不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第51回目のテーマは、今季からJ2のセルビア町田を率いる黒田剛監督について。青森山田高校の監督として輝かしい実績を築いてきた黒田監督はJリーグを舞台にどのような活躍を見せるのか、福西崇史も注目していると語る。
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この冬の移籍期間で多くの日本選手がJリーグから海外クラブに移籍しましたよね。
昨季のJリーグMVPの岩田智輝は横浜F.マリノスからセルティック(スコットランド)へ。そのセルティックには小林友希も加入しました。
セルティックは監督が元横浜F・マリノスのポステコグルーさんですし、前田大然や古橋亨梧恭、旗手怜央などがすでに活躍して日本人選手のクオリティーを知っているクラブですからね。岩田と小林もチームにフィットして調子が上がっていけば、実力をしっかり発揮してくれると見ています。
カタール・ワールドカップ日本代表の相馬勇紀も、名古屋グランパスからポルトガル1部のカーザ・ピアへ移籍しました。公式戦2試合目で初ゴールとアシストを記録と幸先いいスタートを切りましたが、ここからもっと存在感を発揮して、数多くのゴールに絡んでもらいたいと思います。
鈴木唯人も清水エスパルスからフランス1部のストラスブールへ移籍しました。パリ五輪世代の中心的な存在ですから、フィジカル強度の高いリーグで揉まれて、レベルアップしてくれることを期待しています。ストラスブールには日本代表GKの川島永が所属しているのは、初の海外挑戦になる唯人にとっては心強いことでしょう。
ほかにも海外挑戦を始めたJリーガーはいます。新たなステージでがんばってもらいたいですよね。
ただ、これだけ多くの有力選手が海外移籍してしまうと、「Jリーグは大丈夫か?」という声もあります。もちろん心配ではありますが、現状は受け入れるしかない部分ではありますよね。
海外リーグでプレーしたほうが選手たちは成長できますし、金銭面でも恵まれますからね。それに海外リーグで実力を伸ばした日本選手たちが、さらに日本代表をレベルアップさせることで、国内のサッカーへの興味が維持されるという側面もあると思います。
でも、だからといってJリーグはダメかと言えば、そんなことはありません。ネクストブレイクを狙う選手はまだまだいますし、新たな挑戦をJリーグで始める人も現れていますからね。
今年のJリーグは、2月17日(金)にJ1の川崎フロンターレvs横浜F.Mで幕を開けますが、しょっぱなから昨季の優勝を争った2強の激突です。大注目ですよね。
ほかにも興味深いカードが目白押しなのですが、ボクが今年注目しているチームのひとつが、J2の町田ゼルビアなんです。2019年からサイバーエージェントがクラブ経営に加わり、昨季まではランコ・ポポヴィッチ体制で戦ってきたんですが、そのチームを今季から新たに率いるのが黒田剛監督なんですね。
今冬の第101回全国高校サッカー選手権大会を観た方なら、黒田監督と聞いたらピンとくると思います。青森山田高校を全国屈指の強豪校に育てあげた高校サッカー界きっての名将で、それだけ実績がある方が高校の先生という安定した職業を辞して、Jリーグでの監督業に挑戦する。
プロ選手は育成年代の高校生を育てるのとは異なりますからね。どんな手腕を発揮されるのか、とても注目しています。
高校サッカーの監督からJリーグの監督に転身された過去のケースで、もっとも有名なのが布啓一郎(ぬの。けいいちろう)監督ですよね。高校サッカーでは市立船橋高を冬の選手権で4度優勝に導くなど全国屈指の強豪校に育て、2003年からはユース年代の日本代表監督を歴任。ファジアーノ岡山でのコーチを経て、2018年からザスパ草津、2020年は松本山雅FC、2021年はFC今治の監督をつとめて、Jリーグを戦いました。
ただ、布監督の場合は結果だけを見れば、必ずしもプロリーグの監督として結果を残せたとは言い切れないかもしれません。それでも、ボクは布監督が学校の先生からプロの指導者へチャレンジしたことは、日本サッカーにとって意義があったと思っているんです。
布監督がチャレンジした過去があって、今年から黒田監督が挑む。ただ、もしこれで結果を出せなかったとしても、高校の先生はプロ監督には適さないとは考えてほしくないんですよね。数少ないサンプルの結果に左右されるよりも、いろんなバックボーンを持つ指導者が増えることのほうが、日本サッカーにとっては重要なことなので。
昨シーズンからセレッソ大阪を率いる小菊昭雄監督はプロ選手としてのキャリアがありません。それで注目されましたが、世界を見渡せば選手としてのプロキャリアのない監督が、ビッグクラブを率いるケースはザラにあるわけです。プレーすることに長けていても、監督として結果を残せるわけではないのがサッカーですからね。
それにJリーグがもっと活気のあるリーグになって、レベルアップしていくためには、どんどん新たな人材が参入する必要があると思うんですね。新たな監督がチャンスを求めたり、監督に就任したけれど結果を残せなかったという人でも、勉強しなおしてからもう一度チャレンジしたりする。
その一方で結果を残している監督がステップアップしていく。そんなリーグになっていくことも、これからのJリーグには求められる部分でしょうからね。そういった意味でも、今年からセルビア町田を率いてJリーグに挑む黒田監督には注目してもらいたいと思います。