3月9日にWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)本大会の初戦を迎える、栗山英樹監督率いる侍ジャパンの強化合宿。大谷翔平(エンゼルス)はじめメジャー勢4人の合宿不参加を忘れさせるほどの〝ダルビッシュ旋風〟に、ファンも選手たちも熱狂中!
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栗山英樹監督が悩みに悩んだ末、選び抜いた30人のメンバーのうち、国内組とダルビッシュ有(パドレス)が参加して始まった宮崎での強化合宿。現場ではそのダルビッシュが、いきなり圧倒的な存在感を発揮している。
若い選手たちはダルビッシュが投球練習をすれば「すげえ!」を連発。しかも、ひと回り以上も年下の選手にも気を使わせないよう、ダルビッシュのほうからさりげなく、かつ積極的に話しかけるケースが目立つ。
「アドバイスのつもりはなく、情報のシェアです。僕も若い選手たちのことは知らないし、彼らから学べることもありますから」(ダルビッシュ)
そう本人は言うが、特に変化球の握り方、身体の使い方などの話は大好評で、みんなが〝ダル塾〟の塾生というムードだ。栗山監督はこう語っていた。
「(自身がキャスターとして取材した)第1回、第2回大会のときはものすごい緊張感を練習から感じたけれど、今は時代なのか、選手たちはプレッシャーを楽しんでいるように感じますね」
もちろん時代もあるだろうが、それ以上にダルビッシュが進んでメディア対応も行なうなど、注目を一身に浴びていることによる〝風よけ効果〟が大きい。スポーツ紙WBC担当記者が言う。
「その代表格が佐々木朗希(ロッテ)でしょう。もしダルビッシュがいなかったら、どれだけ重圧を感じていたことか。スライダーの握り方など細かな助言も受けているようですが、精神的にもずいぶん頼っているみたいですね」
栗山監督は「全員がキャプテンのつもりでチームを支え、引っ張ってくれることでより大きな力となることを期待したい」と、特定のキャプテンを置かず大会に臨む。だがすでに、その任はダルビッシュが担っている。まとう雰囲気や周囲の反応は、まるでかつてのイチローのようだ。
では、チームの仕上がり具合はどうか? 吉井理人投手コーチは落ち着いた表情でこう語っている。
「投手は順調です。まあ、ブルペンだけでは良し悪しは言えませんけど、それぞれのチームのエース格がそろっている。何も心配していません」
特に、WBC使用球にも問題なく順応している戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、今永昇太(DeNA)の〝第2先発陣〟は、いつ本番を迎えてもいい状態。また、リリーフ陣では大勢(巨人)が目を見張るボールを投げており、抑えかセットアッパーで重要な場面を任されそうだ。
「宮城大弥(オリックス)、松井裕樹(楽天)あたりはまだちょっとWBC球に対応しきれず、制球に戸惑っているかな。でも、好調な投手にあおられることはなく、マイペースで練習できているから本番は大丈夫」(チーム関係者)
野手組では、ジャパンの重圧などどこ吹く風、いつもどおりのリラックスぶりを見せているのが山川穂高(西武)。フリー打撃では本塁打狙いに徹してスタンドの観客を盛り上げ、ダルビッシュの感想を求められれば「顔ちっさいっすね」と爆笑を取る。過去大会の川﨑宗則や松田宣浩とはまた違うタイプのムードメーカーになるかもしれない。
そして〝村神様〟こと村上宗隆。合宿序盤はスロー調整気味だったが、21日には初の実戦形式の練習でダルビッシュからバックスクリーン弾。これで4番当確か。
「テレビで見ていた人ですから。まさか自分が打席に立てるなんて。幸せを感じながら打席に立ってました」
と村上が言えば、打たれたダルビッシュは、
「公開処刑されて悲しいです」
と笑わせた。そして栗山監督もうれしそうにこう言う。
「僕だけじゃなくて、コーチとか選手もワクワクドキドキ。野球っていいなあって。ああいうのがチームの推進力になっていると思います」
ほかにも牧秀悟(DeNA)が持ち前の渋い当たりをレフト、ライトに打ち分けたり、ショートのレギュラー当確の源田壮亮(西武)も打撃に守備に〝名脇役ぶり〟を披露したりと、各自がキャラを生かして存在感を示している。
出だしは十分すぎるほど順調な侍ジャパン。ここに大谷翔平(エンゼルス)はじめ、メジャー組が合流したら――さらにとんでもない騒ぎになりそうだ。