藪氏が「モノが違う」と絶賛する高卒2年目の右腕・森木。首の張りで出遅れたが、2軍春季キャンプでは100球前後まで投球数を増やした藪氏が「モノが違う」と絶賛する高卒2年目の右腕・森木。首の張りで出遅れたが、2軍春季キャンプでは100球前後まで投球数を増やした

「今年の阪神は穴がない」

今季の阪神タイガースをこう高く評定するのは、藪 恵壹(やぶ・けいいち)氏だ。〝暗黒時代〟の阪神を支えた元エースは、猛虎集団の戦力に太鼓判を押す。

思えば、昨季は苦い記憶が残るシーズンだった。歴史的な開幕9連敗から、なんとか最後はAクラスでフィニッシュ。ファンの期待を大きく裏切った。

今季は岡田彰布(おかだ・あきのぶ)新監督を迎え、18年ぶりのリーグ優勝に向けて虎視眈々(こしたんたん)と逆襲を狙う。ただし、優勝争いのためには戦力の上積みも必要だ。藪氏が語る、期待の〝若虎〟の現在地に耳を傾けた。

「もうね、モノが違う。入団当初の藤川球児よりも彼ははるかに高いレベルにいます」

かつての名ストッパーを引き合いに藪氏が絶賛するのは、高卒2年目のドラ1右腕、森木大智(19歳)。その才能は、ルーキーイヤーのキャンプから際立っていた。

「彼のキャッチボールを見て衝撃を受けました。投手陣が並んでボールを投げる中、彼だけ『ビュン』と風を切る音が聞こえてくるんです。『これは相当いいぞ』と。中学時代から150キロを計測していただけあり、腕の振り方、体の使い方が抜群にうまい。ここまで完成度が高い高卒投手は記憶にないレベルですね」

かつて〝スーパー中学生〟として話題になった森木。今季は首の張りで出遅れたが、素質は疑いの余地がない。長いシーズンで必ず頭角を現すはず、と藪氏は続ける。

「球団的にも隠しているんじゃないか、と(笑)。ストレートの質は圧倒的、コントロールも素晴らしく、馬力も申し分ない。あとは落ちるボールの精度が上がれば、手のつけられない投手になっていくはず。最近は高卒2年目でブレイクする投手も多く、彼にも期待したくなります」

青柳晃洋や伊藤将司、西 勇輝、岩貞祐太らがそろう先発陣は球界でも屈指。ここに秋山拓巳や移籍組の大竹耕太郎、若手や外国人が絡んでくるなど競争は激化している。しかし、藪氏は森木の起用方法についてこんな提言をする。

「正直、先発陣はつけ入る隙がほとんどない。私は『7回・森木』が面白いとみています。岡田さんは7回をかなり重視する方で、ここに森木がハマってくれば層が厚くなる。投げているボールの質を見れば、すぐに出てきても驚かないくらい能力がある投手です」

森木以外でも才木浩人(24歳)西 純矢(21歳)ら期待の若手もローテ争いに加わってきそうだ。彼らに対しては、「まだまだ競争する立場にいる」とした上で、その素質には高い評価を与えている。

「西(純矢)は昨季に才能の片鱗(へんりん)を見せましたが、まだ粗い部分も目立つ。コントロールに課題がありますが、ボールの強さは目を見張るものがあります。体が丈夫な選手でもあるので、キッカケひとつで大きく化けてもいい。

才木もケガで苦しんできましたが、今季にかける思いは強いです。彼とはキャンプで話しましたが、試行錯誤しながらやっていました。正直、もっともっと上を目指せる投手。素材は間違いないだけに、まずは無事にシーズンを投げ切ってほしいですね」

桐敷拓馬(23歳)村上頌樹(24歳)も1軍の座を狙ってブルペンに控えている。

「馬力がある投手が多い中、彼らは変化球とコントロールで勝負すべき選手なので制球を磨いてほしい。個人的に、ドラフト6位ルーキーの富田 蓮(21歳)は面白い存在だと思う。コントロールが良く、左の中継ぎとしてすぐに出てくるとみています。彼らの突き上げが、優勝を目指す上で大きな力となるでしょう」

野手陣に目を向けると、3番と6番を打つ打者がカギを握りそう。新外国人に外野手のシェルドン・ノイジーとヨハン・ミエセスを補強。主軸を担うとみられているが、藪氏はふたりの若手打者に注目する。まず名前を挙げたのは、大卒ドラ1のルーキー、森下翔太(22歳)だ。

「森下は『確実性が高いバッティングをする選手だな』という印象です。ひと言で言うなら、広角に打ち分けるアベレージヒッタータイプ。

思っていたよりも長打が期待できる打者ではないですが、その分、率は残しそうで勝負強いバッティングをする。足と守備もそれなりに良く、シーズンを通して安定した成績を残しそうに映ります」

岡田監督はノイジーを高く評価しているが、すでに結果を残し始めている森下も「十分にスタメンを争える力がある」と藪氏は言う。彼が主軸を担えばチーム編成も楽になるだけに、首脳陣もチャンスを与えそうな雰囲気がある。

そして、「最も期待する打者」と藪氏が熱を込めるのが、今春のキャンプの対外試合で3本塁打を放った井上広大(21歳)だ。2軍ではすでに圧倒的な数字を残し、キャンプの野手MVPにも選出された。この履正社高校出身の大砲は、今のチームに足りない要素を補う存在になりうる。

「井上の魅力はなんといってもホームラン。あれだけ振れる選手は希少です。長打を期待できる日本人が、大山(悠輔)と佐藤(輝明)だけでは打線の怖さが足りない。井上も今年で4年目。そろそろ出てきてほしい選手です」

現状では森下、新外国人との競争が見込まれるが、課題である得点力不足解消のために、井上の長打力は「あまりに魅力的」だという。

「遠くに飛ばす能力は天性のもの。その点では、現在の野手陣でも屈指です。まだまだ粗削りですが、打席の内容も非常に良くなっている。

確実性や率を残すという点では森下が上でしょうが、井上には甲子園でも30本を打てるパワーがあり、相手投手にかける〝圧〟がある。彼が中軸を担うようになれば、タイガースはおのずと強いチームになっているでしょう」

近未来、投打の中心となる森木と井上の存在は、猛虎の起爆剤となるだろうか。