昨季はメジャーで15勝&34本塁打。超人的な成績を引っ提げて参戦を表明した大谷昨季はメジャーで15勝&34本塁打。超人的な成績を引っ提げて参戦を表明した大谷

メジャーでもトップ級のダルビッシュと大谷、日本で"無双"の山本や剛腕・佐々木らを擁する投手陣。"村神様"を筆頭に長打力満点の野手陣。1月26日に発表された30人は史上最強の呼び声も高いが、油断は禁物。期待が膨らむ今だからこそ、あえて「?」な要素を洗い出した!

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投手陣で最も背番号が若い11番のダルビッシュ有を皮切りに、投手15人、野手15人の名前を読み上げた栗山英樹監督。1月26日、ついに第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に挑む日本代表メンバーが発表された。

2月17日の宮崎合宿スタートが今から待ち遠しいが、しかし前向きな話題に隠れて、やや気になることもある。今回は侍ジャパンの「5つの疑問」を整理してみよう。

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1.なぜ「内定情報」がだだ漏れになった?

30人全員が発表されるより3週間ほど前の1月6日、栗山監督と大谷翔平が出席して開かれた記者会見で、12人のメンバーだけが「先行発表」された。これは大会プロモーション上の理由だったようだが、その後、堰(せき)を切ったようにそれ以外の選手たちの「内定情報」が報じられる事態に。いったい何があったのか?

スポーツ紙デスクが言う。

「要は情報統制がまったく徹底されていなかったのです。候補選手に取材すると、すでにOKの返事をしたと教えてくれる。しかしNPB(日本野球機構)に問い合わせても、なかなか正式発表にならない。そこでまず、しびれを切らした一部のスポーツ紙が報じ、あっという間に報道合戦になってしまったんです」

ただし、全選手の陣容が1月上旬に決まっていたわけではなく、一部に関しては栗山監督の最終判断が発表日近くまでずれ込んだという。

「昨季パ・リーグ2冠の山川穂高にしても、本来なら先行発表組に入るべき成績ですが、守備力や走力を考えて栗山監督が判断を留保し、少し遅れての内定になった。

一方で、ツイッターで代表入りを直訴した田中将大(楽天)や、逆に最終的に参加を辞退した坂本勇人(巨人)についても、なんとか入れられないかとギリギリまで検討していたようです」

2.「抑え未定」で大丈夫なのか?

勝ち試合の継投を締めくくる抑え投手について、会見で栗山監督は「まだ決めていない」「臨機応変に状況を判断しながら」などと語った。

ちなみに今回のメンバーのうち、所属チームで抑えを担っているのは栗林良吏、大勢、松井裕樹の3人。しかし、リリーフ陣で唯一の左投手である松井は出番を9回に限定せず、「ここぞ」の場面で使いたいとの構想もあるようだ。

「国際大会では抑えをひとりに固定するのがセオリーです。しかし、もし抑えに指名した投手の調子が上がらず、別の投手と役割を入れ替えるような事態になるとバタバタしてしまう。ならばいっそ、その日の調子や相手打線の傾向に合わせた〝日替わりストッパー〟でもいい――というのが監督のプランのようです」(スポーツ紙WBC担当記者)

ただ、この戦術は投手たちの立場からすれば毎試合、相当な緊張を強いられる。いくら日本を代表するレベルのメンバーとはいえ、リスクが高いような気も......。

「確かに、東京五輪で抜群の安定感を見せた栗林に固定しても問題はないだろうというのが大方の意見です。また、一部にはダルビッシュの抑え説が流れていますが、あれも根も葉もない話ではなく、監督がメディア出演時に『ダルビッシュには(抑え起用の)可能性の話をした』と答えたことが背景にあります」

3.大谷は投手? 打者? それとも「二刀流」?

大谷の参加表明以来、最大の話題はその起用法だが、そう簡単に決められない事情がある。前出のデスクが言う。

「MLBの選手は所属チームの練習や故障リスクの低減が優先され、代表への合流が開幕5日前頃、実戦出場解禁は開幕3日前の強化試合か、へたすれば開幕戦にまでずれ込む可能性がある。このことが起用法の構想に大きな影響を与えています」

大谷の場合、指名打者での起用はほぼ確定。問題は投手のほうで、先発として使われる可能性が高いものの、「投げないのでは」との臆測もまだ消えていない。

「投手専任なら抑えも考えられましたが、二刀流では難しいでしょう。全試合でブルペンで準備しながら、打者として試合にも出続けるなんてエンゼルスでもやったことがない」(前出・WBC担当記者)

いずれにしても、もし合流が本当にギリギリになるなら、一部で言われている開幕戦の登板は常識的にはありえないだろう。

「一方、ベテランのダルビッシュには所属のパドレスが自由を与えたため、宮崎合宿初日からの参加が決まっています。とはいえ、実戦登板解禁まで早まる可能性は低そうです」

先発陣の起用について、WBCを含む国際大会の取材経験が豊富なスポーツライターの木村公一氏はこう語る。

「大谷とダルビッシュの存在が大きいのは言うまでもありませんが、本気で勝つためには国内組の山本由伸や今永昇太を軸に考えたほうがいいと思います。

日本で早くから肩をつくり、実戦登板まで着実に調整を積んだ投手たちで1次ラウンドと準々決勝を手堅く勝ち、大谷やダルビッシュには舞台を米フロリダに移した後の準決勝、決勝で真価をフルに発揮してもらう。そう決めたほうが彼らも調整しやすいはずです」

4.異例の「重量打線」は機能するのか?

ダルビッシュ、大谷、山本、佐々木朗希......という先発陣は〝史上最強〟の呼び声高いが、大谷(DH)、村上宗隆、鈴木誠也、山川らを擁する打線にもわくわくさせられる。前出のデスクが言う。

「なかなか点が取れない国際大会は、いわゆるスモールベースボールで小技も使いつつ、僅差を投手力で守り切るというのがこれまでの日本代表の考え方でした。しかし、栗山監督が選んだのは〝重量級〟の打線。

メジャー1年目で当初はリストから外れていたにもかかわらず、自ら参加を直訴したといわれる吉田正尚も加わったため、実に7人が昨季、日米で20本塁打以上を打った打者となりました」

しかも、その中に2021年まで日本で6年連続20本塁打以上の鈴木や、昨季メジャーで14本塁打のラーズ・ヌートバーは入っていない。彼らも含め、捕手とショートの源田壮亮を除く7人に一発を期待できる打線が組めそうだ。

「点が取れないことを前提にするのではなく、『点を取る』という意志の表れです。特に、1次ラウンドと準々決勝の計5試合は狭い東京ドームが舞台なので、攻守共にホームランがポイントになるでしょう」

とはいえ、WBCでは基本的に初対戦の投手ばかり。打てそうで打てないまま、あれよあれよとイニングが進んでしまうのも〝あるある〟だ。前出の木村氏はこう語る。

「1次ラウンドの中国やオーストラリアはまだしも、準決勝、決勝でドミニカやアメリカを相手に重量打線が機能するかどうか。派手に勝つこともあれば、淡泊に沈黙してしまうこともある〝もろ刃の剣〟といえるかもしれません」

5.外野守備の連係は問題ないのか?

メジャー組の合流遅れの影響は、外野守備にも及ぶ。そもそも今回の外野手5人にセンター専門の選手はおらず、周東佑京に至っては内外野兼務。スタメンはレフトに吉田、センターにヌートバー、ライトに鈴木という布陣が有力だが......。

「ヌートバーの普段の守備位置はライト。肩や守備範囲はいいですが、連係の中心であるセンターをやるなら、どの打球を誰が捕るか、返球時のフォーメーションをどうするかなど、本来なら時間をかけて確認すべき項目が多いのです。ところが、この3人はいずれもメジャー組ですから、ほぼぶっつけ本番になりかねません」(木村氏)

また、内野守備も安心とはいえない。前出のWBC担当記者はこう指摘する。

「ショートの源田はスタメン当確ですが、センターラインの要となる二遊間を組むセカンドが山田哲人になるか、牧秀悟になるか定まっていません。

昨年11月の強化試合で栗山監督が見せた、レギュラーを固定せず好調な選手を優先的に使う方針は、ごく一部の主力を除けば本番でも変わらない可能性が十分にある。

山田と牧、あるいはファーストで山川と岡本和真の併用が続いたり、村上でさえ不振に陥ればサード・岡本にスイッチしたりする選択もありえます」

このように、実は不確定要素も多い侍ジャパン。前出の木村氏はこう言う。

「過去にWBCで優勝した王貞治監督や原 辰徳監督と比べても、栗山監督は選択肢を常に多く準備したいタイプ。『後になって〝しまった〟と困ることがないように』というセリフも何度も聞いてきました。また、見ている人が驚くようなカードを切ることを喜びとする指揮官でもある。

今回も、多くの選択肢を考えること自体を楽しんでいるようにさえ見えます。『1番ピッチャー・大谷』といった起用も、栗山監督なら現実にやってくるかもしれません」

負けられない一発勝負の舞台で、どんな采配が飛び出すのか。文字どおり目が離せないチームになりそうだ。