ウィザーズのときも、(ウィザーズ本拠地での)レイカーズ戦ではレイカーズのファンのほうが多かった。テレビでも試合を全米中継しているところは、ウィザーズとは違う。おかげで試合に集中できるのはいいと思います」
そんな八村 塁の言葉からは、優勝17回という超名門チームに入団した誇りが感じられた。1月23日(現地時間。以下同)、八村は3シーズン半を過ごしてきたワシントン・ウィザーズからロサンゼルス・レイカーズにトレードで移籍。レブロン・ジェームズをはじめとする超大物たちのチームメイトとして、パープル&ゴールドのユニフォームを身にまとうことになった。
「(渡邊雄太から)僕のジャージが欲しいって言われたんです」
1月30日、渡邊が所属するブルックリン・ネッツとの試合後、八村はうれしそうにそう話した。コービー・ブライアント、シャキール・オニール、カリーム・アブドゥル=ジャバー、マジック・ジョンソンといった数々のレジェンドが在籍してきた「レイカーズの一員」というステータスにはそれだけの魅力があるのだろう。
今のレイカーズは、NBAの通算得点記録で1位になったばかりのレブロン、オールスターに8度出場しているアンソニー・デイビス(以下AD)のデュオが中心。同じく今回のトレード期限に移籍してきたディアンジェロ・ラッセル、モー・バンバらと共に、八村もふたりのサポート役を担うことになる。
「ふたり(レブロン、AD)と一緒のときは彼らがボールを持つことが多いですが、彼らはいいパサーでもあります。彼らがダブルチームされることでフロアが広がるので、僕にとってイージールックの機会が増える。もっと一緒にプレーし、学び、慣れていかなければいけません」
八村自身がそう自覚しているとおり、2大スターがつくったスペースをどれだけ生かし、チームを助けられるかが今後のポイントになる。
レイカーズはウェスタン・カンファレンスの全15チーム中13位(成績は2月14日時点のもの。以下同)と苦しんでいるが、プレーオフに進出する第7シードと第8シードのチームを決める「プレーイン・トーナメント」に回らずにプレーオフに進める6位以内までは、わずか5ゲーム差。まだ逆襲は可能なだけに、新たなサポーティングキャストのひとりになった八村の役割も重要になる。
ただ、レイカーズが「八村にとって最高の環境かどうか」は意見が分かれるかもしれない。ウィザーズでの1、2年目はスタメン出場していたが、3年目の前半を〝個人的な理由〟で休んで以降は控えに降格。
4年目の今季も重要な時間帯にプレーする機会は減り、本人もフラストレーションをため込んでいるのが見て取れた。2019年のドラフト1巡目9位で指名された八村の心の中に「もっと中心的な役割を担いたい」という気持ちはあったはずだ。
レイカーズでのプレーはやりがいはあるとしても、八村の仕事自体はウィザーズ時代と大きく変わっていない。移籍3戦目からスタメンに入り、プレータイムはウィザーズ時代の平均24.3分から27.2分にアップしているものの、シュート数は平均10.8から9.1に減少した。
レブロン、ADがいるため、得意とするミドルレンジのプレー機会もほとんどなくなった。結果として、平均得点もウィザーズでの13.0得点から11.4得点に落ちている。リバウンド数が増えていること、ディフェンスがハードになったことは好材料だが、新天地でも〝脇役〟であることは否定できない。
今季がルーキー契約の最終年となる八村はオフに制限付きFAになるだけに、中心選手としてアピールしたいという気持ちもあっただろう。
しかし、個人の評価アップやNBA選手としての立場確立のためにベストの環境ではなかったとしても、レイカーズで過ごす時間が八村にとって大切であることは言うまでもない。
「(八村の)チームにもたらす能力を毎晩発揮してほしい。僕(レブロン)とADは『最初から積極的にいけ』と伝えていたが、最後までアグレッシブだった。彼は素晴らしいピースであり、私たちが獲得できたのはラッキーだ」
八村が19得点、9リバウンドと活躍して勝利した1月31日のニューヨーク・ニックス戦後、レブロンはご満悦だった。
通称〝キング〟ジェームズが絶対の軸であるレイカーズで、八村がチームの勝利に貢献できる選手であることを証明できれば今後のキャリアにとって大きい。莫大(ばくだい)な影響力を誇るレブロンに評価されることの価値は計り知れないからだ。
〝キング〟の上機嫌を保つために八村にとってのカギとなるのは、やはり3ポイントシュート(3P)を高確率で決めることだろう。本人が話したとおり、レブロン、ADが相手のディフェンスを引きつけてくれるため、フリーで打つチャンスは豊富にある。
八村にとって懸案であり続けてきた3P成功率は、昨季に44.7%まで引き上げたものの、今季は33.6%と再び低下。レイカーズ移籍後の10試合でも33.3%と物足りない。これを少なくとも30%台の後半まで上げられれば、八村はチームオフェンスの中で重要なオプションのひとつになるに違いない。
「オフェンスもディフェンスも『もっとアグレッシブにいけ』と言われています。〝2ウェイプレーヤー〟としてしっかりやらなきゃいけないと思っています」
そう意気込みを語る八村は、25歳にしてNBAキャリアのターニングポイントを迎えたのだろう。これから数ヵ月間のプレーは特別な意味を持つ。そこでレブロンとケミストリーを生み出せるかどうかが、八村の今後を大きく左右するはずだ。