2月になると、各球団はキャンプに入ります。キャンプとは、シーズンインを目前に行う合宿のようなもので、全体練習、個人練習、自主練習、さらに後半は実戦に即した試合形式で行われます。
1ヶ月に渡るキャンプが始まると、シーズンインまで間もないことを実感してドキドキします。これが本当のどきどきキャンプ、ということで本日は「春季キャンプ」についてお話させてください。
先日、おでんを大量に仕込みました。大根は面取り&下茹で、出汁はこんぶとかつおで二番出汁まで取って、とにかく時間をかけて丁寧に作りました。しかし、できあがったおでんは味がぼやっとしていて、「あんなに頑張ったのに......」と悲しくなりました。
失意のまま迎えた2日目。鍋のふたを開けたところ、昨夜とはうってかわって味が馴染んだお店のような絶品おでんがそこにはありました。晩酌がどんどん進んでしまったのは、言うまでもありません。
このエピソードが教えてくれるのは、「やっぱり冬はおでんと熱燗だね」という話ではなく、準備がいかに大事かということ。すぐに結果が出なくても、しっかり仕込みをすれば仕上がりが大きく変わることを痛感しました。
私のおでんの話を例に出すのは大変恐縮なのですが、プロ野球選手にとってキャンプは、いわば仕込みの時期です。ここまでする必要があるのか、という境地まで選手は自分自身を追い込んで、自分を高めようと必死に努力します。結果が出るのはシーズンイン直後か、あるいはシーズン中か、それは誰にもわかりません。
でも、ひとつだけ言えるのは、努力をしないと結果は絶対に出ないということ。年間130試合を走り切るために、キャンプで力をつける必要があるのです。
ちなみに、日本とMLBではキャンプの様子はまったく異なります。日本と比べてMLBのキャンプは短期間で、さらに午前中で練習は終わり。午後はゴルフなんてことも。MLBにおいてキャンプはあくまで最後の仕上げ期間。それまでに自主トレで自身を追い込み、キャンプには完成形で挑むからです。
日本は逆に、体力作りから手厚くやることで一体感を作り、チームワークを磨きます。キャンプでは連携プレーもすごく練習します。MLBから日本に来た選手は、投手と内野の連携で苦戦するとか。日米のどっちがいいとかではなく、これはキャンプに対する考え方の違いでしょうね。
キャンプ中の様子も各球団で個性があります。特にノックは球団によって声の出し方からスピード感まで全く異なります。広島は特に厳しいイメージがありますね。
特打&特守と呼ばれる特別練習もキャンプの名物。他の選手がランチを食べているときに行うランチ特打はファンの注目を集めます。
特守ではみんな泥だらけになります。チームの顔ともいえる選手も新人も関係ありません。シーズンが始まればおそらく大事に扱われるベテラン選手だって、キャンプでは横一線です。
近年はプレーもスマートになってスタイリッシュな選手も増えましたが、そんな選手が泥まみれになって走り回る姿を見られるのはキャンプだけ。シーズンインを目前にした選手たちは真剣なプレーを見せてくれます。
ファンとしては、キャンプ地を実際に訪れビール片手に練習を見るのも最高ですが、現地まで足を運べない場合は、球団が配信するキャンプ動画を見ながら過ごすのも悪くありません。
部屋にいながら聞こえる、ブルペンで投手の球がミットにおさまる音、鋭い打球音、ノックの声。他のことをしながらも、体で野球の音を浴びることができます。そこで逆に3ヶ月間野球に触れていなかった寂しさを実感することでしょう。
まだまだ寒い日が続きますが、球春はそこまで来ています。選手の皆様が無事にキャンプを終えることを、味が沁みた大根をいただきながら願っております。
それではまた来週。
★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン