正捕手として東京五輪優勝を経験した甲斐(右)とヤクルトで2年連続日本シリーズ出場を果たした中村(左)正捕手として東京五輪優勝を経験した甲斐(右)とヤクルトで2年連続日本シリーズ出場を果たした中村(左)

投手や内外野の充実ぶりと比べると、やや物足りない印象もぬぐえないWBC侍ジャパンの捕手陣。甲斐・中村・大城の最善の運用法とは?

■ミスのない甲斐か、戦略性ある中村か

3大会ぶりのWBC制覇を目指す栗山ジャパン。投手陣を牽引(けんいん)するダルビッシュ有(パドレス)、二刀流の大谷翔平(エンゼルス)、主砲の村上宗隆(ヤクルト)らを筆頭に「歴代最強」の呼び声も高い。

そんな中で気になるのは扇の要、甲斐拓也(ソフトバンク)、中村悠平(ヤクルト)、大城卓三(たくみ/巨人)の捕手陣だ。「MLBでも正捕手だった城島健司(元マリナーズ)、4番も務めた阿部慎之助(元巨人)らがいた過去大会と比べてネームバリュー的に物足りない」といった声も耳にする。

そこで、投球や配球などのピッチングだけでなく、捕手に関しても一家言ある野球評論家のお股ニキ氏に、今大会の捕手運用について解説してもらおう。

まずは3捕手の立ち位置や特徴を改めて整理する。パで6年連続ゴールデン・グラブ賞受賞の甲斐拓也はどうか?

「日本シリーズ4連覇に東京五輪金メダルと優勝経験は豊富です。強肩に加え、ミスの少なさが特徴で、体の丈夫さを生かしたブロッキングも大きな強み。今大会では大谷と佐々木朗希(ろうき/ロッテ)をはじめ、宇田川優希(オリックス)や栗林良吏(りょうじ/広島)など、落ちる球を武器にする投手が多く、ブロッキングに定評のある甲斐の存在は重要視されるはずです」

ただ、甲斐には強み以上に気になる点もあるという。

「昨季打率・180の打撃面、そしてフレーミング技術は大きな課題です。今季からフレーミングの習得に取り組み始めましたが、急ごしらえでは本番の要所でパスボールなどの致命傷を負うリスクもあり、さじ加減が求められます。

そして、配球面で柔軟性がない点も気になります。どの投手にもストレートを要求する割合が高く、ひとつの球種にこだわりすぎる傾向があります。幸いにも、今大会の投手陣はストレートの質が高く制球もいいので、その配球が功を奏すかもしれませんが」

配球面で期待が大きいのは、野手最年長(32歳)の中村悠平だ。

「中村は配球面や戦略性の部分でいやらしさ、滑らかさのあるキャッチャーです。また、打撃も勝負強くて自分の仕事ができます」

そんな中村と甲斐には両極端な傾向もあるという。

「タレントの少ないヤクルト投手陣をリードしてセ・リーグ連覇に導くなど、いわば弱者をなんとかするのが中村。対して、ソフトバンクという強者で守り続けてきたのが甲斐。その意味で、強者の集まる代表キャッチャー向きなのは甲斐なのかもしれません」

■「打てる捕手」大城。本当の評価と期待

ちなみに、ファンの間で待望論が大きかったのが、森友哉(ともや/オリックス)だ。移籍直後という事情もあってか選出されなかったが、お股ニキ氏はどう評価するのか?

「打撃の印象が強いですが、実はリード面など捕手としての資質も高い選手。昨年11月の強化試合でも森の配球が一番よかった。総合力の高い選手なので、代表にいれば心強かったのは間違いありません」

首位打者経験もある打撃面での期待も大きかった森。過去のWBCを振り返っても、打率4割超でベストナインに輝いた2006年大会の里崎智也(元ロッテ)、打率チーム1位と打ちまくり、「世界の小林」と呼ばれた前回大会の小林誠司(巨人)と、攻撃面での活躍も目立っただけに、今大会はどうなのか?

「小林は出来すぎなケースですし、捕手が打ちまくったからといって優勝できたわけではありません。ただ、甲斐と源田壮亮(げんだ・そうすけ/西武)が8番、9番と並ぶ打線は少し物足りない印象があります」

そこでカギを握るのが大城卓三の存在だ。当の本人も「ビックリしました」と語ったサプライズ選出の狙いは何か?

「大城はかなり独特な選手で、森と同様に攻撃の選手というイメージに反して、実は捕手としてフレーミング、ブロッキング、スローイングの基本性能が非常に優秀です。周囲のサポートも重要になると思います」

巨人の捕手として、阿部慎之助以来となる2年連続2桁本塁打を記録した大城巨人の捕手として、阿部慎之助以来となる2年連続2桁本塁打を記録した大城

それでも、巨人の捕手では阿部以来という2年連続2桁本塁打のパンチ力は、甲斐と中村にはない魅力だ。

「勝負どころでは甲斐や中村にも躊躇(ちゅうちょ)なく代打や代走を送ることが可能になりますし、スタートからも使えます。すくい上げる打撃スタイルなので、特に東京ラウンドの中国やオーストラリアの投手が投げがちな140キロ前後の沈む2シームをしっかり打ってくれる可能性が高いです」

■過酷な国際大会でのベストシナリオは?

では、WBC本番でどのように捕手を運用していくべきなのか。例えば、パの投手には甲斐、第2先発や救援陣の多いセの投手には中村、といった選択も想定できるが?

「そのやり方もありだと思います。ただ、より重要なのはリーグの違いよりも投手ごとの傾向で組ませること。大谷や佐々木のように球速と落ちる球が武器の投手には、後逸しない甲斐が合う。対して、『大勢(巨人)ならこのへんに構えよう』『今永昇太(DeNA)ならストレートが多くても大丈夫』など、柔軟性は中村のほうがあります」

初見の相手が多く、重圧も大きい国際大会。捕手の疲労度は計り知れないため、ひとりに頼り切らない運用をすべき、とお股ニキ氏は提案する。

「捕手は過酷で、体力以上に頭と心が疲れます。9回までひとりに任せる必要もなく、試合終盤で『抑え捕手』を使ってもいい。ソフトバンクが日本シリーズを連覇していた頃は、8、9回を甲斐に代えて髙谷裕亮(たかや・ひろあき)が守ることが多かったのと同じ考えです。

また、大城が終盤で代打起用された後、遜色ないレベルでしっかり守れるかも重要になる。その意味でも、中村は試合に出なかったとしても、味方目線からの情報共有やアドバイスなど、甲斐と大城のサポート役として重要な立ち位置になりそうです」

課題も確かにあるだろうが、甲斐と中村の頼もしい点といえば短期決戦に強いこと。甲斐は東京五輪で打率チームトップ、中村も2021年日本シリーズでMVPと、共に一度当たり出せば止まらなくなる。その大当たりがWBCで出てくれることを期待したい。