昨季、プロ野球新人最多タイとなる37セーブを記録。早くも巨人軍の絶対的守護神として君臨する大勢投手(読売ジャイアンツ投手/2023 WBC日本代表)の春季キャンプを、スポーツキャスター・中川絵美里が直撃。
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を間近に控え、湧き上がる熱意と改良中のフォーム、ライバルと目する打者に至るまで、本音を語ってもらった。
■WBCでは、持ち味の直球かフォークで勝負
中川 3月9日、WBC1次ラウンド東京プールがいよいよ開幕します。"侍ジャパン"のメンバーに選出された今の気持ちを聞かせてください。
大勢 WBCというすごく盛り上がる大会、世界各国の実力ある選手が集まる中で、プレッシャーはありますけど、いい時間にしたいなって思います。世界というものを肌で感じて、自分のレベルアップにつなげられたらいいですね。それと、任されたポジションでの仕事をしっかり全うしたいです。
中川 メンバー選出はどういった形で知ったのですか?
大勢 僕の場合は、直接、栗山(英樹)監督からお電話をいただいて。昨年12月末でした。
中川 栗山監督からはどんなお言葉を?
大勢 「世界一になるために、ぜひ力を貸してほしい」とおっしゃってくださって。「わかりました」と即答しました。
中川 その瞬間は、うれしさが込み上げてきましたか?
大勢 ええ、憧れでしたから。それに昨年11月の強化試合で投げたときから、本大会でも選ばれたいという気持ちは強くありました。なので、内定の連絡を受けたときは本当にうれしかったし、興奮というか、テンションが上がりました。
中川 大勢投手から見て、WBCとはどんな大会ですか?
大勢 1番打者から9番打者まで、日本も各国も精鋭ぞろい。エース級のピッチャーがどんどん出てきて、本当に力と力のぶつかり合いというか。ピッチャー対バッターの激闘、守備面でもアクロバティックな、普段見られないような好プレーがたくさん詰め込まれた、そんな大会じゃないかと。自分自身もいい投球を表現できる選手になりたいです。
中川 日本はもちろん、アメリカもマイク・トラウト外野手(エンゼルス)やノーラン・アレナド内野手(カージナルス)、ドミニカ共和国もブラディミール・ゲレーロ・ジュニア内野手(ブルージェイズ)ら強打者ぞろいです。特にこの選手と対峙(たいじ)してみたいというのはありますか?
大勢 それはないですね。特定の選手というよりも、国同士の戦いが楽しみなので。
中川 本大会に出たときのご自身のシミュレーションについてはいかがでしょうか?
大勢 たぶん、僕はリリーフでしょうから、短い時間になるかと。自分の持ち味であるストレートやフォークボールで、どんどん真っ向勝負できればと思ってます。
中川 侍ジャパンには日本を代表する投手が勢ぞろいしています。起用法についてもいろいろ考えられると栗山監督はおっしゃっていましたが、大勢投手は自チーム同様、クローザーとして勝利のマウンドに立ちたいという気持ちはありますか?
大勢 その気持ちはありますけど、監督から行けと言われたところでしっかり仕事をしたいです。
中川 所属の巨人の場合、この一年を通じて、クローザーとしてどの時点で自分を100%の状態に持ってくるべきか、おおよそわかったと思います。が、WBCでは難しい部分もあるのではないかと。いかがでしょうか?
大勢 チームでは基本、9回に投げるという立ち位置ですが、昨シーズン終盤はいつでも行ける準備ができるようになっていたので、スタンスは同じでいいのかなと考えてます。
中川 これが中継ぎとなれば、また違った気持ちの準備が必要になるかと思うのですが。
大勢 とにかく、自分は目の前にいる相手バッターに対して一球一球勝負することしか考えていないので。その姿勢でいようと。
中川 確か、10球でしたよね? 出番と言われてからのウオームアップの投球数は。
大勢 はい。僕は10球でできます。
中川 そのタイミングで気持ちもMAX状態に?
大勢 マウンドに上がったほうがMAXになりますが、キャッチャーを座らせた時点でスイッチは入りますね。
中川 それこそ、昨年11月の強化試合は堂々たるピッチングでしたが、代表ともなるとまた違ったプレッシャーがありますよね?
大勢 普段からプレッシャーのかかる場面での登板は多いですが、確かに強化試合は独特の雰囲気でした。本大会だと、もっともっと重圧はすごいんだろうなって。
中川 大勢投手としては、「どんと来い」という感じですか?
大勢 いや、まぁ正直来てほしくはないですけど(笑)。でも、来たらやるしかない、やってやろうっていうタイプです。
■新人記録はほとんど知らなかった
中川 昨シーズン、巨人ではルーキーイヤーながら大活躍でした。振り返っていかがですか?
大勢 今までは一年のどこかで必ずケガに泣かされてきた野球人生だったので、シーズン通じてケガなく投げられたのが、まずは良かったと思います。やっぱり日頃からのトレーニングや私生活でのこだわりを持つことは大事だなと。
中川 シーズン新人最多記録に並ぶ37セーブ。大記録も達成しました。
大勢 チームメイトたちのファインプレー、アウトを取るのが難しい場面もたくさんあった中で、大いに助けられての記録です。自分が圧倒的に抑えて達成したという感覚はあまりないんです。
中川 記録を伸ばすたびに注目度が高まって、重圧を感じることはなかったですか?
大勢 正直、新人のそういった記録をほとんど知らなかったんですよ。周りから言われて初めて「ああ、そうなんだ」と。記録は特に意識することなく、勝つために一戦ずつ必死に投げてきただけです。でも、3敗はしてしまった。悔しいんですよ。だから、今シーズンはその悔しさをぶつけて勝ちにつなげたいです。
中川 昨シーズンの開幕前、投手陣の不調が重なっての守護神抜擢(ばってき)でした。
大勢 当初から、リリーフとは聞かされていました。僕としては、1軍で投げられる機会を与えてもらっただけで本当にうれしくて。1年目からしっかりアピールしていきたいと考えていたので、「やった!」という気持ちでしたね。
で、開幕直前にクローザーだと言われて。驚きましたけど、それだけ信用してもらえているという、うれしさのほうが強かったです。
中川 当時、原(辰徳)監督は先発候補というお話もされていましたが、結果的にリリーフのほうが適していたと感じますか?
大勢 そうですね。変化球についても、先発で長いイニングを投げられるような精度はまだなかったと自分で思いますしね。結果として、フォークボールはシーズンを経るごとに良くなっていったんですが。
自分の場合はどちらかというと1イニングの中で出す「出力」に自信があったので、ドラフト当時からリリーフを希望していたんです。原監督や桑田(真澄)コーチ(現ファーム総監督)と3者ミーティングした結果リリーフとなったので、自分の中では良かったと思いました。
中川 ご自身の一番の強みはなんですか?
大勢 ストレートですかね。ストレートが調子いいと、変化球もいいんですよ。相手がしっかり振ってくれたり、凡打してくれたり。基本は真っすぐですね。
中川 今年はちょっと投球動作を変えていますよね? 膝まで沈めてからヒールアップするといった具合に。その動きを取ることでどういうメリットがありますか?
大勢 右脚の股関節と膝、足首の3点をもっと深い位置まで持っていった状態で、しっかりと軸足を使った投法を実践したいんです。だから、あえて深く沈めるという動作をやってます。要は意識づけですね。これから徐々に自分のフォームに落とし込んでいく感じです。
中川 ほかに、オフの間に意識して変えた点はありますか?
大勢 その軸足の使い方になってからは、体の可動域が広がったんです。範囲が広くなった分、しっかり耐えられる筋力をつけないといけないので、その部分を強化して。必然的に出力も上がるので、それに耐えうる上半身の筋力アップも重点的にやってきました。
中川 手応えはありますか?
大勢 そうですね。新しいフォームでの投球は、そこまで力を入れずとも理想に近い球は投げられますね。徐々につかんでます。
中川 先ほど、私生活というワードも出ましたが、どういう実践をされたんでしょうか?
大勢 ごく当たり前のことですけどね。ジャンクフードを食べないとか。シーズン中はお酒を一滴も飲まないだとか。
中川 え!? 一滴も? 先輩や仲間とのごはんでも......?
大勢 ええ、だから気まずかったですね(苦笑)。先輩にごちそうになるときなんかは......。でも、そこで飲んでしまって次の日打たれたりしたら、絶対後悔するので。やっぱり最善の準備をしてマウンドに上がりたいんです。何よりも僕のせいで負けるのが嫌なので。その一杯よりも勝利の一瞬を、という感じですね。
■ドラフト漏れに骨折、姉兄の活躍が発奮材料
中川 ここまでお話を伺っていて、本当に落ち着いていて貫禄を感じます。幼少期からそういう性格だったのですか?
大勢 全然(笑)。小さい頃は落ち着きがなくて、ずっと怒られてましたね。例えば、友達と遊んでいて、何かの拍子にケンカを始めて、その友達のお母さんに怒られるとか。
中川 小さい子あるあるですね(笑)。でも、さっき「悔しい」っておっしゃってたので、すごく負けず嫌いなのかと。
大勢 それはありますね。テスト勉強とか全然してないくせに、みんなよりも点数が低いとめっちゃ悔しがるとか(笑)。
中川 ちなみにお姉さん、お兄さんもそれぞれスポーツではご活躍されて。どこか負けたくないという気持ちがありましたか?
大勢 ええ。そもそも、野球を始めたのは兄(翁田勝基[おうた・まさき])がきっかけでしたしね。兄は甲子園に出たので、僕も同じ高校(西脇工業高校)に進んで甲子園に出場したいなと。それに、姉(翁田あかり・長距離走)も陸上界でたくさん好成績を収めていたので、かなり発奮させられましたね。
中川 その負けん気があったからこそ、高校時代のドラフト指名漏れや大学時代の疲労骨折といった逆境を乗り越えられたわけですか。
大勢 そうですね。ドラフト指名漏れも疲労骨折も、それまで自分が積み重ねてきた結果の表れなんだと。自分はまだまだなんだなって。だから、そこからは後悔しないように物事に対して取り組むようになりましたね。
ドラフト指名されたとき、実績がなかったので、この男で大丈夫かっていう空気があったのは僕も感じてました。でも、それが逆に良かったんです。
今に見てろ、というより......認めてもらいたい。その一心で、インパクトを残すためにやってきたんで。シーズン中も応援してくださるファンの声がどんどん増えて励みになりましたし、今後も期待に応えたいです。
中川 今年は悔しさをぶつけるシーズンにしたいという言葉もありましたが......昨年の9月13日、(巨人にとっての)神宮球場での最終戦、対ヤクルト戦は、私も現場で見ていたんですよ。村上宗隆選手が55号を放つ直前、打席に立ったとき、対峙した大勢投手が「村上選手のオーラが見えた」と発言して話題になっていました。
大勢 ガチです。いつもとちゃうなって。本当に「気」が見えたんですよ(笑)。
中川 WBCではチームメイトですが、今シーズン、リベンジに燃えていますか?
大勢 彼とは同い年ですしね。同級生にああいう優れたバッターがいれば、やはり投手としては抑えたいですし、負けたくない気持ちはあります。村上みたいなバッターをどんどん抑えて、自分も成長したいです。
中川 ずばり、大勢投手が目指す理想像は?
大勢 見ていてワクワクするような選手になりたいです。例えば、村上とだったら「三振かホームランか」っていう真剣勝負を繰り広げられるようなレベルの投手が理想です。観客の皆さんが興奮してくれて、今日は球場に来て良かったと思えるようなプレーをどんどん見せていきたいです。
中川 具体的に設定している目標はありますか?
大勢 プロ野球というのは、少なくとも5、6年間、長いスパンで結果を残してこそ評価されると思うんです。この先、しっかり毎シーズン成長を続けつつ、同時に結果も残せるようにしたいです。
●大勢(たいせい)
1999年6月29日生まれ、兵庫県出身。本名は翁田大勢(おうた・たいせい)。兄の影響で小1から投手として野球を始める。西脇工業高時代は2年の秋からエースで4番を担う。プロを志望するもドラフトに漏れ、関西国際大に進学。2021年、ドラフト1位で巨人に入団し、球団初の下の名前のみでの登録となる。昨季は開幕からクローザーを任され、プロ野球新人最多タイとなる37セーブを記録、新人王を獲得した
●中川絵美里(なかがわ・えみり)
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。『Jリーグタイム』(NHK BS1)キャスター、FIFAワールドカップカタール2022のABEMAスタジオ進行を歴任。2023 WBC日本代表戦全試合を中継するPrime VideoではMCを務める。TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週土曜25:00~)のパーソナリティを担当。テレビ東京『ゴルフのキズナ』(毎週日曜10:30~)に出演中