優れた選手だったからといって、優れた監督になれるわけではないと語るセルジオ越後氏優れた選手だったからといって、優れた監督になれるわけではないと語るセルジオ越後氏

優れた選手だったからといって、優れた監督になれるわけではない。監督というのは本当に大変な仕事だと思う。

今オフ、かつてのスター選手の指導者挑戦が話題になっている。Jリーグでは今季からゴン(中山雅史)、戸田(和幸)がそれぞれ沼津、相模原(いずれもJ3)でプロチームの監督としてデビューする。(中村)憲剛と内田(篤人)は、Jリーグの監督を務められるS級ライセンスの指導者講習を受け始める。

また、昨季限りで現役を引退した(中村)俊輔も槙野(智章)も指導者を目指すと公言した。

槙野は少し前に会った際、「どんなカテゴリー、年代でもいいから、焦らずこつこつ経験を積んで、結果を出して、上に行ければ」と真面目に話していた。応援したくなるよね。  

いずれも現役時代、日本サッカーに大いに貢献してくれた面々。今度は指導者としてどんな道を歩むのか、新たな楽しみだ。

そんな中、先頃、本田(圭佑)が「監督をするのに指導者ライセンスは不要」「長くプレーしていたレジェンドが辞めた瞬間にJリーグの監督になって盛り上がればいい」という趣旨の発言をして、波紋を投げかけた。

それに対する僕の考えは、指導者ライセンスは必要。なぜなら、今や欧州でも指導者ライセンスは制度化され、定着しているから。世界のサッカーどころでも求められているものなんだ。

日本サッカーがさらにレベルアップするには、選手だけでなく指導者も海外に打って出なければいけないと思う。その意味でも、指導者の道を志すならライセンス取得は避けて通れないんじゃないかな。

ただし、現行の日本のライセンス制度に大きな欠陥があるのも事実。

まず、S級を取得するのに年単位で時間がかかり、経済的な負担も大きいこと。医者や弁護士ではないのだから、そこまでハードルを上げなくてもいいのでは。少なくともブラジルではそんなに手間はかからないよ。

そして、何よりマズいのが、日本のS級ライセンスを取得しても海外で役に立たないこと。W杯でドイツとスペインに勝った日本代表の森保(一)監督ですら欧州のクラブの監督になれない。新たに欧州のライセンスを取り直さないといけないんだ。

その一方で、海外でライセンスを取得した外国人指導者は、日本に来たら普通にJリーグの監督を務められる。こんなの納得できる? 基準が曖昧すぎる。

これは日本サッカー協会どうこうというよりも、FIFA(国際サッカー連盟)の問題。今や日本の選手は次々と欧州で羽ばたいているのに、指導者は全然いない。この状況を変えるために、協会の田嶋(幸三)会長がFIFAに働きかける必要がある。会長の任期は来年3月、残された時間は少ないけど、これは彼の宿題だ。

ちなみに、僕自身は監督をやったことがない。テレビのバラエティ番組でたけし軍団チームを率いたことがあるくらい。大昔に実業団とJリーグのクラブから声をかけてもらったことがあるけど、どちらもお断りした。

何しろ僕は、安定した職業じゃないからとブラジル時代に早々とプロ選手に見切りをつけた人間。ブラジルでも日本でも監督の苦労はたくさん見てきたし、性に合わないだろうなと普及活動の道に進んだんだ。それが正解だったのかはわからないけどね。

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