もう、期待しかない! そう言いたくなるほど豪華メンバーが集った日本代表。負けられない戦いの連続を勝ち抜き、3大会・14年ぶりの世界一をもぎ取るためのキープレーヤーは誰か? 確かな経験と眼力を持つおふたりにじっくり予想していただきました!
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■ダルビッシュのどこが「超一流」なのか?
史上最強の呼び声高い栗山ジャパンがいよいよWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に挑む。5チーム総当たりの1次ラウンドから決勝まで計7試合、世界一をたぐり寄せる活躍を特に期待したくなるのはどの選手?
まずは投手陣について、2013年、17年のWBCでジャパンの守護神として活躍した牧田和久(まきた・かずひさ)氏に聞こう。
「今回の投手陣には明確な特徴があります。それは球が強く、かつフォークやチェンジアップのような落ちるボールを武器に三振を取れる投手が非常に多いことです。
僕がマイナーリーグにいたとき、スプリングトレーニング中に『こういう投手がメジャーで成功する』と根拠となるデータ付きで示されたのが、まさにこの条件でした。
国際大会というと、日本では僕のような変則投手が注目されることがあります。しかし今回は、栗山英樹監督やメジャー経験のある吉井理人投手コーチは奪三振能力を重視して投手陣を選出したのではないでしょうか」
その中から、宮崎合宿を視察した感触も踏まえて特筆すべき存在を挙げるなら?
「やはりダルビッシュ有投手(パドレス)ですね。ブルペンでの印象は、非常に球持ちがよく、ホームベース上まで来ても威力が落ちない。変化球も〝ドロン〟ではなく〝ググッ〟と曲がる強さがある。打者の体感的にも速く、鋭く感じるはずです。
また、彼は新しい変化球を〝発明〟するのが好きな投手で、例えばひと口にスライダーと言っても横に曲げたり、縦に落としたり、曲がりを大きくしたり小さくしたりと、何種類も使い分ける。
これは簡単なことではありません。普通ならパフォーマンスが落ちてくる36歳という年齢でもトップに居続けるのは本当にすごいことです」
しかも、メジャーでは中4日、5日が通常サイクルなので、宮崎合宿に初日から参加して時差の影響もないダルビッシュなら2試合に先発してもらうプランが組みやすい。
「先発の中心はダルビッシュと山本由伸投手(オリックス)だと思います。大谷翔平選手(エンゼルス)は帰国がギリギリなこともあり、最初の登板はショートイニングかもしれないですね」
ただ、先発陣が好投しても、WBCには球数制限がある(1次ラウンドは65球、準々決勝は80球、準決勝・決勝は95球)。特に1次ラウンドでは、試合中盤をつなぐ「第2先発」の活躍が不可欠だ。
「合宿では、右の戸郷翔征投手(巨人)の球の強さ、左の今永昇太投手(DeNA)は強さに加え制球力も際立っていました。今永投手は昨秋のオーストラリア戦でもほぼ完璧に抑えましたし、大事な試合で投げるとみています」
WBCで投手の〝難関〟となるのが、NPB使用球とは質感の違うボールだ。ざっくり言えば、滑らかな革質で手になじむNPB球と比べ、WBC球は滑りやすい。今永らは問題なく投げられているようだが、投手によってはこの点が不安要素になる。
「使用球がしっくりこないとリリースの瞬間に最後の〝ひと押し〟ができず、抜け気味のボールが増えます。もちろん修正できるのが理想ですが、そのままの状態で大会が終わってしまうケースもあるので、投手たちも首脳陣もそういうものだと割り切るしかない。
短期決戦ですから、場合によっては見切りをつけて状態のいい投手を重点的に使う必要も出てくるでしょう」
継投が最も緊迫するのは、やはり試合終盤。栗山監督は最初から守護神をひとりに固定するのではなく、相手打線や局面などさまざまな要素を考慮して、所属球団で守護神を務めている松井裕樹(楽天)、栗林良吏(広島)、大勢(巨人)を中心に柔軟に起用するプランのようだ。
「大勢投手も非常に強い球を投げていましたが、僕の印象からすると、守護神の第1候補は栗林投手かなと思います。東京五輪の経験もありますし、プロでの年数も大勢より上。やはり緊迫した場面やイレギュラーな局面でも、経験があるほうがバタバタせず落ち着いて投げられます。
その点、松井投手にはWBC出場経験がありますが、合宿ではボールがしっくりきていないようだったので、本番までにアジャストできるかどうかですね。
まずはリードしている試合を、彼らを中心に勝ち切る。そして、もし延長戦でタイブレークになったら、壮行試合でもタイブレーク時に登板した髙橋宏斗投手(中日)のような若く勢いのある投手に期待するという形になるのではと予想しています」
■鈴木誠也の不在で打線の意識が変わる?
打のヒーロー候補については、近鉄、ヤクルト、巨人などで約30年にわたり多くの主力打者を指導してきた〝神打撃コーチ〟の伊勢孝夫(いせ・たかお)氏にじっくり話を聞いた。
まず、クリーンナップの一角と期待されていた鈴木誠也(カブス)が脇腹の故障で出場を辞退した影響は?
「チームにとっては痛いに違いない。ただ、場合によっては『災い転じて福となす』となるような気もするんですよ」
そう淡々と話す伊勢氏。いったいどういうことか?
「大谷、鈴木、村上宗隆(ヤクルト)、山川穂高(西武)......こう並べるとイメージは一発長打の〝主砲ぞろい〟。ただ、国際大会でそれがハマるとは限りません。またホームランが出てスタンドが沸くと、後続も『ならば俺も』という打者心理に陥りがちですが、それは打線が粗くなってしまう危険な兆候でもあります。
国際大会で優勝するには、むしろホームランを捨ててかかるくらいの意識がいい。結果的にホームランが出るのはいいですが、一発よりも連打での得点が確率も高く、重要だということです。
鈴木が抜けたことで、代わりのスタメンに誰が入るにしても打線はより〝つながり〟を意識するでしょう。それは国際大会の王道であり、日本にとってもプラスになると言えます」
では、具体的にどの選手の活躍を予想するのか? そう問うと、伊勢氏は間髪入れずに大谷の名前を挙げた。
「映像ではありますが、エンゼルスのキャンプやオープン戦を見て、大谷のすごさ、素晴らしさをあらためて実感しました。
ホワイトソックスとのオープン戦初戦、初打席、おそらく初対戦だった左投手の初球を打ち、ものの見事にセンターオーバーの三塁打を放った。普通なら見送る初球の高めのボール球を迷うことなく打ち返したのは、技術とともに思い切りの良さが発揮された一打でした」
■村上、山田、牧に共通する「特性」
また、伊勢氏は国際大会で真価を発揮できる打者の傾向として「どれだけボールを引きつけて打てるか」がポイントになると指摘する。
「メジャーで活躍する北中米の投手たちの多くは、ツーシーム系の沈む球を武器にしています。この球を芯でとらえるには、わずか十数㎝分でも長くボールを見て、引きつけてから打てる打者でないと空振りかゴロに仕留められてしまうからです。
今回のジャパンでは村上、山田哲人(ヤクルト)、牧 秀悟(DeNA)らがまさに『引きつけて打てる』打者です。山田が国際大会で結果を残してきたのも、初球からスイングできる思い切りの良さに加え、この技術的な特徴があるからなんです」
では、タイプ的には合格だという〝村神様〟こと村上の状態はどうか? 伊勢氏が注目したポイントは合宿中盤のフリー打撃にあった。
「仕上がりが遅く、本人も『本調子ではない』とコメントしていたので少し心配していましたが、フリー打撃を見る限り、大事なことをしっかり守っていました。
横で山川などがホームラン競争のように連発しても、誘惑に乗ってむやみに引っ張るようなことはせず、センターからレフト方向に強く叩くことを意識した練習を続けていたんです。
それが数日後、ライブBP(実戦形式の打撃練習)でダルビッシュから放ったバックスクリーン弾につながったと見ています。結果はスタンドインですが、ミートを心がけた粗さのないスイングでした。本番は大丈夫でしょう」
それと伊勢氏がもうひとり、攻撃のキープレーヤーに挙げるのが、走塁のスペシャリスト・周東佑京(ソフトバンク)。
合宿終盤に行なわれた壮行試合では、同点の9回にレフト前ヒットで出塁すると次打者・源田壮亮(西武)の初球で二盗に成功し、捕手がもたつく間に三進、そして源田のヒットで生還。1死一塁の場面から、わずか2球で勝ち越しに成功したのだ。
「まさに周東にしかできない走塁。代表戦で初球から走るのは相当勇気がいります。ひとつ間違えばチャンスを潰す。しかし成功すれば一気にムードが変わる。ゲームチェンジャーの役割です。接戦が多いと想定すべき国際大会で、こうした点の取り方はホームランより頼りになるはずですよ」
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WBC開幕を控え、各メディアでは過去大会の名シーンが繰り返し取り上げられているが、実は準決勝で敗退した13年、17年の大会には共通点がある。どちらも日本でのラウンドを接戦で勝ち抜いたものの、渡米後の初戦にロースコアで敗戦しているのだ(13年はプエルトリコに1-3、17年はアメリカに1-2)。
両大会に出場した前出の牧田氏はこう振り返る。
「06年、09年大会とは違い、13年大会からは、アジアで第1ラウンドを戦うグループは第2ラウンド(ベスト4決定)まで日本で戦い、決勝ラウンド(準決勝以降)のみアメリカで行なう方式になりました。これは2連覇していた日本が不利になるようなルール変更だったと思います。
06年と09年の大会では日本も第2ラウンドをアメリカで戦っていたので、緊張感をそのまま保ちながら決勝ラウンドに臨むことができたのではと想像します。
しかし13年、17年は日本で第2ラウンドを戦ってから移動し、米アリゾナ州フェニックスで数日調整した後に決勝ラウンドという形でしたので、緊張感が少しほぐれてしまった中での準決勝だったかなと思います」
大会のルールはすでに決まっている。ならば、最も大切なことは?
「〝鈍感力〟ですかね? 神経質になりすぎるといろいろと戸惑うことがあると思うので、いい意味での鈍感力です。とにかく自分のパフォーマンス、日本の野球を見せつけてほしいと思います」
ジャパンの実力と〝鈍感力〟を信じて、全力応援!
●牧田和久(まきた・かずひさ)
2013年、17年とWBC2大会連続でジャパンの守護神を務め、計8試合に登板し2勝3セーブと大活躍したアンダーハンド右腕。西武、米パドレスと傘下マイナー、楽天、台湾・中信兄弟でプレーし昨季限りで引退。NPB通算345試合55勝51敗27セーブ
●伊勢孝夫(いせ・たかお)
現役時代は勝負強い打撃で"伊勢大明神"の異名を取り、近鉄、ヤクルトで活躍。引退後は多くの球団で約35年にわたり、打撃コーチを中心にコーチ、フロント職を歴任した職人的野球人。タフィ・ローズやバレンティンを"日本仕様"に仕立て上げたことでも知られる