻めない限り強打者を打ち取ることはできませんし、インコースの速球は言うなれば「攻めの姿勢」の象徴です。

しかし、コントロールがいい投手が投げるインコースと、コントロールに難ありの投手が、投げるインコースは怖さが違うような気もします。想像してください、荒れ球の投手が思い切り投げてくるインハイを。当たったらと想像するだけで恐ろしいですよね。でも、どこに投げ込まれるかわからないインコースを布石にすれば、アウトコース低めの決め球はさらに威力が増すでしょう。

すっかり元気になりまして、美味しくビールを頂きました。冷え込む日々ですが、皆さまも健康第一で!すっかり元気になりまして、美味しくビールを頂きました。冷え込む日々ですが、皆さまも健康第一で!

ビジネスシーンでよく使われる「誰がボールを持っているか」。これは仕事の責任の所在などを確認する際の比喩表現で、ボールを持っている人がイニシアチブを握っているということです。野球も投手がボールを手にするところからプレーが始まります。投手と打者の一騎打ち。さてどんな球を投げよう。

これをカードゲームに例えるなら、投手は手持ちの「インコース」という強力なカードを、どのターンで出すか決めることができます。手札はいろいろあります。どれでカウントを取りに行くか、何を見せ球にするか、そして決め球をどうするか。

インハイの速球がきたら、次はアウトコースかなと予想されるのは投手も承知の上。次にどんな一球が投じられるのか。予想を裏切る配球がきたら興奮しますよね。

もちろん打者に対する配球はセオリー通りとは限りませんが、どのタイミングでインコースを攻めたのかを意識すると、次の投球に対する興味がぐっと増すこと間違いなし。若いキャッチャーほど強気に攻めたりするので目が離せません。

インコースをどう攻めるのか、それを見るだけで野球はもっと面白くなるという話でした。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!